安倍首相、本当は憲法に興味ないの? 調査会で発言1回、先輩改憲派の奥野誠亮氏は23回

By 竹田昌弘

1980年8月27日の衆院法務委員会で、答弁する奥野誠亮法相

 1980年8月27日の衆院法務委員会。自民党のタカ派で知られた当時法相の奥野誠亮氏(故人)が「いまの憲法は占領軍の指示に基づいて制定されたものだ。国民の間から、自分たちで憲法を作ろうじゃないかという気持ちが出てくることは望ましい」などと述べ、9条の改憲に言及した。「私の所見」と断っての発言だったが、野党は「閣僚らに憲法尊重擁護の義務を課している憲法99条に違反する」と批判し、国会が紛糾した。

敗戦と占領を体験した元官僚として

 政府見解では、憲法96条に改正手続きが定められているので、改憲を議論したり、研究したりすることは憲法尊重擁護の義務に反しないとしていたが、当時首相の鈴木善幸氏(故人)は同年10月9日の衆院予算委員会で「法相の憲法改正に関する発言は適切を欠き、遺憾だ。鈴木内閣は憲法を尊重擁護し、改正の意思はない」と表明して事態の収拾を図る。

衆院予算委員会で、奥野誠亮法相の憲法発言について遺憾の意を表明する鈴木善幸首相。左上は奥野誠亮法相=1980年10月9日

  それでも奥野氏は、81年2月17日の衆院予算委員会で「違憲論がある結果、自衛隊の士気に悪い影響を及ぼしている」と9条改憲に関する発言を続け、鈴木氏から「(改憲しないことが)どうしても政治家の信念として相いれないのであれば、内閣から去っていただく」とくぎを刺された。 

 2000年に憲法調査会が新設されると、奥野氏は「ようやく自由に憲法の議論ができるようになったことは、大変な前進だと喜んでいる」(同年4月27日の衆院憲法調査会)と歓迎した。同年8月3日の衆院憲法調査会では、政府の一員(内務官僚)として、敗戦と連合国軍総司令部(GHQ)による占領を体験した者として「今の憲法が押し付けとか、押し付けでないとかいう議論はナンセンス。総司令部がつくったと言った方が率直でいい」との見方を示し「独立国らしい議論をしながら、独立国にふさわしい憲法をつくり上げたらいいんじゃないか」と語った。国会議事録のデータベースで検索したところ、奥野氏の衆院憲法調査会での発言は、少なくとも23回に上った。 

議論を開始した衆院憲法調査会の第2回会合=2000年2月17日

国民投票法審議の特別委や憲法審査会では発言なし

 奥野氏と同様、安倍晋三首相も「自衛隊の士気」を理由として、9条の改憲などを主張している。しかし、奥野氏とは違い、衆院憲法調査会で発言したのは2000年5月11日の1回だけだ(後継機関に当たる衆院憲法審査会の事務局調べ)。議事録によると、自民党の衛藤晟一議員の代わりに出席し「米国のニューディーラーと言われる人たちの手によってできた憲法を、私たちが最高法として抱いているということが、日本人の精神に悪い影響を及ぼしている」「9条のいかんにかかわらず、集団的自衛権は、権利はあるし行使もできる」などと述べている。安倍首相は国民投票法を審議した憲法調査特別委員会や07年から置かれている憲法審査会では1回も発言していない。 

憲法改正推進を目指す集会に寄せられた安倍首相のビデオメッセージ=10月18日、和歌山市

 今年10月11日の衆院予算委員会で、立憲民主党の辻元清美議員がこうした事実を指摘し「これだけ憲法、憲法と言う人だったら、委員に志願して議論しているはず。興味なかったんじゃないですか、憲法に」とただすと、安倍首相は「いろいろな場で発言してきた。テレビにも出演した。決めつけはやめていただきたい」「官房副長官、官房長官等々で政府側にいた。(自民党の)幹事長、幹事長代理も務めていたので、機会は少なかったかもしれない」などと答弁した。辻元氏は「国会で憲法改正の議論をして、国民への責任を果たそう(と言いながら)1回ですよ。憲法、憲法というのはちょっと1回取り下げて、いろいろな議論とか、勉強してから言った方がいい」と指摘した。

芦部信喜教授らの名前知らず 

芦部信喜東大名誉教授の著作「憲法 第七版」。岩波書店によると、出版部数は1993年の初版以来、100万部を超えているという。

 安倍首相は13年3月29日の衆院予算委員会では、発行部数100万部を超える憲法の基本書を書いた芦部信喜東大名誉教授(故人)や高橋和之東大名誉教授、佐藤幸治京大名誉教授の名前を知っているかと問われ「私は余り、憲法学の権威ではないので、学生であったこともないので、存じ上げません」と述べている。この3人は憲法を勉強した人であれば、誰もが知っている学者だ。 

 もしかすると、安倍首相は憲法に関する基本的な知識が乏しく、憲法調査会などでの発言が1回だけなのではないか。辻元氏が言うように、憲法改正の議論を国会に促す前に、芦部教授らの基本書で勉強した方がいいのかもしれない。(共同通信編集委員=竹田昌弘)

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