ACL決勝よりもJ優先。浦和を苦しめた「地獄の4連戦」過密日程は仕方ないのか?

明治安田生命J1リーグとAFCチャンピオンズリーグを戦うクラブに毎年どうしてもつきまとう「過密日程」問題。

ライターの清水英斗氏は「考えれば考えるほど、『仕方ない』という結論になる」と述べる一方で、「改善できる方法は考え続けるべきだ」と続ける。

Jリーグ、クラブ、そして日本サッカー界全体が、それぞれ何を最優先し、何が譲れないものなのか、改めて問い直すべきタイミングなのかもしれない。

(文=清水英斗、写真=Getty Images)

ACL決勝が2戦行われるのは今後も変わらない

ACL(AFCチャンピオンズリーグ)を勝ち抜いたクラブの過密日程。これは昨シーズンの鹿島アントラーズも苦しめられた問題だが、今シーズンは決勝に残った浦和レッズが、同時にJ1で残留を争う立場に追い込まれているため、「理不尽な日程」「ACL軽視」などと日程への疑念がより強く伝えられているようだ。

ここで10月末からの浦和の試合日程を振り返っておく。

J1第31節 10月29日(火) 広島vs浦和
J1第30節 11月1日(金) 鹿島vs浦和
J1第32節 11月5日(火) 浦和vs川崎
ACL決勝第1戦 11月9日(土) アル・ヒラルvs浦和
ACL決勝第2戦 11月24日(日) 浦和vsアル・ヒラル

本来は11月9、10日に行われる予定のサンフレッチェ広島戦が10月29日へ、また11月23日に行われる予定の川崎フロンターレ戦が11月5日に、それぞれ“前倒し”され、浦和にとっては地獄の4連戦ができあがった。

連戦の最後となるACL決勝第1戦は、中3日で時差が6時間もあるサウジアラビアへ移動しなければならず、試合内容の割に最小失点で済んだとはいえ、浦和はアル・ヒラルに0-1で敗れ、この4連戦全体も1分3敗と低調に終わった。

そればかりのせいにもできないが、やはり過密日程の影響は無視できない。また、仮に浦和が2019 JリーグYBCルヴァンカップ決勝にも残っていれば、10月26日(土)も試合が組まれ、地獄の5連戦になる可能性もあった。

なぜ、こんな日程になってしまうのか。

頻出の話題なので繰り返しにはなるが、Jリーグが終盤を迎える9月~11月は、毎月2週間弱の代表ウィークが組み込まれているため、日程は最初から少ない。そこに勝ち残り次第で、ACL準決勝、決勝と2試合ずつが増え、さらにルヴァンカップ決勝もあるため、どうしても空き日が少なく、過密になってしまう。

せめてACL決勝がUEFAチャンピオンズリーグのように一発勝負になれば、日程は少し緩和されるが、おそらくそれは難しい。アジアは広すぎるからだ。時差が大きく、気候もかなり違う。中立地で一発勝負となれば、その場所により、有利、不利の差が大きく生じてしまう。競技の公平性において、ACL決勝がホーム&アウェーで行われるのは無理からぬことだ。

もっとも、その理由はサッカーファンに対する建て前でもある。より本音に近いところを言えば、ホームアドバンテージのない(本戦不参加の)中立地では観客を集める自信がないからだろう。ACL決勝が閑古鳥では、大会の権威もへったくれもない。このあたりも、世界中からサッカーファンが集まるUEFAチャンピオンズリーグとは事情が異なる。ACL決勝が2戦行われるのは、今後も変わらないだろう。

「仕方ない」という結論になりがちな日程問題

だったら、「春や初夏のうちにリーグ戦を先に消化すればいいのでは」と思うかもしれないが、事はそれほど単純ではない。ACL決勝が入ることを見越して日程を空けた場合、この終盤にJリーグは2週間か、下手をすれば代表ウィークと合わせて3週間も空白期間ができてしまう。それではリーグが興醒めだ。

あるいは全クラブではなく、ACL出場クラブの対戦だけを先に消化する考え方もある。そうすればリーグ全体の空白にはならないが、では、その試合をどこで消化するのか。春先はACLとリーグ戦の両立が大変な時期でもあり、ここで調子を崩すACL出場クラブは、毎年必ず出てくる。先に消化させようと、さらに試合を増やす余裕はない。

