【MLB】NPBと似て非なる選出基準 3度目のMVPに輝いたトラウトの凄さ

自信3度目となるMVPを獲得したエンゼルスのマイク・トラウト【写真:AP】

MVP選出で重視されるWARで他選手を圧倒するトラウト

 今季、アメリカン・リーグのMVPに輝いたマイク・トラウトはエンゼルスで大谷翔平のチームメートだが、当代最高の打者と言ってよい。

 トラウトは高校から2009年のアマチュアドラフト1巡目(全体25位)でエンゼルスに入団。同期の全体1位は今季ナ・リーグ最多勝のスティーブン・ストラスバーグ(ナショナルズ)だった。

 マイナーでずば抜けた成績を残して2011年7月にメジャーデビュー。この年は打者の新人王の資格の上限(130打数)ぎりぎりの123打数でシーズンを終え、翌2012年に30本塁打、83打点、49盗塁(盗塁王)、打率.326で、文句なしの新人王になった。トラウトはそれだけでなく、MVP投票でも3冠王に輝いたミゲル・カブレラ(タイガース)に次ぐ2位になった。

 トラウトは、セイバーメトリクス系のWAR(Wins Above Replacement)の申し子と言われる。WARは、打撃、走塁から守備まですべての要素を加味した総合指標。MVPの選考に当たって最も重視される指標とされる。

 トラウトのデビュー2年目からのWARとMVP投票順位、主要な成績を並べてみよう。()はリーグ順位。率は打率、出は出塁率。WARのデータはBaseball Refarenceによる。

2012年 WAR10.5(1) MVP投票(2) 新人王
30本(13) 83点(23) 49盗(1) 率.326(2) 出.399(3)

2013年 WAR9.0(1) MVP投票(2)
27本(14) 97点(9) 33盗(8) 率.323(3) 出.432(2)

2014年 WAR7.6(1) MVP投票(1)
36本(3) 111点(1) 16盗(25) 率.287(15) 出.377(8)

2015年 WAR9.4(1) MVP投票(2)
41本(3) 90点(14) 11盗(33) 率.299(9) 出.402(2)

2016年 WAR10.5(1) MVP投票(1)
29本(26) 100点(14) 30盗(2) 率.315(5) 出.441(1)

2017年 WAR6.6(5) MVP投票(4)
33本(12) 72点(53) 22盗(12) 率.306(6) 出.442(1)

2018年 WAR10.2(2) MVP投票(2)
39本(4) 79点(24) 24盗(9) 率.312(4) 出.460(1)

2019年 WAR8.3(2) MVP投票(1)
45本(2) 104点(9) 11盗(26) 率.291(18) 出.438(1)

僅差でブレグマンを抑えてMVP選出、2人の違いは…

 従来の打撃タイトルで言えば、トラウトは盗塁王1回、打点王1回を獲得しただけ。しかし出塁率はここ4年連続で1位。WARは2012年から5年連続でリーグ1位、ここ2年も2位。そして2012年以降で3回目のMVPを獲得した。この間、エンゼルスは2014年に地区優勝しただけ。にもかかわらずトラウトは3回もMVP。いかにトラウトの評価が高いかがわかる。

 今季のトラウトは、WARは8.3で2位。1位はリーグ優勝したアストロズのアレックス・ブレグマンの8.5。普通ならばブレグマンが選ばれるはずだが、記者投票ではブレグマン335.0ポイントに対しトラウト355.0ポイントと僅差でトラウトが選ばれた。

 さらに詳細のデータを見てみると、トラウトがMVPに選ばれた理由が見えてくる。WARのデータは、攻撃面の指標であるoWAR(Offensive WAR)と守備面の指標であるdWAR(Defensive WAR)に分けることができる(oWAR+ dWAR=WARではない)。これで見ると

トラウト oWAR 8.3(1) dWAR 0.3(85)
ブレグマン oWAR 7.7(2) dWAR 1.2(19)

となる。WARでは異なるポジションの守備成績もポイント化されるが、外野手のdWARは、内野手や捕手よりも低くなる。トラウトは優秀な外野手だが、三塁手、遊撃手よりもポイントは低い。純粋な攻撃面だけの指標では、トラウトはブレグマンより明らかに上。僅差ながらトラウトが選出された。

 こうしてみるとMLBのMVP投票は、NPBとは似て非なる基準で行われていることがわかる。NPBでは本塁打、打点、打率などの指標がいまだに重視されるが、MLBではWARなど全く新しい観点から選手が評価されているのだ。(広尾晃 / Koh Hiroo)

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