若者の弁論にドキッ

 「カニの存在は私たちの学校生活の一部となっています」。高校の教室や廊下をカニがよく歩いているという。生徒同士のおしゃべりの横を、先生と生徒の真ん中を、授業中の机と机の間を-▲先日、県高校弁論大会(佐世保市)で17人の発表を聞いた。弁士たちは皆、今の思いや疑問や怒りを原稿にしっかり込め、6分あまりの弁論を披露▲中でも印象に残ったのは県立五島高1年、関田結さんの「効率性の中のカニ」。お掘に囲まれ海に近い高校の牧歌的な風景。カニは一例に過ぎないが、排除に向かうのではなく何げない共存、共生が生徒の日常であることが分かる▲都会と比べながら田舎の多様性に着目。現実社会がとても複雑で予測しがたいからこそ、効率的な環境の中にいたとしても異質なものを自分の中に取り込んでいく度量の大きさが重要だと論ずる▲少しドキッとした。仕事上能率性を部下に求めることは多い。それが悪だとは思わないが、ゆとりや余裕は人間にとって必要で、そこから新たな発想も生まれる。分かっていてもなかなか理想の働き方に近づけないことを指摘されたような気がした▲五島は豊かな自然を誇る。その多様性に富んだ環境から、関田さんは生き方やものの考え方をじっくりと学んでいるに違いない。海を見に行きたくなった。(貴)

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