歓喜の瞬間を「形」に…「サヨナラTシャツ」などのグッズはどう生まれる?【パお仕事名鑑 Vol.10】

オリックス・バファローズMD部の藤井頼子さん【写真提供:オリックス・バファローズ】

今季導入の「サヨナラTシャツ」、翌日に販売するスピード感で取り組む

 グラウンドの上で輝く選手やチームを支えているのはどんな人たちなのか。パ・リーグで働く全ての人を応援するパシフィック・リーグオフィシャルスポンサーのパーソルグループと、パ・リーグインサイトがお届けする「パーソル パ・リーグTVお仕事名鑑」ではパ・リーグに関わるお仕事をされている方、そしてその仕事の魅力を紹介していきます。

 球場がどんどん華やかになっている。ファンが思い思いのユニホームやTシャツを着て、タオルを始めとするグッズを持って応援する光景が広がっていることも要因だ。バファローズはこのMD(マーチャンダイジング)に力を入れ、盛り上げ、そしてチームとファンの間のリレーションを強め、深めている。バファローズでこの分野を担当するのがMD部だ。この部門で企画・開発、販売・運営管理を担当する藤井頼子さんに裏側を聞いてみよう。まずはどのような発想でグッズが生まれるのか?

「どのように企画を立てていくかというと、まずはイベントに合わせたもの。今シーズンの本拠地での試合では、連戦ごとにたくさんのイベントを行いました。そのイベントのテーマに合わせてどんな商品がいいのかを考えます。それから選手の記録モノ。例えば『1イニング4三塁打』(6月23日広島戦で達成)や、選手の初安打記念や記録達成などに合わせて作るものがあります。それから選手のヒーローインタビューでの言葉から、これを作ったら喜んでいただけるかなというものもありますね」

「夏の陣」「Bsオリ姫デー」などイベントを目指して事前に決めて動くものから、選手の大きな記録などを予想して動くもの、チームの勝利やできごとに連動したものまで、時間軸も準備期間も予定数量も違う。発想自体は面白いけれどそれを形にするのは大変なことだろう。特に偶発的な記録などの際は相当なスピード感で動くようだ。

「あまり間が空いてしまうと熱が冷めてしまいますし、早いうちに商品化されて手元に届いたほうがいいと思いますので……ゆっくり考えている時間はないですね。今年新しく取り組んだのがサヨナラTシャツ。業者さんとも連携して、サヨナラが出たら次の日にはデザインを完成させて販売するというスピード感で取り組んでいます」

 喜びの瞬間は、藤井さんにとっては仕事のスタートでもある。

「その日のシーンをTシャツに入れますので、ファンのみなさんにとってどんなシーンがいいのかなと考えながら私が選んでいます。準備としては毎試合をテレビで見ながら、今日は初安打が出るかなあ、記録は出るかなあという感じですね。今日はないかなと油断してたらサヨナラゲームだ! みたいなことも(笑)」

 年間で決まっているものと、瞬発力、速報性。その両方を手掛けるのも大変だが、もうひとつ、グッズを求めるファンもさまざまだということもある。コアなファンと、一般的な野球ファンや初めて来場する人を惹きつけるものは違う。

「やはりそこは考えます。野球自体にコアな方にはそれ用に作りますし。またバファローズはイケメン選手が多いので、それをいろいろなファンに推しています。オリ姫デーではオリメン投票というのがあって、“上位の選手をグッズ化します”というものなんですが、これがすごく反響が良くて」

「オリ姫デー」イベントは、女性4人がチームを組んで企画・運営を手掛けた

 今シーズン、藤井さんが最も手ごたえがあったのがこの「オリ姫デー(6月開催)」だったという。

「コンセプトは、女性だけで女性のために喜んでもらえるイベントにする。そのためにMDから2名、営業とファンクラブから1名ずつ、部署をこえて4人の女性でプロジェクトを組んだんです。女性だけでチームを組んだのはこれが初めて。イベント全体に関わって企画から運営までを手掛けたのでとてもやりがいがありました。

「他にも『夏の陣』も好評で、予想を上回る売り上げでした。最初は心配だったんです。カラーは真っ黒だし牛のマークもいかついし、これ女性ウケは大丈夫なのかなって(笑)。それでどんなグッズがいいかとみんなで話し合いました。その結果大好評で、申し訳ないことなのですが売り切れ続出でした」

 もうひとつ、面白いエピソード。オンラインショップで吉田正尚選手の応援グッズ「正尚チャンスダンベル」を見ると「2019Ver.」と書かれている。

「この応援グッズは私が入社する前の2018年に、『マッチョをイメージした応援グッズを作ってほしい』という吉田正選手からのリクエストから商品化されました。そして、2019年バージョンとしてさらに吉田正選手から『元気に明るく応援していただけたら』ということで黄色のダンベルに変わりました。選手からもこういうグッズを作りたいという声が上がるときがあるんです。それを実現するにはどうしたらいいかというのも、やりがいのある仕事ですね

 藤井さん自身、グッズに思い入れがある。それが野球を好きになったきっかけの一つだったからだ。

「子どものころから野球が好きでした。きっかけになったのはファン感謝デーで選手がサインを入れてくれた帽子。今でもとってあります。あの時の感動が忘れられなくて、野球の仕事をしたいと思ったんです。今も球場で子どもたちを見ているとあの頃の私を見ているようでうれしくなります」

 ファンからのスタート。夢見ていた野球の仕事。それを実現するために。遠回りのようでいて、藤井さんにとってはそれこそが最善という道を選択してきた。新卒で入社したのは関西の大手私鉄。総合職で採用された。

「駅ナカの店舗開発や運営管理を担当。大型複合ビルの開業にも関わり、流通、MDの基礎をここで勉強させてもらいました。ずっと野球の仕事をしたいと思っていたので、MDや流通に従事しながら、これが将来、どう野球で生かせるだろうかという視点は常に持っていました。駅ナカは日々お客様がたくさん通るので商品展開が早く、どんなものを求めていてどう対応しなければいけないのかなど、とても役立ったと思います」

 2社目は東京で、プロチームやアスリートのセカンドキャリアや新人研修をサポートする会社に転職。野球の仕事に着々と近づいた。そこで気づいたこと。そしてこの仕事に求められるもの。

「球団職員はビジネスの視点、スキルがないといけない。売上もあるし、予算が足りなければ、足りない中でどうするか考えなければいけない。ただ、そうはいっても、仕事、仕事ってなってしまうと、ファンの人が欲しいものってなんだろうということがわからなくなりますし、面白いものが届けられなくなってしまう。これすごくかっこいい! このシーンをグッズにしたい! というファンと同じ気持ちも大事かなと思っています」

 藤井さんは夢だった球団職員として1シーズン目を終えた。2シーズン目への課題も掲げている。

「ファンの自分も忘れちゃいけないし、流通の視点ももってなければいけないし、でも目の前の試合はどんどん進んでいるしで今年は必死。こんなに動きが速いのかという、あっという間に終わった感じがします。本当に1年ついていくだけで精一杯でした。来シーズンは自分からもっと企画を提案できるようにしていきます。来季の計画はもう始まりますし、ファン感謝デー、正月の初売り、キャンプと続きます。ファンの人が欲しいものをちゃんと届けていきたいです」(「パ・リーグ インサイト」岩瀬大二)

(記事提供:パ・リーグ インサイト)

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