犯罪被害者の孤独訴え 娘亡くした父が横浜で講演

犯罪被害者支援のあり方を説く渡辺さん=横浜市西区

 犯罪被害者の支援のあり方を考える集いが15日、横浜市西区の市西公会堂で開かれた。長女を殺害され、心労から妻も失った渡辺保さん(70)が講演。孤独を深めた妻の言葉を紹介し、犯罪被害者と「事件の前と同じように、普通に接してほしい」と訴えた。

 渡辺さんの長女美保さん=当時(22)=は2000年10月、帰宅途中に中学の同級生だった男=殺人罪で無期懲役が確定=に車ではねられた上、首を刺されて殺害された。

 妻の啓子さんは娘を殺されたショックから心的外傷後ストレス障害(PTSD)に。06年8月、横浜市瀬谷区内の踏切で電車にはねられ、53歳で命を落とした。被告の控訴棄却を言い渡した控訴審判決を目前に控えた頃だった。

 「分かり合えるのは家族だけ」。渡辺さんの耳には今も、啓子さんが口にした言葉が残っている。周囲からの連絡が途絶えた頃だった。

 「2人を殺害されたと思っている」「守りきれなかった自分を責めている」。事件をそう振り返った渡辺さんは、犯罪被害者との接し方について「普通に以前と同様に接すれば、気持ちは通じる」と説いた。

 渡辺さんは事件後、「全国犯罪被害者の会(あすの会)」(18年解散)に参加し、自身の経験を伝え続けてきた。今年4月に横浜市が施行した「市犯罪被害者等支援条例」にも関係懇談会の委員として携わった。

 渡辺さんは、犯罪被害者を支援するための条例を制定しているのは今年4月1日時点で17道府県などにとどまると説明し、「まだまだ先は長い」と指摘した。

 また講演後に行われたパネルディスカッションで、渡辺さんは「事件後、(被害者側からの)SOSは困難。支援者からのアプローチが大切」と述べた。

 県と市の主催。犯罪被害者週間(25日~12月1日)を前にした取り組みで、約300人が聴講した。

© 株式会社神奈川新聞社