謙虚な男の有言実行

 有言実行-。口にしたことは何が何でも成し遂げるという意味の言葉だが、実際に事を成すのは簡単ではない。定めた目標が高くなればなるほど、達成は困難になる▲先日、その最高レベルの目標を有言実行したアスリートが現れた。ライフル射撃の松本崇志選手(県立島原工高-日大-自衛隊)は「東京五輪は出る。狙いはその先にあるメダル」と言い続け、初の代表切符をつかんだ▲ただ、だからといって、彼がビッグマウスというわけではない。周囲の誰もが認める謙虚な人間で、言葉で自己アピールしているところなど見たことがない▲性格もいたって温厚。2時間半以上も50メートル先の的を狙って撃ち続けるという競技の性質上、私生活でも感情の起伏を抑えながら、精神力の向上に努めているという▲今回、そんな35歳が出場宣言した背景には、自らを追い込むという意図があった。彼は2008年北京五輪から、3大会続けて代表レースで落選。それもすべて紙一重の差で。東京は「最後のつもり」という位置づけで、実に12年越しの目標達成だった▲出場を決めた日、彼は電話でこう言ってくれた。「応援してくださった長崎の皆さんに喜んでもらうためにも、メダルを取りにいきます」。普段、多弁ではない男の有言は、すがすがしく、重みがある。(城)

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