「ヴィッツ」から「ヤリス」へ、2020年はコンパクトカーの当たり年

大好評のうちに閉幕した「第46回東京モーターショー2019」にも展示されたトヨタのニューモデル「ヤリス」。世界基準で開発されたハイレベルなコンパクトカーですが、実は「人に優しい装備」を満載。その秘密を探るべく発売前のプロトタイプで試乗してきました。


元々車名はヤリスだった

1999年に登場した「トヨタ・ヴィッツ」は日本はもちろんグローバルでも高い評価を受け、コンパクトカーの勢力図を塗り替えるほどの大ヒットモデルとなりました。

日本ではヴィッツという車名ですが、実は国外では「ヤリス」という車名で販売されています。今回実質4代目となるヴィッツですが、トヨタが誇るTNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)と呼ばれる新しいクルマ作りの考えに基づいて開発されることもあり、日本での車名も「ヤリス」に統一したわけです。

日本においても“超”重要なクルマ

販売においてもこれまでのヴィッツ同様、ヤリスは重要な役目を担うことになります。狭く複雑な道も多い日本の道路事情を考えた場合、取り回しがしやすく、燃費が良く、そして昨今では安全装備の充実はマストです。

特徴的なリアスタイル。重心高も下げることでハンドリング性能も高めています

ボディサイズは全長3,940mm×全幅1,695mm×全高1,500mm、5ナンバーサイズで立体駐車場への入庫も全く問題ありません。今回のヤリスはホイールベース(前輪軸と後輪軸の間の距離)を40mm延長しています。これによる恩恵は色々ありますが、一番大きいのは後席の足元を広さを含めた居住性の向上があります。

ステアリングも小径化、カローラから採用を開始したSDLも設定します

実際、コンパクトなボディにかかわらず、乗降性(クルマの乗り降りのしやすさ)も含め、後席に座るとヴィッツに比べると足元に少し余裕があることもわかります。

ボディカラーも新鮮

昨今のクルマ選びの際に重要さを増しているのがデザインとボディカラーです。ヤリスのデザインコンセプトは「B-Dash!」。これは大胆(BOLD)、活発(BRISK)、そして美しく(BEAUTY)の頭文字を取ったもので、いまにも走り出しそうな弾丸のようにダッシュするイメージをデザインに込めたそうです。実車の車両を見ると、シャープなヘッドライトや引き締まったデザインはアスリートを連想させアクティブな走りを予感させます。

そしてボディカラーに関しても全部で12色というワイドバリエーション、さらに昨今トレンドのひとつでもあるルーフを別色(ブラックまたはホワイト)で塗った「ツートンカラー」もオプションになりますが6色設定することでユーザーの嗜好に対応しています。

おサイフに優しい“超”低燃費に期待

ヤリスには3種類のエンジンが設定されます。新開発の1.5L直列3気筒、1.5L直列3気筒にモーターを組み合わせた「ハイブリッド」、そしてベーシックな1L直列3気筒です。

トヨタといえば、やはりハイブリッドカーが有名ですが、この新型ヤリスはさらなる低燃費が期待できます。

今回はプロトタイプということで燃費データはまだ公表されていません。しかしトヨタによればこのハイブリッド車は量販時には従来より車両重量を50kgも軽量化するとのこと。またトヨタのハイブリッドカーはEVモード、つまり電気だけで走ることが可能ですが、これまではその上限は70km/hでした。しかしヤリスはこれを130km/hまで引き上げました。

つまりエンジンをなるべく始動させすにモーターの力だけで走れる領域を拡大することで必然的に燃費は向上することになります。

これらの技術により、現在の燃費性能は従来比20%以上向上とのこと。元々燃費の良いハイブリッドカーがさらに進化することで当然月々のガソリン代も抑えることになるわけです。まさしく「おサイフに優しい」クルマになることは間違いないでしょう。

サーキットを走らせたのには理由がある

MONEY PLUSの読者の方にはなるべく専門的な用語とは使わずに解説するように心がけていますが、今回のプロトタイプをわざわざサーキットという過酷な環境で走らせたのにはトヨタがこのクルマに対して自信があるからでしょう。

試乗はハイブリッドと素の1.5Lガソリン車、さらに組み合わされる新開発のCVTや6速マニュアル(1.5Lガソリン車のみ)も体験することができました。

ハイブリッド車はやはりモーター領域で走れば静粛性は優れています。サーキットという環境ではアクセルを積極的に踏んでしまいますが、エンジンがかかった状態でも振動も抑えられており、将来市販化された時、街中や高速道路を走行するシーンでも扱いやすいはずです。

またかなり激しいコーナリングをくり返しても車両の動き(挙動と言います)が破綻すること無く安定している点も見事です。

やはり速度レンジが高い欧州などで販売する際にはハンドリングの確かさは重要なポイントです。ゆえにその点では誰が乗ってもこれまでのヴィッツとは「ひと味違う」ということがわかるはず。自分の走りたい、曲がりたいという要望にどこまでも自然に応えてくれる感覚がヤリスの美点なのかもしれません。

