ソフトバンクの女性「出世頭」、心ない言葉から救った相手

 「社外メンター」が広げる可能性

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 ソフトバンクの課長久保田桃子さん(33)は課長職になって早くも3年目だ。所属は「営業第三本部、第1営業統括部、東関東営業部 営業1課」。首都圏のソフトバンクショップ運営のサポートや、代理店の新規開拓を担う。この部署の課長19人のうち、女性は久保田さんただ一人。若い社員が多い社内で「出世頭」ともいえる存在だ。そんな彼女も、かつては男性の上司や同僚らから心無い言葉をかけられ、プレッシャーと不安から自分を見失いかけた時期があったという。それを乗り越え、エースとして活躍する彼女を支えたのは何だったのか、探った。

社外メンターの梶本由美さん(右)と話すソフトバンクの久保田桃子さん=6月、東京都内

 ▽心無い言葉

 「課長になってみないか?」

 入社7年目のある日、考課の面談で上司から突然、こう打診された。社内では、営業職の「女性はすぐやめる」とささやかれていた。戸惑いもしたが、認められた気がしてうれしかった。

 不安もあった。販売代理店の営業を担当する部で課長になった女性はいない。いずれは結婚し、できれば子どもを持ちたい。家庭と両立できるのか。男性上司が深夜、早朝も気にせず働く姿を見ていて「無理そう」としか思えなかった。

 当時交際していた男性(現在の夫)からは「やりたいと思うならやってみたらどうかな」と背中を押された。「1年やってみて、それから考えよう」。覚悟を決めた。

 課長昇格は2016年、30歳の時。後輩の女性たちは、自分のことのように昇進を喜んでくれた。「自分が課長になれば、後に続く女性も出てくるかもしれない」。そんな「責任感」に近い思いも湧いた。

 一方で先輩や同僚からはこんな言葉を投げかけられるようになった。「いいよね、女性だから(課長に)なれたんでしょ」「何も考えてないのに、よくなれたね」

 笑ってその場をやり過ごしたが、ショックだった。確かに、自信があったわけでもなかった。

 ▽思い悩む日々

 「壁」は早々にやってきた。業績が伸び悩み、「上司として、部下のマネジメントのやり方がまずいからではないか」と思い悩んだ。

 「部下をどう育てればいいか分からない」。ある日、思い切って男性上司に相談した。返ってきたのは「もっと怒った方がいい」。だが元々、怒るのは苦手な性格だ。「周りの男性課長のように、もっと『怒鳴って』指導しないと、業績は上がらないのではないか」

 そんな時、転機が訪れる。仕事上の悩みを社外のプロのメンターに相談できる仕組みが、社内で女性の管理職を対象に作られることを知った。

 そもそも管理職となった女性と知り合う機会はない。部下をどう育成しているのか。ヒントを得たいという気持ちで、迷わず手を上げた。

 相談相手は梶本由美さん。九州電力で約30年間勤務し、営業の第一線にも携わった管理職経験者だ。「性格を変えなくちゃ、このままでは成果は出ないんじゃないか」。不安を打ち明けると、梶本さんから笑顔でこう提案された。「対話を重視するところがあなたの強み。そのままでいい」

 心のモヤモヤが消えた。「社内のどこかに漏れ伝わるのでは」という不安もない。安心感が心地よかった。

 「人のまねをしなくても、私にしかできないやり方を武器としてやっていけばいい」。以前はなかった自信がいつしか生まれ、社外メンターという「駆け込み寺」は心のよりどころとなった。

 ▽管理職経験+人生経験=社外メンター

 社外メンターとはどんな人たちなのか。ソフトバンクなど法人向けのメンター派遣サービスを手がける「MANABICIA」(東京)に聞いた。

「MANABICIA」の池原真佐子代表

 同社に在籍するメンターは30~60代の女性約20人。企業の管理職の経歴と、育児や介護、学び直しなどさまざまな人生経験を併せ持つ。コーチングの研修も受けており、依頼者側の業務や性格に合わせて派遣される。

 池原真佐子代表(38)は「時短勤務などの制度は社内で整いつつあるが、内面に寄り添う相談相手が身近にいないことが、女性の管理職登用の壁になっている。働き方の多様化に伴い、内面のケアを重視する企業が増えている」と話す。

 ソフトバンクが社外メンターを取り入れたのはなぜか。きっかけは、女性社員へのアンケートだった。「リーダーを目指したいか」と尋ねたところ、大半が「目指したくない」と回答。その多くが「なれる自信がない」を理由に挙げた。

 「ダイバーシティー(多様性)こそイノベーションの鍵」とうたうものの、ソフトバンクの管理職全体のうち、久保田さんのような女性はわずか6・2%だ。

 人事本部の日下部奈々さんは「経験や知識が豊富なプロの視点を取り入れることは、会社の変革期には欠かせない。傾聴のスキルを持った専門家から客観的な気付きを得たことで、仕事に前向きに取り組めるようになったと答える女性のリーダーは増えた」と話す。将来的に社内メンターの育成につなげたい考えだ。

 ▽組織の枠超えて

 NPO法人「アーチ・キャリア」(兵庫県尼崎市)の井本七瀬代表(35)も、出産を機にキャリアに思い悩んだ一人だ。昨年まで勤務した人材紹介会社では、時短勤務で初となる管理職を経験。充実していたが、退職して現役の女性管理職約30人が在籍する社外メンターのマッチング事業を始めた。

「アーチ・キャリア」を利用してオンラインでメンターと話す女性

 「子供を育てながら働き続けられるのだろうかと不安だったが、支えになったのは、職場は違うけれど一歩先を行く『同性の先輩』からの等身大のアドバイスだった」。メンターとの面談は地方からも参加できるようすべてオンラインで行う。

 組織の枠を超えて、女性のキャリアを後押しする動きは広まりつつある。女性の管理職登用に詳しい三菱UFJリサーチ&コンサルティングの矢島洋子執行役員(53)はこう話す。「社内で数少ないロールモデルを社会で共有する取り組みは有効。働き続けるために、育児や介護など制約ある働き方をする人も適切に評価されるよう、社内で仕組みを整えることも重要だ」(共同通信=尾崎薫子)