【美女の乗るクルマ】-scene:22- Jaguar I-PACE × 神尾美月

Jaguar I-PACE × 神尾美月

この人とまた会いたい。その時、その場でそう思った。

Jaguar I-PACE × 神尾美月

見合いの場に遅れてくる人はなかなかいない。しかし彼女は10分ほど遅刻し、息を切らしながらその場に現れた。24歳だという彼女の見た目は、年齢より若く、10代のようにも見えた。身なりはちゃんとしていて、こぎれいだったが、私からすると垢抜け過ぎている嫌いがあり、今回も両親を悲しませる結果になるかなと思った。

そもそも遅刻の理由が、会場へ来る道中、道路で足をくじいて座り込んでいたおばあさんに手を貸していたという。そんな、今時マンガでもありえないようなシチュエーションはないだろうと、その時は到底信じられなかったが、こうして何度かデートを重ね、彼女のことをだんだんと知っていくにつれ、あの話は本当だったに違いないと思えるようになった。

Jaguar I-PACE × 神尾美月

見合いの厳かな時間が進むなか、彼女と言葉を交わしてみると、どうやら初対面の人と話すのはあまり得意ではないらしい。それほど口数は多くなかったが、食事の取り方、座っている姿勢、ご両親や私の親と話す時の口調などから、中身は礼儀正しくしっかりしている人なのだとわかるまで、そう時間はかからなかった。

この人とまた会いたい。その時、その場でそう思った。そして、見合い中に面白い話のひとつもできなかった私がその旨を告げると、意外にも彼女はにっこりと微笑んでくれた。それから、彼女と何度かデートを重ねることになる。

Jaguar I-PACE × 神尾美月

彼女は彼女の母親と同様、ピアノの教師をしている。音楽を生業にしているだけに、人より耳がいいらしく、私の話を聞き逃すことがない。どちらかといえばボソボソと話しがちな私と会話がしっかり成立するのでありがたい。

そういえば、初めてこのジャガー Iペイスでデートをした時も、EVならではの静粛性にびっくりしていた。

美月:「あれ、このクルマ、エンジンの音がしない」

私 :「EV(電気自動車)なんだよ」

美月:「へえ、これがそうなんですね。ウチにもPHEVってのはあるけど、あれはエンジンも付いてますもんね」

私は軽くうなずき、本当は「最高出力200馬力の電気モーターを前後に1基ずつ搭載する四駆なんだ」と説明したかったが、ヲタクだと思われたくなかったので、口をつぐんだ。

すると彼女は、にっこりと微笑みながら、

美月:「いま、何か言おうとしてましたよね。もっとクルマのお話、聞かせてくださいよ」と言ってくれた。

思ったことを正直に口にすることこそ、コミュニケーションで最も大切なこと

Jaguar I-PACE × 神尾美月

彼女は、身体が細いのに、結構、食べる。一度、ディナーで一緒に焼肉を食べに行った時には、恥じらいの表情を見せつつも、明らかに私より多く肉を食べていた。さらに、後で彼女本人から聞いたのだが、どうやら見合いに来た一番の理由というのは、見合いの会場が、オープンしたばかりだった表参道のレストランで、そこのイタリア料理が目当てだった為らしい。

当たり前だが、EVはガソリンを消費しない。私はIペイスを買うまでガソリンをかなり消費する類のクルマにばかり乗っていたので、なんだか拍子抜けしていたのだが、彼女のようにたくさんご飯を食べてくれる人を見ていると安心する。彼女は美味しいものを美味しそうに食べてくれるので、見ているこちらも、つい優しい表情になってしまうのだ。

Jaguar I-PACE × 神尾美月

腹がふくれるほど料理を食べた後は、運転も慎重に行う。Iペイスの電気モーターは加速が鋭く、ガソリンエンジンのようにアクセルペダルをグイッと踏み込んでしまうと、身体がのけぞるほどの加速力を持っているからだ。

ただ、慎重に走っていると、彼女はこう言った。

美月:「なんだか今日の運転、優しいですね」

音感が優れている人は、Gに対する感覚も優れているのだろうか。

それとIペイスは、アクセルペダルを戻すだけで回生ブレーキが発生するのだが、彼女は助手席にいながら、「これは普通のクルマのブレーキとフィーリングが違いますね」とか、「クリープ現象っていうんでしたっけ、あれがないですよね」とか、クルマ好きでもわからないようなことを感じ取り、はっきりと口にする。

Jaguar I-PACE × 神尾美月

ちなみに、Iペイスはの回生ブレーキには「ハイ」と「ロー」があってどちらか選ぶことでき、クリープの有無も選べるのだが、これを後から彼女に説明すると感心していた。彼女は「なんでも話してほしい」、「知らないことを知ることは楽しい」と言う。思ったことを正直に口にすることこそ、コミュニケーションで最も大切なことなのだと、彼女に教えられた。

しかし、前回のデートの時、正直過ぎることも罪だと、ガツンと思い知らされた。その日、本当にすまなそうな顔をした彼女がこう切り出してきたのだ。

美月:「実は黙っていたことがあるんです……」

彼女に男としての“幅の広さ”を感じさせることができていたのだろうか。

Jaguar I-PACE × 神尾美月

曰く、彼女には恋人がいるという。

恋人がいるまま私と見合いをして、その後も私と何度も会っていた。その恋人とは別れる寸前のような関係ではあるものの、はっきりと縁を切っているわけでもなく、私に誘われると断れずにデートをし、常に心苦しさを感じていたようだ。

私は、そのように告げられても、まったく動じなかった。いや、私の心は、私自身の感情と切り離されていたかのように、前を向いていた。むしろ、やはり彼女は性格がいい人なのだと安心したくらいだった。悪い女なら、きっとそんなことをわざわざ説明しないだろう。美味しい食事だけ食べまくり、適当なところで自然と連絡を取らなくなるに違いない。

Jaguar I-PACE × 神尾美月

その時、私は気づいた。私は、神尾美月のことが好きなのだ。陳腐に聞こえてしまうかもしれないが、好きが高じて、もはや愛していた。

「幅が広いですね」

一度、彼女にIペイスを運転させてあげたことがあったが、ステアリングを握っただけで、こんな風に感じ取れることに驚いた。私は知っている限りの知識で彼女に説明してあげた。

「床下に大容量のバッテリーを敷くために、このようなボディサイズになっているんだ。けど、おかげで低重心だから走りがいいし、ホイールベースも長くて室内スペースが確保できる」

なんだか言いたいことを言って、満足した私に、

「幅が広いって、なんだかいいですね」

Jaguar I-PACE × 神尾美月

出会ってから数ヶ月、私は、彼女に男としての“幅の広さ”を感じさせることができていたのだろうか。結論を出すのは彼女だ。ただ、私は彼女と会えたことを意味のないものにしたくなかった。そして、これからも、この人を愛し、いつくしんでいきたい。

その純粋な思いから、彼女にこう告げた。

「その人と別れたくなければ、それでもいい。ただ、あなたの食事をする姿を見続けていたい。だから、これからも一緒に食事をしにいってくれないか?」

私の問いかけに、彼女は微笑みで答えてくれた。

───あれから1年が経ったが、美月とは、一緒になった今でも、月に一度はIペイスに乗り、あの表参道のレストランへ足を運んでいる。

[Text:安藤 修也/Photo:小林 岳夫/Model:神尾 美月]

Bonus track

1995年5月15日生まれ(24歳) 血液型:O型

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