芸人の「闇営業問題」にみる、“騙されやすい人”“騙されにくい人”の境界線

お金を払ったのに、商品が届かない! 投資勧誘に騙された! この時、どのような行動をとるでしょうか? 詐欺であれば、警察へ。相手が悪質業者であれば、消費者センターに相談する。「騙された自分が悪い」と諦める。被害に遭った時の行動は三者三様です。

実は、あの闇営業の問題は、私たちの消費者行動に、大事なことを教えてくれています。


なぜ「彼」が選ばれたか?

今年6月、2014年末に行われた詐欺グループの忘年会に、芸人だった入江氏の紹介で、雨上がり決死隊の宮迫博之氏、ロンドンブーツ1号2号の田村亮氏らが出席していたとの報道が流れました。これは事務所を通さない闇営業の仕事で、当初、宮迫氏らは「ギャラは、受け取っていない」と嘘を話して、問題はますます大きくなりました。この詐欺グループは忘年会の翌年、2015年6月に掛け子役など40人が逮捕されたことからわかるように、大規模な組織でした。彼らが行っていたのは、高齢者宅に電話をかけ、嘘の社債を購入させて、金を騙し取る手口でした。

組織的な詐欺では、事前にアポイント電話(アポ電)をかけ、その人が騙されるかどうかを判断してから、騙しを実行します。今回の闇営業問題にもそれが見てとれます。おそらく、イベントを仲介した入江氏は、芸人の参加者リストを事前に詐欺グループのリーダーなどに提示し、忘年会に呼んでいいかの判断を仰いだと思います。そこで、ふるいにかけられて、リストから外された人はいるでしょう。では、その基準はどこでしょうか。

詐欺師のリスクは、警察による摘発です。とすれば、真っ先にリストから外されるのは、警察に通報しそうな人です。一時期、ある新聞が名前を間違えて、忘年会の出演者に“亮”氏でなく、相方の“淳”氏の名前を出しました。偶然、私は局のロビーで淳さんにお会いした時、「淳さんの名前が新聞に出て、それはないだろうと思いましたよ」と話しました。

人の良さそうな人はつけこまれる

なぜ「私は、淳さんはない」と思ったのか。それは、彼とは詐欺の特番でご一緒しており、いかに手口が悪辣で、被害者が苦しんでいるのかを、良くわかっている人だからです。詐欺事情に精通している人は、警戒のアンテナをはっています。ゆえに、詐欺師からみれば、犯罪に気づかれる恐れがあるために、こうした場には呼ばないものだからです。詐欺師は、逮捕といったリスクヘッジに余念がありません。

それに、モノをはっきり言う芸人も避けられます。何かおかしいと思えば、突っ込んで聞くような人には、真相を暴かれる恐れがあります。逆にいえば、「怪しいと思っても、詮索せず、突っ込んで聞かない人」「その場の空気に逆らった発言をしない人」は、詐欺師のターゲットになります。

今回、参加した芸人らを見ると、周りの気持ちを忖度するような、人の良さがにじみ出ている人たちが多いように思います。彼らは一様に「知らなかった」と、弁明しましたが、それは当然です。詐欺へのアンテナを立てず、怪しさに気づけないような人たちが狙われたからです。つまり、詐欺の手口を知り、警戒のアンテナをはりめぐらせる。疑問を持ったら、しっかり尋ねることで、私たちも詐欺犯から狙われない存在になることができます。

嘘の連鎖を断ち切る

では、彼らは被害者なのでしょうか? いいえ、残念ながら、彼らは加害者の側面が大きいと思います。これだけの有名人が、忘年会に参加することで、詐欺師は「自分たちは、有名人をも動かせる」と、翌日から高齢者を騙すためのモチベーションを上げるきっかけになったはずだからです。知らぬ間に、加害者の側に回ってしまう。これが一番怖いのです。私たちも、自分が良かれと思って、口コミで何かを紹介して、被害を拡大させる手足とならないように気をつけましょう。

その後、宮迫氏と亮氏の涙ながらの謝罪会見が行われました。二人からは「嘘をつかずに話す」という姿勢が、ひしひしと伝わってくる内容で、ようやく被害者の痛みにまで思いが至ったのだと思いました。その「嘘をつかない」という姿勢での会見は、嘘という負の連鎖を止めました。

最初に、詐欺集団の忘年会に参加したという事態を収めるために「ギャラをもらっていない」という、小さな嘘をつきましたが、これが大きな火種となりました。嘘というものは転がれば転がるほど大きくなり、収拾がつかなくなるものだからです。一端、はまった負のスパイラルから逃れるためには、すべてを正直に公にすることから始めなければなりません。私たちも詐欺被害に遭って、騙されたとすれば、それを恥ずかしいからと、泣き寝入りしてはいけません。公的な機関に相談、報告して、嘘の連鎖を断ち切ることを考えましょう。というのも、詐欺師は一度、騙された人を二度、三度と狙ってくるからです。

自分の行動が社会を変える

今、「消費者市民社会」の構築が叫ばれています。これは、私たち消費者が、どのような行動をとるかで、社会が大きく変わってくるという考え方です。たとえば、私たちが被害に遭った時、二つの選択肢があると思います。

ひとつは「仕方ない」「恥ずかしい」と押し黙ってしまう行動。しかし、この行為は悪い連中をはびこらせる状況を生み、被害を拡大させてしまいます。これは、まさに問題を指摘されたときに芸人らが「ギャラをもらっていない」と真実を語らず、幕引きを図ろうとした行動といえるでしょう。

二つ目は、勇気をもって、公的機関や誰かに相談する道です。まさに彼らの記者会見です。消費者市民社会では、二つ目の被害者が声をあげることを求めています。被害を報告することで、トラブルは公的機関によって集約されて、多くの人に注意喚起がなされます。結果、被害防止策が打たれて、騙されないための社会がつくられることになります。私たち一人ひとりの行動しだいで、社会は大きく変わるという意識を持つことが、とても大切なのです。

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