「モテたくて、慶應に入りました」。山口から上京した男が、直面した厳しい現実とは

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今とは違う“何者か”になりたい。

ここ東京では、そんな風に強く願い行動した者のみが掴める、成功や幸せがある。

彼らは「勝ち組」・「成功者」と称され、周囲から、羨ましがられ、時に妬まれる。

しかし、ご存じだろうか。

彼らは、その影で、ジレンマに苛まれ様々なコンプレックスと戦っていることを…。

この連載では、そんな「勝ち組」となった彼らの、その後のリアルストーリーをお届けする。

前回は、婚活のために有名大学に入った女を紹介した。さて今回は?

vol.2 モテたかっただけの男

名前:浜谷海斗(仮名)
年齢:27歳
職業:IT社長

平日の午後3時。『ザ・ロビーラウンジ』に、海斗はジャケットにジーンズ、BALENCIAGAのクラッチバッグというラフなスタイルで現れた。

服装もさることながら、その堂々とした歩き方からは、IT社長特有の自信のようなものが感じられた。

「ごめん、待った?商談ながびいちゃってさ」

海斗がそう言いながら席についた瞬間、つけてくる量を間違えたのだろうか、ブルガリの香水の香りがその場一帯に一瞬にして充満した。

海斗は現在、インフルエンサーと企業をつなぐマッチングプラットフォームなるものを運営しているIT企業の社長だ。まだ立ち上げたばかりで社員は数人しかいないものの、2年前にアフィリエイトサイトやらアプリなどの事業譲渡をしており、その総額はなんと数億円に上るという。

メディアでも幾度か取り上げられているちょっとした有名人だ。

「でもね、僕。ほんの3年前までは山口県で地道に銀行マンしてたんですよ」

IT社長という肩書や出で立ちとは裏腹に、不思議とどこか素朴さを感じさせる海斗がここまで上り詰めてきた経緯を聞いてみた。

地銀の冴えない銀行マンが、IT社長を目指したきっかけとは?

「僕、大学は慶應だったんです。でも就職は地元山口でする羽目になって…」

海斗は、山口県の宇部市という田舎町で生まれ育った。

高校までは地元でそれなりにモテたらしく、その事実につけあがってしまったのか、洗練された美人やモデルのように可愛い子と付き合いたいと思ようになった。そして高校2年生の時、もっとモテる方法を自分なりに調査した結果、「慶應ボーイになる」という結論に辿り着いた。

そして、「今より可愛い子と付き合いたい」という理由だけで、慶應を第一志望に据え、必死に大学受験を戦い抜き、見事、慶應への現役合格を果たしたのだった。

しかし、経済的に余裕があったわけではなく、生活費は自分のバイト代で稼ぐことを条件に上京した。

そして入学後は、モテたくて可愛い子が多いと噂のテニスサークルに入った。

「そこで思い描いていた通りの可愛い子や美人に山ほど出会うことが出来ました!本当にみんな女優さんの卵なんじゃないか?ってくらい!でも、出会ったところで、僕みたいな田舎者は相手にすらされなくて…。慶應ボーイにさえなればモテる、というのは勘違いだったと実感しました(笑)」

当たり前の話ではあるが、レベルの高い女性の周りには、レベルの高い男性も群がる。結局、そんな可愛い子や美人たちが付き合う相手は、幼稚舎から上がってきた生粋のお坊ちゃんでしかもイケメンの人間ばかり、海斗は相手にすらされなかったという。

そして特にテニスがやりたいわけではなかった海斗は、すぐにそのテニスサークルとは疎遠になり高校時代からやっていたバスケのサークルに入った。

「そこで出会った男友達とは妙に気が合って。みんな顔は悪くないんだけど、地方出身の奴らばっかで、今考えると、どこか芋臭さが残ってたんだと思うんです」

類は友を呼ぶというのか、似た者同士の親友ができた海斗。大学4年間、彼らと一緒に大いに青春を謳歌したという。

大学の授業はそこそこに、朝から晩までバイトと遊びで駆けずり回った。高嶺の花と付き合うことはできなかったが、麻雀に合コン、海にスノボに学園祭と、まさに人生の夏休みのような期間だった。

社会人になっても、楽しい時間が続くだろうと、どこか漠然と思い描いていた。

しかし、現実は違った。

「東京での就職試験に全部落ちたんです…」

就活中もバイトばかりしていたため、面接の準備ができなかったと、悔しそうに語る。

結局すべりこみで内定をもらえたのは、地元の銀行だけだったそう。

「地元の地銀だって悪くないんですよ。親なんてむしろ喜んでいたくらいだし。でも、僕が思い描いていたような社会人生活とは程遠くて…」

就活留年する金銭的余裕もなく、友人たちがみな東京で就職していく中、海斗だけが泣く泣く地元山口へと帰った。

まだ、この時は、地元での就職が海斗の運命を動かすきっかけになるとは、思ってもいなかった。

「社会人になってからも、東京にいるみんなはしょっちゅう集まってて。LINEグループで繰り広げられる楽しそうなチャットが、羨ましくて羨ましくて…。

僕も東京でみんなと遊びたいとずっと思っていましたね。新入社員ですぐに転職っていうのも厳しいから...。今すぐできることなんてないし。ずっともどかしい気持ちでいました」

