ドイツ人の98%がボードゲームを持っている?! 我を忘れるほど、ドイツ人がボードゲームに白熱するその理由とは

ドイツはボードゲーム大国

ドイツは、毎年数百のボードゲームが新たに発売されている、言わずと知れたボードゲーム大国。街のおもちゃ屋やボードゲーム専門店はもちろん、書店やカフェなどでもボードゲームを見かけることが多い。また、親戚の集まりや友人たちとの飲み会で、誰かがボードゲームを引っ張り出してきて、みんなで盛り上がることもしばしばだ。

実際、SPLENDID RESEARCHによる2017年の市場調査では、18~69歳の回答者1024人のうち、29%のドイツ人が「頻繁に」、33%が「たまに」ボードゲームで遊ぶと回答。世代別に見ると、最も頻繁にボードゲームで遊んでいるのは30~39歳(38%)。60~69歳の回答者でも、5人に1人がよくプレイすると答えた。さらに興味深いのは、回答者のうち39%が、これまでにボードゲームに白熱しすぎてわれを失ったことがあると告白。ドイツ人のボードゲームへの熱量が伝わってくる。

また、ボードゲームは家族間のコミュニケーション手段としても人気だ。親がボードゲームにかけるお金は、1年あたり平均64ユーロで、これはおよそ2~3個のボードゲームを買える金額。2017年にYouGovが行った調査では、2000人のドイツ人を対象に「自分の家(世帯)にいくつボードゲームがあるか」という質問がされ、31%が「1~5個」、29%が「6~10個」と回答。「1個も持っていない」という世帯はわずか2%で、ボードゲーム文化がいかに生活の中に浸透しているかが明らかになった。しかし、今日のようなドイツのボードゲーム文化が普及したのは1970年代ごろからと言われ、その歴史はまだ比較的浅い。

批評から生まれたゲーム大賞

ドイツに限らず「ボードゲームの歴史」という点から見れば、最も古いものは紀元前3500年ころのエジプトで遊ばれていた「セネト」というゲームで、マス目のある盤上で2人のプレイヤーがレースを行うものだった。それらは世界各地に広がって独自の発展を遂げ、紀元前700年ごろには中国で囲碁が誕生。6世紀にインドで生まれたチャトランガは西洋でチェス、日本で将棋へと発展した。7世紀ごろの日本には、すでに「すごろく」もあったという。ボードゲームで扱われるテーマは時代とともに変化していき、20世紀ごろからは、ボード上で軍事作戦や不動産経営などを行うシミュレーションゲームも登場した。

ドイツでは、新聞やラジオなどで本や映画が盛んに批評されているのと同様に、ボードゲームについての批評もあったそう。その延長として1979年に設立された「ドイツ年間ゲーム大賞(Spiel des Jahres)」が、その後のドイツボードゲームの発展に大きく寄与した。この賞は、評論家やジャーナリストなどの専門家が、過去1年間に発売された中から優秀なゲームを選ぶもので、大賞を受賞したゲームは、ライセンス料を支払うことで「年間ゲーム大賞」のロゴをパッケージに印刷する権利が与えられる。中立の立場を守るためにスポンサーなどは一切付けず、ロゴのライセンス料のみで運営されているため、ゲーム制作者・購入者からの信頼も厚い。この賞の存在によって、ドイツの玩具業界は質の高いボードゲームをつくることに力を入れ、「ドイツボードゲーム」という独自のジャンルを発展させた。

2019年のドイツ年間ゲーム大賞を受賞した「ジャスト・ワン」制作者のザウター氏(左)と、グリュッタース文化メディア担当大臣(右)

「考える楽しさ」を味わおう

ドイツのボードゲームは非常に多様性に富んでいるが、そのどれにも共通するのが、「人が生きること」や「世の中がどのように動いているか」について、ボードゲームが扱う題材やメカニズムを通して疑似体験できることだろう。プレイヤーたちは、与えられたルールの中で競争や交渉、協力、時にはだまし合いなど、さまざまなコミュニケーションで互いに影響し合い、ストーリーを展開させる。ゲームとして楽しみつつ、そのなかで行われる思考やコミュニケーションは、現実社会で私たちが行っているものに限りなく近いのだ。

