イギリスでは若者の投票率が上昇傾向?!EU離脱問題に揺れる英国総選挙の行方はいかに

欧州連合(EU)離脱を巡る議論で揺れるイギリスでは、12月12日の総選挙に向けて激しい選挙戦が繰り広げられています。

選挙制度改革や行政改革、主権者教育など、日本ではイギリスをお手本とした様々な取組みが行われてきています。日本では若年層を中心とした低投票率が永らく続いていますが、イギリスではどのような状況にあるのでしょうか。
近年の投票率や今回の総選挙の見通しを確認してみましょう。

前回総選挙の投票率は68.8%。大きく低下した投票率も4回続けて上昇中

図表1では1964年以降に実施されたイギリスの総選挙の投票率をまとめています。

図表1_イギリス総選挙の投票率の推移

イギリスの総選挙における投票率は2001年に59.4%と初めて60%を下回りましたが、その後は4回続けて上昇しています。2017年に行われた前回の総選挙では68.8%まで回復しています。

一時期40%を下回っていた若者の投票率も60%超まで上昇

年齢別の投票率も確認してみましょう。

図表2_イギリス総選挙の年齢別投票率の推移

図表2にあるように、前回の総選挙での18歳から24歳までの有権者の投票率は64.7%でした。
年齢別の投票率については注目したいポイントが2つあります。

1つ目は、若者よりも年配の方の投票率が高いことです。

日本では若者の投票率がほかの世代よりも低いことが選挙のたびに指摘されていますが、このことは日本だけの問題ではなく、イギリスでもみられる事象であることがわかります。

2つ目は、近年若い世代の投票率が上昇傾向にあることです。

グラフからは2001年40.4%、2005年38.2%と低迷していた18歳から24歳有権者の投票率が近年大きく改善していることが読み取れます。同様に投票率の上昇は、25歳から34歳までの世代でも確認できます。
これらの若い世代の投票率の上昇が、イギリスの全年代の投票率の上昇を支えていることが図表2からもわかります。

なお、イギリスで科目「シティズンシップ」が中等教育(Secondary School。11歳から16歳までの生徒が通う)の必修教科として採用されたのは2002年です。若者世代の投票率が上昇し始めた時期と、学校でシティズンシップを学んだ生徒達が選挙権を得る時期が一致していることもわかります。

やっぱりお手本はすごい? 日本よりも高い投票率

日本の投票状況とも比較してみましょう。

前回の衆議院議員選挙(2017年)での投票率は53.68%です。
また、18歳~24歳までの投票率は34.24%、25歳~34歳までの投票率は39.90%でした。

このように日本とイギリスを比較すると、イギリスの方が投票参加は活発なようにみえます。
ただし、この比較が意味を持つのは日本とイギリスの選挙制度が同じ場合です。イギリスの投票率は日本とは違い、有権者登録をした人だけが集計の対象になっていることに気をつける必要があります

マイナス7%? もしも有権者登録をしていない人も対象としてイギリスの投票率を計算してみたら

イギリスでは、年齢や国籍などの要件を満たしたうえで、所定の手続きを経た人だけが選挙権を得ることができます。
そこで、実際に有権者登録をしている人の割合を推計してみます。

2017年のイギリス総選挙での登録有権者数は46,835,433人でした。2018年の18歳以上人口は52,383,965人ですので、有権者登録率は89.4%ほどと推定されます。
上述の2017年総選挙の投票率も有権者登録の状況を考慮すると約61.5%となります。

また、登録状況は年齢によっても異なります。

図表3にあるように、10代や20代前半の国民の1/3程度の人は有権者登録をしていません。
そのため、18歳~24歳の投票率も日本の集計方法に合わせてみると42.7%ほどになります。

図表3_年代別有権者登録実施者数の割合

差が縮まったとはいえ、全年代、18歳~24歳といった若い世代共に日本よりも多くの有権者が投票に参加している状況には変わりがないことも確認できます。

それでは、今回のイギリス総選挙における投票率はどうなるのでしょうか。

進む有権者登録。今回総選挙の投票率も前回を超えるか?

投票率の行方を占ううえで注目したい情報に有権者登録があります。
2017年総選挙では、有権者登録の締切日である5月22日に歴代最多である約62万人が登録をしたことや、若者世代の登録者数が圧倒的に多かったことなどが有権者登録の特徴として挙げられています。
結果として、若者世代の投票者数及び投票率が大きく向上し、全年代での投票率も向上することとなりました。
ちなみに、若い世代、特に10代や20代の有権者の中では労働党に投票した人の割合が60%を超えたという調査結果もあるように、若者世代の投票参加は選挙結果に少なくない影響を及ぼしています。

さて、この有権者登録ですが、今回の総選挙に向けて、前回を上回る勢いで登録者数が増加しています。

図表4_年代別有権者登録サービスの利用者数

前回総選挙において、メイ首相(当時)が総選挙を明言した4月18日から有権者登録の締め切りである5月22日までの期間に有権者登録を行った人の数は約294万人でした。今回の総選挙においてジョンソン首相が解散を議会に上程しはじめた9月4日から集計を始めて11月17日の段階で約368万人と、すでに前回総選挙における新規有権者登録数を大幅に上回っています。有権者登録は11月26日まで行えることを考慮すると、前回の総選挙の登録者数を100万人以上上回ることが見込まれます。

ちなみに、イギリスにおいて有権者数が100万人ほど増加すると、総有権者数は2%強増加することになります。日本で18歳選挙権が導入されたとき、新たに選挙権を得た10代有権者の数も、全有権者数の2.2%強でした。今回の有権者登録者数の増加は、日本で18歳選挙権が解禁となったことと同程度のインパクトを持っているものと評価できるかもしれません。

また、EU離脱の是非が問われた国民投票(2016年)の投票率は72.2%と前回総選挙の投票率を上回っています。

若者世代を中心に有権者登録をする人が前回総選挙よりも多く、有権者が高い関心を寄せるEU離脱問題のみを扱った国民投票の投票率は前回の総選挙よりも高いことなどを考慮すると、今回の総選挙では前回よりも多くの人が投票するであろうことが予想されます。

ここ数年のEU離脱問題を巡る議論は、有権者の関心事を変化させました。世論調査会社の調査では、2015年の総選挙において有権者が関心を示していたのは国民保健サービスや移民問題であり、EU離脱問題に関心を示す人はほとんどいませんでした。ところが、2017年の総選挙ではEU離脱問題が国民健康保険サービスと並ぶほどの強い関心を集めるようになり、今回の総選挙ではEU離脱問題がほかのテーマに比べて圧倒的な関心事となっています。
また、EU離脱問題を巡っては、国民投票の結果が出た後にEU残留派が多いと言われている若者世代が投票に行かなかったことを悔いるコメントをしている様子が報じられることもしばしばありました。そして、今回、多くの若者が新たに有権者登録を行っています。

ここしばらくイギリス国民を悩ませてきたEUからの離脱問題は、選挙を通じてどのような未来を描くことになるのでしょうか。また、何年にもわたって国を二分してきたような政治的課題は、若者の意識や行動をどのように変化させるのでしょうか。イギリスの動向が注目されます。

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