「話し合う」と言うが

 「議論に火がつく」というように、言葉を交わすところで「火」が起こる場合もある。思えば「談義」「談論風発」という時の「談」は火が重なってできている▲話し合いの“火加減”を行政はどう考えているのだろう。東彼川棚町の石木ダム計画で、反対住民13世帯の家屋などを含む土地がきのう明け渡し期限となり、「行政代執行」、つまり行政が家を壊し、住民を立ち退かせる手続きが可能になる▲きのう住民らは事業断念を県にあらためて求めた。県はどうかといえば、ダムの完成目標を2022年度から延ばす見通しで、住民との話し合いを進めるとしている▲じっくり煮詰める“とろ火”の対話を呼び掛けるようだが、行政代執行という乱暴この上ない手段を、県は「排除しない」とも言い続けている▲今月に入り、県の幹部がいきなり来て、住民らに話し合いに応じるよう声を掛けて回った、と先ごろの本紙にある。「勝手に土地を奪っておいて、今後の生活を話し合おうと言われても」と住民がいぶかるのも無理はない▲力づくの行政代執行という“猛火”もあり得る。そうほのめかしながら、穏やかに話しましょうと持ち掛ける了見は、すんなり解せるものではない。はっきり言えるのは、仮に猛火を招いて灰になるのは「行政への信頼」ということだろう。(徹)

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