「限られた登山の時間」「私ひとり」だけでは元気にできない?
登山初心者の知り合いを山に誘う時、あなたならどうしますか。
その人が登山に興味を持ち必要な装備や知識を得てもらうために、そしてその人が安全かつ楽しく登山できるために、「誘う側」がしなければならない工夫や知っておくべきノウハウ。
この連載は私自身の経験を通して、そのヒントを得ていただくために始まりました。
前回の記事で、根っからのインドア女子・齋藤さんを登山に連れ出し、飽きさせない工夫で月1〜2回の登山を楽しんでもらった私…。
あの人を山で元気にしたい!インドア女子が1年で剱岳に登るまで〜変化のある山選び&美味しい体験で飽きさせない!編〜
あなたの周りに「登山に連れて行きたい」と思っている人はいませんか?私は約1年前、山と無縁だったインドア女子を登山に誘い、つい先日ふたり...
しかし、彼女の日常のストレスは解消されないどころか増すばかり…。登山だけでは、私だけでは、彼女を元気にすることはできないのでは?という疑問も芽生えてきました。
そこで私が試みたのは…
【1】都会でも登山要素を楽しんでもらえる「ボルダリング」
【2】世界でもトップレベルのクライマーからの「安全登山の学び」
【3】地元ガイドとの登山による「違う角度からの山の楽しみ方の発見」
という「登山そのもの」「私にできること」とは違った視点からのアプローチです。
【1】都会でも岩稜登山の練習ができるボルダリングは「無心になれる時間」にも!
「登山」に出かけることのできる日数は限られます。そこで私は…
・都会でも登山を“擬似体験”できる
・夏山でチャレンジさせたい岩稜で必要な技術を学べる
という理由から、彼女をボルダリングジム連れて行きました。
短時間で登山の擬似体験ができるボルダリング
最近は「クライミングジム」「ボルダリングジム」の軒数も急増しています。
私たちの勤務先であった都内にも複数のボルダリングジムがあり、平日の夜にわずか数十分でも体験可能。
私は登山の“擬似体験”の場として彼女を連れて行きました。
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岩稜登山で必要な身体の動かし方も学べる
傾斜のきつい岩稜では、足だけでなく腕も使って身体を安定させながら登降する「三点確保(三点支持)」という技術が必要。初心者が岩場で、手がかり(ホールド)・足がかり(スタンス)となる場所を見つける感覚を掴むには時間がかかります。
人工的にホールド・スタンスが配置された壁を登るボルダリングは、この技術を身に付けるのに最適。夏山シーズンには彼女を八ヶ岳や日本アルプスなどの岩稜登山にチャレンジさせたいと考えていた私にとって、彼女にぜひ体験して欲しいものでした。
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無心になれる“壁と向き合う時間”
ボルダリングの経験は、剱岳をめざして取り組んだ岩稜登山の実践にも活かされました。
さらに、彼女にとってのボルダリング体験には違った効果も。次のホールドを探して集中する時間は、彼女の心にも良い影響を与えたようです。
齋藤さんの証言
過去への後悔と未来への不安ばかりで「今」に意識がなかった当時の私。
次のホールドを探してひたすら「今」に集中する…雑念がなく無心に取り組む時間は、私にとってこれまでになかった体験でした。
【2】世界的クライマーから学んだ「安全登山への強い想い」
その頃、石井スポーツ登山学校とご縁が生まれ、校長である山岳ガイド・クライマーの天野和明さんとお仕事をすることになりました。このイベントのWEB広報を担う彼女にその話をしたところ「インタビューしたい」という思いがけない反応が。早速、彼女を伴って天野ガイドのもとに伺いました。
日本人初のピオレドール賞・受賞者が目指す「安全登山を伝える人材育成」
天野ガイドは優秀な登山家に贈られる国際的な山岳賞「ピオレドール賞」を日本人として初めて受賞し、ヒマラヤの数々の高峰を「アルパインスタイル」という少数精鋭の高い技術を要求される登山スタイルで踏破してきたクライマー。
そんな桁違いの登山歴を持ちながら、終始おだやかで的確なお話を披露してくださった天野ガイド。壮絶な体験から生まれた「死生観」は“山への向き合い方”を深く考えさせられました。
また、現在の立場で目標に掲げられた「安全登山を伝える人材を育成して行きたい」という想いに、私たちも強く共感したのを覚えています。
齋藤さんの証言
天野さんの言葉で印象的だったのは「喉元過ぎれば熱さ忘れる」でした。
後から振り返るとゾッとするような危険な登攀でも、その瞬間はアドレナリンと最大限の集中力で全身全霊に「今」と向き合う姿勢。「ピオレドール賞」を受賞したインドヒマラヤ・カランカの登攀も恵まれた天候などコンディションによる“運”の部分も大きく、“実力”という意味では満足できる登攀ではなかったそうです。
天野さんとは全くレベルが違う私の登山ですが、特に危険を伴う岩稜の登山を経験して、後にこの言葉の意味を実感しました。
山のプロから知識や技術を学ぶ場に誘ってみよう!
