58年前まで歴史を遡る! 懐かしのスターレット登場の前編はこちら↓
初代ヴィッツ:コンパクトカーのベンチマークを目指す
海外を意識し、スターレットに代わり登場!
さて、前編にてご紹介したトヨタ スターレットをはじめとした日本のコンパクトカーは、装備も少なく作りも質素で「エントリーモデル」的なイメージが強くありました。海外への輸出は行われていたものの、欧州市場における海外メーカーの小型車が備えていた走行性能や高速安定性、安全性の高さは、まだまだ持ち合わせていませんでした。
そこでトヨタは、長年にわたりトヨタの屋台骨を支え続けたスターレットに代わる新しいコンパクトカーを、「ヴィッツ(XP10型 海外名:ヤリス)」と改名して送り出しました。1999年のことです。(ちなみにヤリスという名はギリシャ神話の女神「カリス」に由来し、優美さなどを表します)。
世界のコンパクトカー市場における新たなベンチマークとなるべく開発された意欲作だけに、名前の変更は大きな効果をもたらしたように思います。
カローラを上回り、カーオブザイヤー受賞!
サイズにとらわれない「小型車の枠を超えた作り込み」が行われ、世界の名だたる小型車とも戦える性能を得ただけでなく、新しい時代を感じさせる内外装デザインの採用も伴って、日本のみならず欧州でも大きなヒットを記録。それまで日本における販売の主力だったカローラの販売台数を上回ったほどで、ヴィッツがエントリーモデルではなく、車格的ヒエラルキーや年齢に関係なく乗れるコンパクトカーということが証明されました。
日本と欧州でカー・オブ・ザ・イヤーをダブル受賞したことも思い出されます。「海外のライバルとも渡り合える実力を持った、質が高いコンパクトカー」という発想は国内ライバルメーカーを刺激し、ホンダではフィットを生み出す原動力となりました。
初代ヴィッツは、スターレットよりもさらに小さい1LクラスのAセグメント車として登場しましたが、のちに1.3Lや4WDのほかスポーツモデルで1.5Lを搭載した「RS」、高級感を増した「クラヴィア」などを次々と追加。特別仕様車やモデリスタが手がけたターボ版などのバリエーションも設定しながら、2005年まで販売が行われました。
2代目ヴィッツ:大型化でBセグメントに移行
カタマリ感のあるデザイン
2代目ヴィッツ(XP90型)は2005年に登場しました。初代のコンセプトを引き継ぎながら、質感、安全性などすべての面において一層のブラッシュアップを果たしました。
全長3.6mほどだったボディサイズは3.7m〜3.8m台まで大型化され、ホイールベースを90mm伸ばしたことで室内空間も拡がり、Bセグメントカーに発展。そのため、販売のメインが1.3Lに移行しました。なお2代目から1Lエンジンはダイハツ製の直3に置き換わったほか、4WDと5速MT以外のトランスミッションはすべてCVT になりました。
外観は、初代ヴィッツのアイコンを残しつつ洗練されたものとなり、ワンモーションフォルムでカタマリ感あるスタイルに。内装では、ダッシュボードのセンターメーターを初代から継続しています。
なお、2代目でもスポーツグレードのRSは残されました。この代も、モデルライフ中に特別仕様車の設定を数多く行なったほか、時代に合わせて安全性能や燃費性能の向上が継続して計られました。
北米で発売スタート
ちなみに、初代ヴィッツの派生セダンは「プラッツ」でしたが、2代目では「ベルタ」に名前が変わっています。
また、2代目ヴィッツからは北米市場で「ヤリス・ハッチバック」として発売もスタートしています。わざわざハッチバックと銘打っていたのは、ベルタが「ヤリス・セダン」としてカタログに載っていたからでした。
さらにややこしいことに、欧州ではダイハツ「シャレード」としても販売されていました。エンブレムがDマークになっただけで、外観上の差はありません。
3代目ヴィッツ:9年のロングセラー
燃費や安全性を向上
6年のモデルライフを終えて、2010年には3代目ヴィッツ(XP130型)がデビューしました。コンセプト自体は、「小さくて広く、しっかり走り、燃費も良い」というそれまでのヴィッツと大きく変わるところはなく、3代目ではさらなる燃費や安全性の向上が行われています。
徹底した軽量化や空力性能のアップ、シートの改良、後席の居住性改善など、細かな進歩も着実に進められていました。外観は一目でヴィッツとわかるものの、キリっとしたディティールによってシャープな印象に。特徴だったセンターメーターが廃されたこともトピックでした。
2011年には、GAZOO Racingが手がけたコンプリートチューニングモデル「G’s」も追加されています。
2017年から「キーンルック」を採用
発売から4年が経過した2014年になって大きなマイナーチェンジを行い、フロントエンドを変更してより一層尖ったイメージに。外観のみならず機構面でも大きく手が入り、アイドリングストップ機能を全車標準装備にして燃費数値をさらに改善、ボディ剛性を高めて安全性も強化、静粛性の向上などが図られました。
その後もヴィッツ改良の手は休まらず、翌2015年からは衝突回避支援パッケージ「トヨタ Safety Sense」を搭載。さらに2017年の改良ではフロントに「キーンルック(V字グリルを特徴とするトヨタのフロントデザイン)」を採用して大幅刷新。テールエンドも様変わりしてリアコンビランプを左右にも拡大、イメージを一新しています。
