昆虫食、女装、避妊具まで… 「渋谷パルコ」の飲食フロアがカオスな理由

商業施設の集客に重要な役割を果たすレストランフロア。近年は大人の利用者をターゲットとした「フードホール」形式を導入する商業施設が増えていますが、11月22日に開業する渋谷パルコは、まったく別のベクトルを打ち出してきました。

「食・音楽・カルチャー」をコンセプトとする地下1階のレストランフロアの名前は「CHASOS KITCHEN(カオスキッチン)」。昆虫食のレストランがあると思えば、女装ウェイトレスが接客するバーもあり、文字通り混沌とした空間になっています。

異色なレストランフロアを作り出したパルコの狙いは、どこにあるのでしょうか。11月19日に開かれたメディア向け内覧会の内容から探ります。


「カラスの丸焼き」が食べられる

若者など特定の年齢層や性別でターゲットを絞らず、「ノンエイジ」「ジェンダーレス」「コスモポリタン」というキーワードを掲げている、新生・渋谷パルコ。「ファッション」「アート&カルチャー」「エンターテインメント」「フード」「テクノロジー」の5本柱の1つである地下のレストランフロアは、特に個性が際立っています。

商業施設には初出店となる「米とサーカス」は、ジビエや昆虫料理を提供する飲食店。カラスの丸焼きや、オオグソクムシラーメンといったメニューのほか、イノシシ、ウサギ、カンガルー、ダチョウ、ラクダなどの獣肉盛りが名物です。

フロアを歩いていると、ディスクユニオンのレコード店「ユニオンレコード」が現れ、飲食店と並んで避妊具ショップ「コンドマニア」もありました。このショップを運営するシィーロード・インターナショナルの担当者は「お酒を飲んだ後に気軽に寄ってほしい」と話します。

「GALLERY X」と命名された一角には、アニメ映画『AKIRA』に登場する「鉄男」インスタレーションの展示も……。フロアの天井や床には鏡面素材が使われており、各ショップの個性を怪しく引き出しています。飲食店と雑貨店が入り乱れる複雑な構成で、歩いていると現在地がわからなくなるほどです。

朝まで営業する女装バー

アルコールを提供する飲食店も充実。クラフトビールが飲める「立飲みビールボーイ」や、希少な日本酒を揃える「未来日本酒店&SAKE BAR」、ミュージックカフェ&バー「QUATTRO LABO」などが出店しています。

中でも商業施設で異色となる店舗が、女装ウェイトレスが接客する、新宿二丁目発のセクシャルフリーのミックスバー「Campy!bar(キャンピーバー)」です。昼間の時間帯は純喫茶「はまの屋パーラー」が営業し、夜の17時から翌朝5時まではCampy!barへ切り替わります。

運営会社の社長は「パルコからは『新宿二丁目の店をそのまま持ってきてほしい』と言われました。マツコ・デラックスさんやミッツ・マングローブさんが発信しても、まだ新宿二丁目のハードルは高い。そういう中でパルコに出店できるのは大きい」と語ります。

「興味本位や物見遊山で気軽に来てほしい。ウチらって、無視されたり、ないものと考えられるのが一番イヤなんです。嫌いでも好きでもわからないでもいいですが、意思を示してもらうためには、まずコミュニケーションをとってもらわなければいけない。こういう店で、ちょっとずつですが、確実に伝わっていくと思う」(同)

異色の構成になった舞台裏

レストランフロアとしては異色の構成となったカオスキッチンには、どのような狙いが込められているのでしょうか。

パルコ渋谷店・営業課の加部沙世さんによると、渋谷パルコのプランニングが始まったのは2016年の秋。当時はフードホール全盛期。JR新宿駅に隣接する「NEWoMan(ニューマン)」に代表されるように、女性からの関心が高そうなブランドを海外からパッケージで持ってくるのが流行でした。

しかし、それは一定の交通量や利便性があって成立するもの。「渋谷パルコは最寄駅から5分かけて歩いてくるので、より付加価値をつけて提案したい」という前提に立って、コンセプトを考案することになりました。

最終的には、パルコの持つビル全体が「カオスである」という良さを生かし、食・音楽・アート&カルチャーをミックスした空間を作ることになったといいます。

「ファッション感度の高い人ほど、食に対する興味が強まっていると感じます。アパレルブランドのコレクションのパーティーで話題になるのも、最近行っておいしかったお店が多い。今まではファッション、食、アートでコミュニティが分かれていましたが、それらの垣根がなくなってきています」(加部さん)

キワモノではなく“すっぴん”になれる場

朝まで営業するミックスバーのCampy!barを設置したことについては、渋谷区のパートナーシップ条例が背景にあることに加え、「ファッションもボーダレス・ジェンダーレスと考えた時に、キワモノとしてではなく、純粋に楽しい場所として、行って“すっぴん”になれる場所を探していた」と加部さん。渋谷に多いクリエイティブな職業の人たちが、仕事後に集まる場所を提供する狙いもあるといいます。

「コンドマニア」はカオス感を演出する役割を担うほか、避妊具を日本のアートグッズ感覚で購入していくインバウンド客へのアピールも目的としています。レストランフロアへの誘致に、社内の上層部から否定的な意見もなかったといいます。

新生・渋谷パルコの開発で、最初にコンセプトを決めたというカオスキッチン。集客のエンジンとしての役割を果たすことはできるでしょうか。

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