私たちのような「インタビュー」は特殊な例ですが、こうした場に登山初心者を連れていくことは普段なかなか話を聴く機会のない「山のプロ」の様々なことを吸収してもらう良い機会になるのではないでしょうか。
・mont-bellフレンドフェア(横浜・大阪で年2回、名古屋で年1回開催)
・山小屋サミット(東京で年1回開催)
・夏山フェスタ(名古屋で年1回開催)
などの大型登山イベントでは、「山のプロ」によるトークショーが開催されています。
また、各種登山教室の机上講習でも「山のプロ」から登山の知識や技術を直接学ぶことも可能です。
石井スポーツ登山学校 HP
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【3】地元を知り尽くしたガイドと発見した「多面的な登山の楽しみ」
私とばかり登山していても“世界”が広がらないのでは…と考えた時に思い浮かんだのが、他のガイドさんと一緒に登山してもらうこと。
そこで真っ先に思い浮かんだのが、以前から私がお世話になっていた八ヶ岳の麓・長野県原村にお住まいの石川高明ガイド。親子登山・アウトドアクッキング・テント泊など様々な「登山+α」のツアーを企画・引率されています。
地元ガイドならではの知識とおもてなし
石川ガイドに案内して頂いたのは、ゆうに百回近くはガイド経験があるという北横岳。雪の下に隠れている神社の存在・北八ヶ岳特有の縞枯れ現象の成因・山頂からの展望の解説などは、その山を知り尽くした地元在住のガイドさんならでは。私と歩くだけでは知ることの出来ない様々な知識を、絶え間なく教えてくれたのです。
休憩中にさり気なくジェットボイルでお湯を沸かし、持参のミルで挽きたてのコーヒーをご馳走してくれたりという「おもてなし精神」も、常に“お客様”を案内しているプロのガイドさんだからこその姿勢。
齋藤さんの証言
その山域に根ざして活動されている「プロ」ならではの知識には、私も圧倒されながら興味津々。
同じ山でも違う人と登ることで、植生・地質や山の歴史などの「発見」を教えてもらい、新鮮な体験ができるということを実感した登山でした。
ガイド登山で新たな発見をしてもらおう!
このように、一般登山者だけでは得られない知識や技術を「プロ」として手ほどきしてくれるのが、ガイド登山の魅力。他力本願…とは思わないで、時にはそんな“第三者”の力を借りて、登山の楽しみ方の視野を広げてあげることは重要です。
それぞれのガイドの得意な「テクニック」「山域」に応じて…
・公益社団法人・日本山岳ガイド協会のガイド
・公益社団法人・日本山岳協会の指導員
・長野県の山であれば信州登山案内人
などから、自分にあったガイドを探して登山に同行してもらうのも良いのではないでしょうか。
石川高明ガイドが所属する8guide HP大勢の参加者の中の一員にはなってしまいますが、登山ツアーもガイド登山を手軽に体験できる方法としてオススメです。
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「登山以外の体験」「第三者との交流」で視野や知識を広げてもらおう!
今回私がお伝えしたかったのは、限られた登山の時間や誘う側だけの知識だけは難しい以下のような“刺激”を感じてもらうことの重要性です。
・日常でも体験できるボルダリングでの「無心になれる瞬間」
・登山のプロとの交流による「深く複数の視点から得られる学び」
・自分以外の登山者(ガイド)と一緒に歩く登山による「多面的な登山の楽しみの発見」
自分ひとりで背負いこむのではなく、自分も一緒に「学び」「楽しむ」つもりで、こうした機会を採り入れてみては如何でしょうか。
ライタープロフィール:鷲尾 太輔
(公社)日本山岳ガイド協会認定登山ガイド
高尾山の麓・東京都西部出身ながら、花粉症で春の高尾山は苦手。得意分野は読図とコンパスワーク。ツアー登山の企画・引率経験もあり、登山初心者の方に山の楽しさを伝える「山と人を結ぶ架け橋」を目指しています。