「性暴力」被害の声上げられず 20年余り要した女性、体験語る

「人ごとだと考えないで」と学生に語りかける石田さん=長崎市横尾3丁目、長崎外国語大

 長崎市内の大学で今月、東京都在住の女性が講義した。中学の男性教師から受けた「性暴力」について、被害の声を上げるまでに20年余りを要した体験を学生に語りかけた。「魂の殺人」ともいわれる性暴力。県犯罪被害者支援センター(サポートながさき)は受理した相談のうち、被害から10年以上たった人が約1割に上ると分析しており、「被害の声を上げにくく、潜在化していく傾向がある」と現状を指摘する。

 「性暴力をする人と聞かれ、皆さんはどういうイメージを抱きますか」
 長崎外国語大学(長崎市横尾3丁目)の教室で、女性は学生にこう問い掛けた。都内に住むフォトグラファー石田郁子さん(42)。「ジェンダー論」の授業のゲスト講師を務め、中学3年のときに男性教師からわいせつな行為をされた過去を明かした。
 石田さんは北海道で生まれ育った。被害が始まったのは1993年3月、中学の卒業式の前日。教師と美術館に行った後、自宅に行き、キスなどわいせつな行為をされた。「嫌」と言えなかった。先生として尊敬の念はあったが、恋愛感情はなかった。その後、大学2年まで約4年間、関係は続いた。指示されたことを断ることが考えられず、支配されていた。
 「先生が悪いことをするという認識がなかった。私の中での性犯罪は、夜道に知らない人に襲われて…、そんなイメージだった」
 被害の意識を明確にしたのは37歳のとき。養護施設に通う16歳の少女が職員から性的被害を受けた事件の裁判を傍聴し、少女の姿が自分と重なった。「あれは犯罪だったのか」-。その後、教師と面会したが「恋愛関係だった。これがバレたらクビになる」などと言われた。次第に精神状態が不安定になり、2016年2月、心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症。家族を含めた周囲の人からは、「何で今更」「昔のことだ、忘れろ」などと心ない言葉を浴びた。「何度も自分を責めたこともある。それでも相手を許せなかった」
 石田さんは今年2月、男性教師と札幌市教委に損害賠償を求めて東京地裁に提訴。だが、民法上では20年間を過ぎると損害賠償請求権を失う。8月に出た判決では「除斥期間を過ぎている」として敗訴し、控訴した。
 目の前に立ちはだかる「時間の壁」。それでも学生の前に立ち、取材に実名で声を上げ続ける理由を語った。「私自身、被害に気付くのが遅すぎた。少しでも早ければ、法的にも医療的にもさまざまなサポートが受けられていた。今後、同じような被害者が減ることを願っている」


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