当時を懐かしむように、目を細めながら海斗は続けた。

「社会人1年目の夏頃だったかな。いつもの様にそんなことをLINEで愚痴ったら、友人の一人が“じゃあ、自分でビジネスやったら?”って言ってくれたんですよ。聞くと、サークルの1個上の先輩が自分でビジネスをやっていたらしくて。たしかに、自分で事業を立ち上げるんだったら今すぐ一人で出来るじゃん、て気付いちゃったんです」

すぐにその先輩に連絡を取ると、その先輩も元々は文系なのに、アプリ開発を0から勉強してビジネスにしたという。そんな話に勇気づけられ、海斗も同じように0からのアプリ開発に挑戦しはじめた。

これが海斗にとって転機となる。

「当時勤めていた地銀は超ホワイトで、ほぼ毎日定時で帰れたんです。実家暮らしだったから家事もしなくてよかったし、あの時は、持てる時間を全て費やして、せっせとアプリ作りしてましたね。まあ、彼女もいなかったしそれ以外にやることもなかったので(笑)」

モテたいというモチベーションだけで受験を突破した過去を持っているだけあって、何か目標が決まれば、そこに向かって突っ走る力は並大抵なものではなかったのであろう。

「東京に戻って、友人と遊びたい」というモチベーションがきっかけだったが、そのうちアプリ作りが面白くなり、なんと、1年ちょっとで仮想通貨のデモトレードアプリを数千万円で売却するに至ったという。

「その時の達成感といったらもう!!この山口県内では間違いなく僕が今1番だ、って自信ありましたね、まじで!!」

何の1番なのかはよくわからないが、とにかく有頂天だった海斗は、その勢いですぐに地銀を退職し、六本木に引っ越したという。

その後、東京に戻ってきてからも、アプリ作成と売却を繰り返し、今の会社を設立するまでになったのだ。

東京へ舞い戻った海斗に、待ち受けていた現実は

「最初は東京に戻ってくるための手段でしかなかったんですけど、自分がつくるアプリが大金に変わっていくことが、めちゃくちゃ面白くなっちゃって」

海斗は、アプリ開発は自分の天職だと意気揚々と語る。

「しかもIT社長っていう肩書とお金があると、大学時代には見向きもされなかった美女だちが、ホイホイ寄ってくるようになったんですよ」

鼻息荒くしゃべり終えると、海斗は今日一番の得意気な顔をした。

仕事柄もあり、読者モデルやらインフルエンサーやらとの食事会が絶えないという。中にはプライベートで食事に行く間柄の女性も数人いるようだ。

ところで、アプリ開発の原動力となった友人たちとは、その後交流しているのか尋ねた。

「それが全然構ってくれなくて、めちゃくちゃ寂しいですよ。僕だけ急激にモテるようになっちゃったから、あいつらみんな僕に嫉妬しちゃってるみたいで…。

女の子とのやりとりとか見せたら、“お前、それ完全に金づるにされてるだけだぞ?”とか言ってきたりするんすよ。ひどくないすか?それから全然遊んでくれなくなっちゃって…。

男も嫉妬とかやっかみと無縁じゃないんだなって、初めて知りましたよ。でもまあ、悪い気はしないっていうか。あぁ、こいつらとはもう生きるステージが変わっちゃったんだなって。寂しい反面、ついに僕もライフステージが変わっちゃったかぁーっていう実感はありましたね。うん。」

一気にまくしたてるようにしゃべり終わった海斗に、その実際のやりとりを見せてもらった。

海斗:えりちゃん今日はありがとうね。また飲みに行こう!
Eri♡:はい、次はぜひ『三谷』に行きたいなあ~♡
海斗:予約してみるけど随分先になりそうだね。その前にも会おうよ、いつ空いてる?
Eri♡:(既読スルー)

海斗:今週末、食事会で4人くらい集められそうかな?
まい:かわいい子探してみますね^^
海斗:ありがとうー!
まい:女の子は全員タクシー代って頂けますよね?

なるほど、物事を楽観的に捉え前進する姿勢は、どんな場面でも変わらないようだ。ちなみに、その中から本気の恋愛に発展しそうな女性はいるのかと尋ねてみると、こんな答えが返ってきた。

「まあ、今は品定め中ですかね。こっちが本気になっていないから皆もまだ躊躇してると思います」

地銀の行員からIT社長へと変貌を遂げた海斗。

かつて憧れていた美女たちと関わることができたが、本来の目的であった男友達たちとの友情は図らずとも手放してしまったようだ。

海斗が、その代償の大きさに気付くことはあるのだろうか。せめて、恋愛市場においても成功の階段を駆け上がる日が来ることを祈ってやまない。

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