デビュー20周年記念作。世に溢れる音楽は刺激的な演奏や言葉で強く訴えるものが多いが、本作にはその要素は皆無だ。その代わり、音量を上げても耳を刺激しない。そこが凄い。
オリジナルの全9曲中、夏川自身がウチナーグチ(沖縄言葉)で作詞したミディアム調の『美らさ愛さ』や、美しい島々を見渡すような伸びやかな『心の呼吸』など、故郷愛を歌った楽曲が多く、歌声から自然への畏敬が感じられる。
また、優しく語りかける『そばにいて』や『愛する人へ』、買い物の風景を歌った『愛ならそこにあるでしょう』など、家族想いのラブソングも多く、心が温まる。
そんな穏やかな雰囲気の中で、どん底から立ち上がろうとする川村結花作詞・作曲の『暁の歌』や、大自然に囲まれて帰らぬ人を想い続ける『ハナサク』のバラード2曲が、やや異質に映る。しかし、喜びがあるからこそ、いつか訪れる悲しみも、ありのままに受け入れようとする夏川の歌声に救われる。これこそ人生なのだろう。
初回盤には、『涙そうそう』や『ハグしちゃお』など旧作の中から“愛”をテーマにした10曲入りのCDと、夏川のロング・インタビューや縁のある人達のメッセージを掲載した32Pブックレット付き。本作を聴けば、生き急ぐことなく少しずつ確かに歩もうと思えるはず。
(ビクター・2CD初回限定盤 5000円+税)=臼井孝