岩政大樹と渡邉大剛が語る「1.5キャリア」 アマチュアでプレーする意義と苦労とは

©株式会社 REAL SPORTS

昨年に東京ユナイテッドFC(関東1部)で現役引退し、現在解説者や指導者として活躍中の岩政大樹と、品川CC横浜(神奈川県1部)でプレーしながらエージェントの仕事をスタートさせた渡邉大剛。

岩政が「キャリアののりしろ」と呼び、渡邉が「1.5キャリア」と呼ぶアマチュア選手として過ごす日々の重要性、そして岩政が語るアマを経験することで元Jリーガーが得られる3つのメリットとは?

(インタビュー・構成・写真=宇都宮徹壱)

元日本代表で、鹿島アントラーズやファジアーノ岡山で活躍した岩政大樹氏の「ラストゲーム」をご存じだろうか。昨年10月20日に茨城県で開催された全社(全国社会人サッカー選手権大会)である。岩政氏は、関東リーグ1部の東京ユナイテッドFCの一員として出場。貴重な1ゴールを挙げたものの、地域CL(全国地域サッカーチャンピオンズリーグ)出場権を懸けたトーナメントの1回戦で敗れてしまった。2日後、岩政氏は自身のブログで現役引退を表明している。

一方、京都サンガF.C.と大宮アルディージャでそれぞれ100試合以上出場している渡邉大剛氏は、現在は神奈川県リーグ1部の品川CC横浜に所属。関東リーグ2部昇格を目指して関社(関東社会人サッカー大会)に挑んだが、11月3日の準々決勝でPK戦の末に敗れてしまった。結果は残念であったが、今年7月にアマチュアクラブで現役復帰を果たした渡邉氏にとっては、忘れ得ぬシーズンとなったはずだ。

JFL以下のカテゴリーを取材していて、このところ気になっていたのが、アマチュアクラブでプレーを続ける元Jリーガーの存在。「昇格請負人」のような元Jリーガーは、以前から地域リーグではよく見かけた。しかし最近はセカンドキャリアへの準備期間として、アンダーカテゴリーでのプレーを選ぶ傾向が見られるようになった。岩政氏や渡邉氏は、まさにその典型例と言えよう。

プロ選手を辞めて、すぐに新しいキャリアを歩みだすのではなく、一定の猶予期間を置く。岩政氏が言うところの「キャリアののりしろ」、そして渡邉氏が言うところの「1.5キャリア」という発想は、どこから生まれたのだろうか。今回の対談では「引退前にアマチュアクラブでプレーすることのメリット」について、お二人に語り合っていただいた。

アマチュアクラブでのプレーを「2年」と限定した理由

先日、鹿児島で全社が開催されて、岩政さんの古巣である東京ユナイテッドFCは昨年に続いて1回戦敗退となりました。結果はご存じでしょうか?

岩政:もちろん。結果はすべてチェックしていますし、大会期間中は毎日「全社」って検索しながら追っていましたね。僕はJ1もJ2もタイリーグも経験していますが、社会人でもプレーしていたので、この時期の全社や地域CLのニュースはとても身近に感じらますね。

(渡邉)大剛さんの品川CCは、関東リーグ2部昇格を懸けて関社が始まるわけですが、出場権を得るまでが大変だったみたいですね(編集部注:関社開催前の10月18日にインタビューを実施)。

渡邉:そうですね。7月にチームに入って、いろいろ手探りしながらようやくフィットして、最後に5連勝して何とか(神奈川県リーグ1部の)2位に食い込むことができました。関社はもちろん初めてですが、全試合に勝って優勝した先に昇格があるので、今は最高の準備をすることしか考えていないです。

改めて、岩政さんが東京ユナイテッドに移籍した経緯をお聞きしたいと思います。2016年J1昇格プレーオフ決勝に敗れた時、岡山での最後の試合となった岩政さんは「今後のことはまったく考えられない」とおっしゃっていました。ところが次の年、関東リーグ1部でプレーすることが発表された時は、非常に驚きましたが。

岩政:あのプレーオフでは優勝するイメージしかなかったですね。岡山をJ1に昇格させて、1年だけプレーして現役引退というのを決めていたんです。ところが自分がイメージしていたのとは、まったく違った結果に終わってしまって……。最初はサッカー選手を辞めることも考えたんですが、結論として「Jリーガーは辞めるけれどプロサッカー選手は続ける」ことにしました。東京ユナイテッド自体はアマチュアですが、僕の中では「ちゃんとお金をもらってプレーしていればプロ」という認識でしたので。

なるほど。大剛さんは昨シーズンいっぱいで、カマタマーレ讃岐で現役を引退することを表明しています。合同トライアウトにも参加しましたが、当初は「プレーするならJ2以上のカテゴリーで」というこだわりがあったそうですね?

渡邉:そうなんです。最初は「J3以下でやるのは自分のキャリアに傷がつく」くらいに思っていたんですね。それで引退後、エージェントの仕事をスタートさせたんですが、最初は仕事として成り立つ見通しが立たなくて不安でした。「これからどうしよう」と思っていたところで、品川CCの吉田(祐介)GMとお会いする機会があったんです。

そこで県1部で現役復帰するオファーをいただいたと。吉田GMのどんな言葉に最も共感を覚えたんでしょうか?

渡邉:「仕事もサッカーも一生懸命」ってところですかね。「ぜひ大剛のサポートをしたい」と言っていただけたので「お願いします!」というところからのスタートでした。今は、平日はビジネスマンとして、土日はサッカー選手として頑張っています(笑)。岩政さんは東京ユナイテッドでプレーするようになって、どれくらいで慣れましたか?