また、こちらのほうが重大かもしれないが、春先や初夏にACL出場クラブ同士の対戦を増やすと、特定のクラブだけが2試合の対戦を先に済ませてしまい、ホーム&アウェーのリーグ戦の仕組みが崩れてしまう。つまり、1回り目を終えた時点で、全クラブの戦績が揃わない。

かといって、2回り目に入る8月は、すでに平日開催を含む過密日程であるし、夏場にさらに試合を増やすのは疑問がある。また、9月からは代表ウィークやACL決勝トーナメントも重なり、やはり余裕はない。考えれば考えるほど、「仕方ない」という結論になりがちな日程問題ではある。

なぜ“後ろ倒し”ではなく“前倒し”なのか

一方で、ちょっと気になるのは、ACL決勝によって移すことになった浦和の2試合が、どちらも“前倒し”されていることだ。

32節の川崎戦は、11月5日ではなく、ACL決勝後の11月末、あるいは12月初旬に“後ろ倒し”しても良いはず。4連戦ではなく、2連戦を2つにしたほうが、コンディション上のダメージは少ないし、何より浦和はACL決勝に向けて1週間の準備期間を得られる。しかし、Jリーグはそうしなかった。

終盤の2節を、同時刻キックオフで行うためだろう。近年は最終節だけに限らず、終盤の数節はできる限り同時刻キックオフで行うことが、世界的にも常識になっている。

それはもちろん、競技の公平性のためだ。あとから試合をするチームは、勝ち点を競うチームの状況を見て、戦い方を決められる。そのアドバンテージが大きいのは、何も最終節だけではない。前述したようにJリーグは終盤の日程がきついので、限界はあるが、それでも2節は同時刻キックオフを確保し、できる限り各クラブのコンディションを揃えた状態で、雌雄を決する試合を迎えられるように日程が配慮されている。

つまり、ACLによる過密日程の解消より、終盤の日程を揃えることが優先された格好だ。「ACL軽視」とまでは言えないが、最優先、でもない。Jリーグのあり方を整えることに、より高いプライオリティが置かれている印象だ。

おそらくきっかけは、2015シーズンの反省だろう。村井チェアマンは、2016シーズンの発表に際して、日程を次のように説明している。

「2015シーズンの大会日程において、ACL出場クラブが決勝に進出した場合、明治安田J1リーグ2ndステージ最終節の開催日時が揃わないという課題がありました。

2016シーズンにおいては、ACLを勝ち抜くための日程調整に加え、競技の公平性を確保するためリーグ戦最終節の開催日時を揃えることを前提といたしました」

2015年は、たまたまガンバ大阪がACL準決勝で広州恒大に敗れ、決勝には進めなかったが、もしも勝ち残っていたら、最終節はG大阪だけが別の日程でプレーした可能性があった。これはリーグとしては致命的な問題だ。当時、人づてに聞いた話だが、村井チェアマンはこの件で、日程の担当者にかなり強く注意したそうだ。

その後、Jリーグは2018シーズンからは最終節だけでなく、その1節前を含めた終盤2節の開催日時を、ACLの結果にかかわらず、揃えられるようにした。さらにその2試合を各クラブが同条件で迎えられるように、ACL決勝による調整は2試合とも“前倒し”したため、昨年の鹿島も、今年の浦和も、日程がより過密した。この“前倒し”と“後ろ倒し”の違いに、Jリーグの考え方が透けて見える。

考え続けるべき過密日程の改善方法とは?

2021年からはFIFAクラブワールドカップが4年に1回、6月に行われるように発表されている。今後は12月の日程が変わるだろう。あと1週、J1最終節を後ろにずらすことができれば、ACL決勝に付随する日程は、自然と緩和されるかもしれない。

FIFA(国際サッカー連盟)やAFC(アジアサッカー連盟)が決めることは、彼らの都合で変わる。そこに振り回されすぎず、リーグとしての競技性を重視したJリーグの判断は、苦渋とはいえ、理解できる。土台が揺らいではいけない。

ただし、物事は考えれば考えるほど、「仕方がない」という結論で止まりがち。Jリーグの調整に一定の理解ができるとはいえ、過密日程が問題であるのは間違いない。例えば、ルヴァンカップを再編して決勝を8月の北海道で開催し、そのぶん、天皇杯を9~11月の代表ウィークに移すなど、日本国内だけで改善できる方法は考え続けるべきだろう。ただし、天皇杯を主催するJFA(日本サッカー協会)は秋春制(夏春制)へのシーズン移行の意思を持っているので、天皇杯を含めた上記のようなスケジュール改革は、簡単ではないかもしれない。

<了>

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