晴朗な心延え

 いい響きだな、と思う言葉の一つに「心延(ば)え」というのがある。人の言葉やしぐさに表れる志や心境をいう。「延え」とは心の働きを「外に及ぼすこと」らしい▲自分がどうにかしなくちゃいけない。不遜ながらも胸の内をお察しすれば、最初はそんな思いだったのだろう。V・ファーレン長崎の高田明社長がおととし4月に就任したとき、チームは多額の赤字を抱えて危機にひんしていた▲どうにかしなきゃ、という志は外にあふれ出て、その心延えはチームにも、県民にも伝わったに違いない。チームは目覚ましい活躍でJ1に昇格し、誰もが「再建」の文字を心に刻んだ▲惜しくもJ2に逆戻りしたが、普通ならスポンサー離れがあるのに、V長崎はなかったという。熱い語り口で応援の先頭に立ち、選手の肩にそっと手を置くような温かな思いが、じわりと広がった証しだろう▲来年1月1日付での退任を発表した高田社長は、大変なこと、泣きたいことも、スポーツを見ることで「乗り越えるエネルギーを僕自身が得た」と語っている。チームをどうにか立て直そうと走りづめに走った末に「サッカーは人生の一部になった」と▲支え、励まし、応援することで自分が励まされる。大切な何かを得たりもする。晴朗な心延えがもたらすのは、そんなことかもしれない。(徹)

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