高齢化にも対応する装備

世の中が高齢化社会に向かう中、移動の歓びを奪ってしまったり、一方でクルマに乗ること自体がある種のストレスになってしまっては本末転倒です。

すべての高齢者がそうではありませんが、判断&認知能力の低下だけではなく、根本的な筋力の低下も問題となっています。

現在多くの自動車メーカーが運転中の事故を軽減するために「先進安全装備」を採用しています。しかし、クルマに乗る前と後に関しては意外と配慮が欠けている部分もあります。

正しいドライビングポジションを取ることは安全運転につながる基本中の基本ですが、乗車時のシート位置を合わせるのは意外と体力を使うものです。「こんなものだろう」と大体の感覚と記憶でシート位置を決めてしまうことは危険にも繋がります。

そこでヤリスには簡単な操作でシートを前回と同じ位置に戻せる「イージーリターンシート」をトヨタとして初採用しています。

シートの着座感も良好。前後席も含め、室内空間は従来より余裕があります

また腰痛持ちや筋力の低下を感じている人にとっては乗降時こそ負担が大きくなります。具体的にはシートに腰掛けた後、足を車内に入れる際の筋力、降車時にはその逆といったように身体への負担は思った以上に大きいのです。またスカートや和服などの足元を気にする場合も同様でいかにスムーズに乗り降りできるかが重要です。

その問題に対してもヤリスでは「ターンチルトシート」という新装備をトヨタ初としてオプション設定しています。簡単に説明すると前席のシートがワンアクションで外側に回転しながら傾く(シートの座面先端が前に下がる)ことで乗り降りが極めて楽になるという機構です。

回転シート自体は過去にもあったのですが、このシートの凄い点は通常のシートと使い勝手(シートスライド量や座面の高さも同じ)を確保した上で単一の回転軸ではなく、4つのリンクを使うことでシート自体を外側にせり出すことを可能にしたことです。

またシートを回転させた際にドア部分に足が干渉しないように“えぐり”を入れたり、シート後ろ側のピラーにも干渉しない設計にもなっている点も非常に良く考えられています。

トヨタによれば足腰の不自由な高齢者は約500万人いるそうですが、そのうち福祉車両を使っている人は1%と極めて少ないそうです。外出の機会が減ることで寝たきりや要介護になるリスクは2.2倍に高まるそうで、このシートは福祉車両という扱いにしないことで気軽に選べることも目的としているそうです。

苦手な車庫入れ「さようなら」

トヨタが誇る先進安全装備(予防安全パッケージ)である「トヨタ・セーフティ・センス」は標準装備されますが、この他に今回「Advanced Park」と呼ばれる運転支援システムが新設定されました。

先進安全装備には右折時の対向直進車や右左折後の横断歩行者も検知します

これは前後左右のカメラと12個のソナー(センサー)により、駐車位置を認識し、ボタン一つでアクセルとブレーキを操作して駐車してくれる(縦列にも対応)という驚きのシステムです。

駐車すべき場所のおおよその位置まで来てシステムが駐車スペースを認識すれば、スイッチを押すだけで自動でクルマが駐車を始めます。

後退時にのみクルマ側から指示が出るのでその際は自分でシフトをR(リバース)に入れる必要がありますが、それ以外は自動です。

そして一番驚いたのが白線の無い場所や自宅の駐車場などでクルマを左右どちらか側に寄せたいなどの条件がある場合、周辺をカメラで撮影し記憶することで自動駐車を可能にする「メモリ機能」を搭載していることです。

ステアリングだけでなくアクセルやブレーキも自動でクルマ側が行います

あくまでもテストによるものですが、その動きはスムーズかつ正確です。とにかく車庫入れが苦手と感じていた人にもオススメの先進機能と言えるでしょう。

2020年はコンパクトカーに注目

この他にも数多くの機能を搭載するヤリスですが発売は2020年の2月(中旬)頃を予定しているそうです。価格も燃費も含めたデータ類も現段階ではまったくわかっていません。ただサーキットの試乗や前述した新機能を体験するとコンパクトカーにイノベーションを起こすだけの内容を持っていることがわかります。

一方、2020年は最大のライバルになるであろうホンダ・フィットも発売を開始(クルマ自体は東京モーターショーで公開済み)します。この他にも電動化時代に向けた小型EVやSUVなども数多く発表が予定されています。

ライバル同士が切磋琢磨することはユーザーにとっても選択肢が増えますし、技術革新のスピードも向上します。安全・安心なカーライフを送るためにもこれらの競争は歓迎です。改めてヤリスの発売を楽しみに待つことにしたいと感じました。

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