岩政:最後まで慣れなかったですね、メンタル的にも体力的にも。練習メニューを作って、チームのコンセプトに落とし込んだ上で、自分の身体も準備しておかないといけない。自分でいうのも変ですけど、お客さんは岩政を見に来るわけですよ。そして対戦相手も「岩政に勝ってやろう」と思って試合に臨むわけです。1回でもヘディングで競り負けたら、ネットでもいろいろ書かれたりするわけですよ(苦笑)。そういうJリーガー時代にはなかった苦労もありましたけど、それでも「2年は頑張ろう」と決めていましたので。

渡邉:なぜ2年だったんですか?

岩政:東京ユナイテッドでの活動以外にも、解説や執筆の仕事もありましたからね。それともう一つ、チームづくりは2年あればできるという経験則もありました。岡山がそうだったし、タイのBECテロサーサナ(現ポリス・テロFC)ではたまたま1年でできましたが、「2年で勝負」というのが一番自然な形かなと。逆にそこで区切らないと、ちょっときついかなって思っていました。

「これからはセカンドキャリアではなく1.5キャリア」

岡山でのキャリアを終えてから、東京ユナイテッドでの2シーズンを経ずに今のキャリアにつないでいくという選択肢は、考えられなかったのでしょうか?

岩政:そうしようかなって思った瞬間は、間違いなくあったと思います。ただし指導者にせよ解説者にせよ、経験をしていない段階で「僕は指導者です」「解説者です」と言うのは、どこか腑に落ちなかった。そんな中、東京ユナイテッドからのオファーは「センターバックがほしい」ではなく「岩政がほしい」だったんです。岡山からのオファーと同じことを言われたのは大きかったですね。

渡邉:僕の場合は、クラブ側から「サポートしたい」とは言われましたけれど、お金が発生しない形での契約だったんです。セカンドキャリアについてのアドバイスをいただきながら、週末には品川CCのために全力でプレーするという形ですね。自分がどういう道に進むべきか、いろいろ迷っていた時期だったので、そういう意味ではとても助かりました。吉田さんからは「これからはセカンドキャリアではなく、むしろ1.5キャリアが大事なんだって」と言われて、なるほどなって思いましたね。

「1.5キャリア」という表現は面白いですね。岩政さんは以前「キャリアののりしろ」という表現をされていましたが、意味するところは同じだと思います。「キャリアののりしろ」を設けるメリットって、どのあたりにあると考えますか?

岩政:3つあると思います。まず、経済的にも仕事的にも、ファーストキャリアからセカンドキャリアへの移行がスムーズになること。次に、Jリーガー時代には出会えなかった世界の人たちと出会えること。そして、プレーを続けながら「これは一般社会に置き換えるとどういうことか?」と考えられること。今は解説者や指導者の仕事で、わりと忙しくさせていただいていますけど、それは東京ユナイテッドでプレーしていた2年間があったおかげだと、自分では思っています。

渡邉:特に出会いの部分って、僕もありがたく思っています。現役時代に会える人って、けっこう限られていて、サッカー界だけだと本当に視野が狭くなりがちなんですよね。それは品川CCでプレーするようになって、チームメイトを含めていろんな人と出会えたからこそ感じる部分です。まだまだ勉強中の身ですけれど、すごくいい経験をさせてもらっていますし、方向性としても間違っていないと思います。

岩政:現役選手って、サッカー界が社会に大きな役割を果たしているように錯覚しがちなんですよ。でも実際には、サッカーに関係なく生きている人のほうが圧倒的に多くて、それもまた「キャリアののりしろ」で得られる感覚ですよね。ですから今後、プロを辞めてもアマチュアでサッカーを続ける選手が増えていくんじゃないですかね。

地域リーグでプレーする元Jリーガーって、以前は「昇格請負人」のイメージが強かったように思います。でも最近は戦力になることだけではなく、自身のキャリア形成につなげるための猶予期間と捉えて、アンダーカテゴリーでのプレーを選ぶ選手も増えているように感じますね。

渡邉:今は地域リーグだけじゃなくて、都道府県リーグでも元Jリーガーを受け入れるクラブが増えましたよね。僕と同じ神奈川県リーグには、元浦和レッズの永井雄一郎さんもプレーしていますし(FIFTY CLUB所属)、東京都リーグではもっといるみたいですね。いろんな方面に種まきができる期間だと考えれば、そういったカテゴリーでプレーを続けながら花が咲くのを待つのもありかなって思います。

岩政:種をまいて、どこから花が咲くかわからないじゃないですか。それに今の時代、3年や5年も経てば、世の中どうなっているかわからないし、その時に自分がどうしているかもわからないですよ。引退してすぐに指導者だけを目指すより、あちこちに種まきするほうが絶対にいい。人脈、仕事の幅、そして自分の視野。それらを広げる意味でも「キャリアののりしろ」というものは、もっと意識されていいのかなって思いますね。

<了>

PROFILE
岩政大樹(いわまさ・だいき)
1982年1月30日生まれ、山口県出身。東京学芸大学卒業後、2004年に鹿島アントラーズに入団、3度のリーグ優勝に貢献した。テロ・サーサナFC(現ポリス・テロFC/タイ)、ファジアーノ岡山、東京ユナイテッドFCを経て、2018シーズン終了後に現役を引退した。2010 FIFAワールドカップ日本代表。現在はサッカー解説者、指導者として多方面で活躍している。

PROFILE
渡邉大剛(わたなべ・だいごう)
1984年12月3日生まれ、長崎県出身。国見高校卒業後、2003年に京都サンガF.C.に入団、2度のJ1昇格に貢献した。大宮アルディージャ、釜山アイパーク(韓国)、カマタマーレ讃岐を経て一度は引退を表明するも、今年7月に神奈川県1部の品川CC横浜で現役復帰。リスタンダード株式会社ブランディングアンバサダーを務める。