一方でドイツボードゲームには、戦争を題材にしたものはほとんどなく、直接的にほかのプレイヤーを攻撃したり、脱落させたりするルールも少ない。これは、ドイツが2度の世界大戦で敗戦国となったことや、ナチスの過去との決別とも関係があると言われ、1950年代にアメリカでシミュレーション・ウォーゲームが誕生したときも、ドイツでの人気は高くなかった。ゲームのテーマや目的を「戦争」や「争いごと」以・・外にするという暗黙の了解もまた、誰もが楽しめるような工夫あふれるゲームづくりへとつながったのだ。

ドイツボードゲームはもともとコンピューターとの相性が良く、最近ではオンライン化も進められたことで、より幅広いファンを獲得しつつある。しかしドイツボードゲームの醍醐味は、人と人とが対面してコミュニケーションを行い、「考えること」をともに楽しむことにこそある。普段の生活が慌ただしく、パソコンや携帯電話の画面を通したコミュニケーションが増えている私たちに、ドイツボードゲームは、大切な人との心温まる豊かな時間を提供してくれるだろう。

参考:参考:SPLENDID RESEARCH「Studie: Deutschland spielt Gesellschaftsspiele」、 staista「Ein Brettspiel kommt selten allein」、有田隆也(名古屋大学)「ドイツボードゲームの教育利用の試み–考える喜びを知り生きる力に結び付ける–」、ドイツ年間ゲーム大賞:www.spiel-des-jahres.de

この冬遊びたいドイツのボードゲーム

幻想的な雰囲気に包まれて

Waldschatten Spiel 森の影あそび

本物のキャンドルに火を灯して暗い森の中でかくれんぼをする、幻想的なクリスマスの雰囲気にぴったりなゲーム。オニを1人決め、残りはこびとになって木の陰に隠れる。キャンドルに火をつけて部屋を暗くしたら、オニはサイコロを振ってキャンドルを動かし、こびとを探す。こびとたちは影の中を移動し、全員同じ木の下に集まったらこびとチームの勝ち。オニがこびと全員を照らして動けなくすれば、オニの勝ちだ。

【おすすめポイント】

まるで本当に森の中にいるようなワクワク感を味わいながら、子どもたちは、風や光など、自然への好奇心を掻き立てられる。キャンドルで火傷しないよう、オニ役は大人がやるのが◎。

ゲームデザイナー:Walter Kraul
製作年:1985年
対象年齢:5歳以上(表面)、7歳以上(裏面)
プレイ人数:2~8人
プレイ時間:30分
https://spielzeug-kraul.de


ズルをしないと勝てない?!

Mogel Motte いかさまゴキブリ

ゴキブリやクモ、蚊、アリなどのムシが描かれた8種類のカードを順番に出していき、手札を最初に無くした人が勝ち、という単純なルールのカードゲーム。しかし、唯一「蛾のカード」は捨てることも誰かに渡すこともできない。そのためゲームであがるには、警備員役のプレイヤー(持ち回り)にばれないようにカードを床に落としたり、服の中に隠したりと、いかさまをしなければならないのだ。

【おすすめポイント】

このゲームの最大の特徴は、一般のゲームでは絶対にしてはいけないことを、ルールとして行えるということ。ズルをすることに慣れていないと、プレイ中はドキドキしっぱなし!

ゲームデザイナー:Emely Brand, Lukas Brand
製作年:2011年
対象年齢:7歳以上
プレイ人数:3~5人
プレイ時間:15~25分
https://www.dreimagier.de


大人数にぴったりのパーティーゲーム

Just One ジャスト・ワン

2019年の「ドイツ年間ゲーム大賞」を受賞した、協力型の言葉当てクイズゲーム。各プレイヤーの手元にフリップとペンを置き、回答者を1人決めてお題カードを選択。ほかのプレイヤーはフリップにヒントとなる言葉を書くが、ほかの人と同じ言葉を書いてしまうとヒントを発表できなくなる。回答者は発表されたヒントから連想して言葉を当てる。プレイヤー間の勝敗が無く、みんなでハイスコアを目指すのが特徴だ。

【おすすめポイント】

ほかの人と同じヒントを書いてはいけないため、誰とも被らないようなクリエイティブな言葉のチョイスを考えるのが面白い。参加人数が多いほど「ヒントの被り」が起こりやすいので、大人数でわいわい楽しもう。

ゲームデザイナー:Ludovic Roudy, Bruno Sautter
製作年:2018年
対象年齢:8歳以上
プレイ人数:3~7人
プレイ時間:20分
https://asmodee.de

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