プリンセス プリンセス「友達のまま」幸せにはなれないけど、負け戦にはドラマがある 1989年 11月17日 プリンセス プリンセスのアルバム「LOVERS」がリリースされた日

甘くて痛い女の子の独り言、プリプリの「友達のまま」

 言わないつもりの言葉を
 いつまで覚えてるの

苦しくてたまらないフレーズが特徴的なこの歌詞は、1989年11月17日発売プリンセス プリンセス4枚目のアルバム『LOVERS』の中の一曲「友達のまま」の一節である。

タイトルの「友達のまま」とこの一節が合わされば描かれているのは、男友達を想う女の胸の内だとすぐにわかるだろう。

言わないつもりの “その” 言葉を言えば2人の絆が終わってしまう。友達のままでいれば、それが終わることもない。このままの関係の心地よさと切なさの板挟みに胸が苦しくなる。

そんな何度もラブコメで描かれてきたような情景も富田京子の作詞で描かれてしまえば鮮やかに胸の内に飛び込んでくる。

私はこういう “男友達を好きになる” というシチュエーションの曲が大好物で、特に、プリプリの「友達のまま」は立ちのぼる恋の甘さがいじらしくてたまらない。

時として幸せな恋の甘美な味わいよりも、苦味のある片想いの味の方が、クセになってしまうことがある。そういう、目を閉じればどっぷり恋の世界に浸れる、世界中で自分1人だけで彼を想っているような、甘くて痛い女の子の独り言をプリプリは見事に歌にしたためている。

ガールズバンドの頂点、女子にしか歌えないプリプリのセツナソング

 見慣れてる 広い背中
 少し後を歩く

歌い出しのAメロから、歌詞もメロディも痛いほど切ない。見慣れた彼の後ろ姿を追いかけるこの歌の主人公が見ているビジョンが、自分の目にも浮かぶ。流石ガールズバンドの頂点プリプリの曲だ。女子にしか歌えない曲だ、と思う。

たった5分の一曲の中に2人の関係性や、彼のことを好きな女の子の想いが情感豊かに詰め込まれている。

 一度きりのふざけてた キス
 もう忘れてるでしょう

このフレーズに、ウブだった高校の頃の私は「付き合ってないのにキスをする」の意味がわかっていなかった。今なら、一度きりのふざけてたキスがあることも、そして「友達のまま」に出てくる男が一度きりのふざけてたキスをするような男であることも容易に想像できる。

そして、そういう男はそれももう忘れてる、とも思う(笑)。

 遠くに港が見えてる
 約束もないままに
 高速おりればすぐそこ
 おやすみのドアの前

彼の助手席に座りながら、「言わないつもりの言葉」を何度も頭の中で繰り返してしまう、女の子の描き方がたまらない。

胸が “きゅー” っと、切なくなる。

今日も想いを言い出さずに、「おやすみ」と言ってドアの前まで送ってくれた彼を見送るしかない。タイムリミットが迫る中、焦りつつも、言い出さないようこらえる様子はいじらしいにもほどがある。

車の揺れと、カーステレオから流れる音楽、言い出せない恋心。89年に歌われた情景は、今年23歳の冬を迎える私にも色褪せることなく伝わって、女心というものは30年経っても、変わらないものなのだなあと、しみじみ思う。

恋は事故のようなもの。幸せにはなれないけれど、負け戦にはドラマがある?

幸せな恋をしたいのなら、貧乏くじを引きに行ってはいけない。自分に興味のない男友達を好きになってしまうよりも、互いに惹かれ合ういい感じの人を好きになった方がいい。

だけど、時として恋は事故のようなものだから、好きになってしまうことがある。そういう逆らえずに引いてしまう貧乏くじの一つとして、「男友達を好きになってしまう」があると思う。

幸せにはなれないけれど、負け戦にはやっぱりドラマがあるなあと、「友達のまま」を聴くと度にしみじみ思う。

幸せになれないことにいつまでも酔いしれるほど人生は長くないのだけれど、たまにはこういう曲を聴きながら “片想いごっこにふけるのも悪くないな” と、高校の頃より少し大人な目線で聴けるようになった今日この頃ある。

カタリベ: みやじさいか

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