神奈川のクマ出没急増 2019年度、既に最多271件 木の実の不作原因か

秦野市北矢名のカキ畑に出没し、センサーカメラに写ったツキノワグマ=10月27日(同市農業振興課撮影)

 県の絶滅危惧種に指定されているツキノワグマが、県内で相次いで出没している。県によると、本年度の出没件数は10月末現在、271件。年度途中にもかかわらず、過去最多だった2016年度(193件)を既に大きく上回る。さらに冬眠前の10、11月は例年、多発する傾向にあり、県などが注意を呼び掛ける。出没が急増した要因について、専門家は餌となる木の実の不作に加え、森林の植生拡大や狩猟者の高齢化なども挙げ、中長期的な対策の必要性を訴えている。

 県自然環境保全課によると、出没件数を内容でみると、目撃が108件で最も多く、設置された定点カメラなどによる撮影(105件)、爪痕などの痕跡(51件)が続いた。

 県央地域や県西地域で確認されており、市町村別では、伊勢原市が最多の134件、次いで相模原市63件、厚木市34件、山北町10件などとなっている。人里での出没が全体の8割を占めた。

 同課によると、県内に生息するツキノワグマは丹沢山地を中心に40頭前後と推定されている。

 10月7日には伊勢原市子易の畑に仕掛けたわなに、体長136センチ、体重92キロのオスがかかっているのが発見された。県などは生息数が少ないことから、クマが嫌がるスプレーを吹き掛け、人間に近づかないよう学習させた上で丹沢山中に放った。

 だが、その後も周辺で目撃が相次いだため、10月下旬から11月上旬にかけて同市や厚木市内で捕獲された4頭を、人身被害防止の観点から捕殺した。

 同課によると、クマの目撃は冬眠から目覚めて間もない5~7月と、冬眠を前にした10、11月に増える傾向にある。実際、本年度も10月が最多の121件で、7、8月で計46件、5月も16件あった。

 ツキノワグマの出没について、東京農業大学の山崎晃司教授は「今年は県内だけでなく都内でも多く、本州全体で多い印象を受ける」と説明する。

 例年になく、多発している要因について「ブナなど餌となる木の実の結実が悪いのでは」と推察。また「定期的に山中の樹木を伐採しなくなったために森林の植生が拡大していることや、高齢化で狩猟技術を持つ人が少なくなったことも影響している」とみる。

 クマを人里に近づけない方法として、野菜や果物を畑や周辺に放置しないことなどを挙げた上で、「出没の原因を探ると同時に、来年、再来年に向けた対策を考えることが大切」と指摘している。

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