90年代に見つかった隕石から太陽系形成時の”水の氷”の痕跡を発見

太陽系が形成された頃、温度が低い領域で形成された小惑星には水の氷が含まれていたと考えられています。今回、小惑星内部に水の氷が存在していた証拠を、地球に落下した隕石のなかに見つけたとする研究成果が発表されました。

■氷が融けることで生じた微細な空間を隕石内部のあちこちに発見

松本恵氏(東北大学)、片岡章雅氏(国立天文台)らの研究チームは、理化学研究所の放射光施設「SPring-8」を使い、1990年にアルジェリアで見つかった隕石「Acfer 094」を調べました。Acfer 094は炭素質コンドライトと呼ばれる隕石のひとつで、初期の太陽系で形成された物質が含まれているとされています。

隕石の内部を放射光X線CTによって詳しく調べたところ、直径10マイクロメートル(100分の1ミリメートル)ほどの小さな空間があちこちに見つかりました。研究チームによると、この空間は、小惑星内部に取り込まれた水の氷が融けたことで生じたものとされています。

過去の研究において、水と岩石の相互作用によって生じた「含水鉱物」が隕石から見つかることはありましたが、含水鉱物を生じさせた水(氷)そのものが存在した痕跡や、それがどのように存在していたのかといった直接的な証拠は、これまで見つかっていませんでした。

発表では、太陽系初期に形成された天体がその内部に水の氷を取り込んでいたことが、今回の研究成果によって初めて直接的に示されたとしています。

■もとになった天体が「雪線」をまたいだことで空洞が生じた?

今回見つかった微小な空間が生じた過程を、研究チームは次のように考えています。ポイントとなるのは、太陽から一定の距離に存在し、水が凝結して氷になるかどうかの境界を示す「雪線(snow line)」です。

隕石のもとになった天体(母天体)は、小さな塵がたくさん集まることで形成されたとみられています。この塵はケイ酸塩の微細な粒子が集まったスカスカな構造をしていて、雪線よりも遠くでは凝結した水の氷が表面に付着していたと考えられています。

やがてこの母天体は雪線を越えて、より太陽に近い位置へと移動していきました。その間も塵は降り積もっていきますが、雪線付近では塵の表面の氷が一旦昇華したのちに再び凝縮することで、塵のスカスカなすき間が氷によって埋められていたとされています。

その後も太陽へと近付き続けたことで母天体内部の温度が上昇。取り込まれていた氷が融けて岩石と反応し、含水鉱物が形成されます。このとき、雪線付近で取り込まれた「すき間のない塵」の氷が融けたことで、母天体の内部には微小な空間が幾つも生じました。

研究チームは、この後に母天体から何らかの理由で飛び出した破片の1つが、Acfer 094として地球に落下したとしています。つまり、直径10ナノメートルという小さな空間は、母天体が水の氷を取り込んだ痕跡であると同時に、太陽系形成時の塵のサイズも示しているというわけです。

国立天文台の片岡氏は、このように小さな塵が惑星へと成長していった過程などを研究することで、惑星形成理論の解明を目指したいとしています。

Image Credit: Megumi Matsumoto et al.
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/2019/11/press20191121-03-ice.html
https://sci.nao.ac.jp/main/articles/release20191121
文/松村武宏

© 株式会社sorae