なお、グレード面ではこのとき「RS」が廃止になったほか、「G‘s」の名称も「GR」に変わりました。
ちなみに、3代目ヴィッツはこの記事を書いている2019年11月現在も発売中のため、登場後9年を経たロングセラーモデルとなっています。
4代目ヴィッツ(?):いよいよ世界統一名称の「ヤリス」へ
初心に立ち返った意欲作
そして2019年10月、事実上4代目ヴィッツとなる新モデル、「ヤリス」がヴェールを脱ぎました。コンパクトカーの新しいベンチマークとなるべく、プラットフォームからパワートレインまで完全刷新となった新型ヤリスは、トヨタが持ちうる最新技術が惜しみ無く投入されており、初代の志に立ち返ったような意欲的なモデルになりました。
1999年の登場からちょうど20年経ち、トヨタのコンパクトカーの名前としてすっかり浸透したヴィッツの名称を無くすのは惜しい気がするのですが、スターレットからヴィッツへの画期的な変化のように、今回のフルモデルチェンジもひとつの大きな節目と言えるもの。
世界戦略車としてすでに様々な国と地域で活躍しているヤリスという名前に統一することで、日本のユーザーに「ヤリスは世界中で走っているクルマなのだ」と知らせることもでき、この名前は今後時間をかけて、多くのユーザーに浸透していくのではないでしょうか。
【番外編】えっ、これも!? 知られざる世界の現地仕様ヤリス
最後に、世界各地の「変わり種ヤリス」をご紹介しましょう。
実は、国によって外観がまったく異なるヤリスや、別メーカーのクルマにヤリスのバッヂをつけたモデルなどが存在するのです。
なお、今回ご紹介した歴史記事では、基本的に日本および欧州市場版のヴィッツ=ヤリスを取り上げており、新型ヤリスも日欧での販売がメインとなります。
現地仕様1:もはや別物だしカオスすぎる「アジア向けヤリス」
ヴィオスから生まれたタイ・中国版オリジナルヤリス
ヤリスと言っても日本のヴィッツとは似ても似つかない、オリジナルボディを持ったモデルです。全長は4.1mもあり、外観もヴィッツ=ヤリスとはまったく異なるデザインが採用されています。形式的にもXP150型で分けられているほどです。
2013年からタイ・中国(ヤリスLと呼ばれる)および台湾で現地生産・販売を開始した際は各国で外観が統一してありましたが、2016年のマイナーチェンジでは、中国向けヤリスLはさらに異なるマスクをつけて区別することができるようになりました。
アジア向けヤリスは、2002年投入の初代ヴィオスにそのルーツをもちます。初代ヴィオスは初代ヴィッツをベースに独自のセダンボディを構築した車種でしたが、2代目ヴィオスは日本のベルタと同じボディに変更。
2013年から売られる3代目ヴィオスは日本では見られない完全オリジナルデザインで、アジア向けヤリスは、このハッチバック版なのです。ややこしいですね(つまり、3代目ヴィオスの形式もXP150型になります)。
もはや理解不能、大混乱のセダン版とハッチバック版
ここからはさらにかなり難解なので読み流してもらってもいいのですが(笑)、タイではアジア向けヤリスをセダンにした「ヤリスATIV(エイティブ)」を追加、中国市場でもヤリスLにセダン版「ヤリスLセダン」が追加投入されています…って、あれ?
ヴィオスのハッチバック版がアジア向けヤリスだったのに、ヤリスをベースに逆にセダン版が出たということ? 中国市場ではさらに、3代目ヴィオスのボディ後半をヤリスLと共用したハッチバック版「ヴィオスFS」も追加…って、あれ?
中国にはそもそもヤリスLっていうハッチバックがあってですね…となると、ヴィオスFSとヤリスLというハッチバックが併売されているということに…? などなどかなりのカオス状態。書いている本人も記述が合ってるかな? と心配になります(笑)。
インドや南米にも進出中
ちなみにアジア向けヤリス XP150型は、現在インドや南米ブラジルでも生産と販売が行われ、その勢力をじわじわ拡大中。日本人がまったく知らないヤリスが世界中で走っているなんて面白いですよね。
なにはともあれ、ヤリスという名前は世界共通でトヨタの小型ハッチバックに与えられる名前だということがわかります。
現地仕様2:なぜかMAZDA2になっている「北米向けヤリス」
マツダのOEM車を現地調達
2代目からは北米でも販売が行われているヴィッツ=ヤリス。3代目も基本的にはヴィッツ=ヤリスが導入されましたが、近年、セダン版の「ヤリスiA」は、マツダ2セダン(日本名デミオ、日本未発売のセダン)のOEM車でまかなっていました。そして2020年モデルからはさらに、ハッチバック自体もマツダ2を用いることになったのです。
似たような時期に「北米仕様の新型ヤリス」と「日欧仕様の新型ヤリス」がデビューしたため、とてもややこしいのですが、言うならば「ホンモノ」のヤリスは後者。北米ではサブコンパクトカーと呼ばれるジャンルに属するヤリスは、価格が販売戦略上のキーとなります。2018年まで発売されていた3代目北米ヤリスは輸入車だったので、この点ではデメリットが大きかったといえるのです。
そもそもマツダ2セダン=ヤリスiAとなった経緯は、メキシコに工場を持ち稼働率を上げたいマツダと、価格を下げるためにもクルマを現地調達したい、というトヨタの思惑が一致した結果でした。
私たちが何気なく乗っているいろいろな日本車が、私たちの知らない姿や背景を持って世界中で活躍しているエピソードの一つと言えるでしょう。
[筆者:遠藤 イヅル]