「2020年の投資先」としてベトナムが注目に値する3つの理由

米中間で貿易協議が続いていますが、2018年7月の第1弾の関税発動から1年以上が経ち、その影響は顕在化しています。米国は中国からの輸入を減らす一方、ベトナムや台湾などからの輸入を増やしています。

ベトナムから米国への輸出は今年1~10月に前年同期比+28%と増加し、米国は全体の約23%を占める最大の輸出相手国に躍り出ました。また、同国の実質GDP(国内総生産)成長率は2019年7~9月期に同+7.3%へ加速しました。

世界全体の景気が米中摩擦の影響で停滞気味な状況において、その健闘ぶりがうかがわれます。まさに「漁夫の利」を得た格好で、ベトナムは2020年の注目市場の1つと言っても過言ではないでしょう。しかし、注目の理由は「漁夫の利」だけではありません。


米中摩擦の恩恵は新たな局面へ

理由の1つ目は、米中摩擦がもたらしたベトナム経済の立ち位置の変化です。

ベトナムは以前から「チャイナ・プラス・ワン」の候補地として目されていました。中国が労働者不足と賃金上昇により低コストという優位性を失う中で、ベトナムの政治的な安定や良質で豊富な労働力、地理的・戦略的な位置づけなどが注目されていたのです。

そこに米中摩擦懸念が加わったことで、中国からベトナムへの直接投資額は2019年1~10月に前年同期の2.7倍にのぼる21億ドルに急増。香港経由で投資する実態も加味すると、投資額は38億ドルに膨らみます。政府が積極的に外資規制の緩和を行い、市場を開放したことも、製造業の進出を促しました。

貿易面でも、2007年の世界貿易機関(WTO)加盟に続き、2015年末にASEAN(東南アジア諸国連合)経済共同体(AEC)に創設メンバーとして参加。2018年末発効の環太平洋経済連携協定(TPP11)にも加わっています。域内関税の低下を利用した輸出産業は、今後も堅調に推移すると予想されます。

ユニクロ進出が映す消費動向の変化

2つ目の理由は、所得の増加による中間層の拡大と、消費行動の質的な変化です。

海外企業の投資や生産が増加するにつれて労働需要が拡大しており、ベトナムの消費市場の急成長が注目されます。1人当たりGDPは2018年に2,551ドル程度でしたが、2020年には2,955ドルに拡大する見込み。いよいよ耐久消費財の普及局面への入り口に立つ見通しです。そして、2024年には3,952ドルまで増加すると予想されています(IMF予想)。

ベトナムの「三種の神器」といえば、カラーテレビ、バイク、携帯電話ですが、すでに高い普及率にあることから、今後は冷蔵庫などの家電の購入が増加すると期待されます。

購買力の向上に伴って多様な消費スタイルが広がっている点も注目です。いわゆる「市場(いちば)」と言われる伝統的な小売業態の販売の伸び率は2018年に同+5%だったのに対し、小型店舗やコンビニエンスストアなど近代的な小売業態の販売は同+14%と急成長しました。

質的変化も見られており、女性はファッションやコスメ、男性もファッションに加え、IT製品や嗜好品などに消費対象が広がっています。こうした変化を捉え、ユニクロは12月6日、ベトナムで初出店ながらも東アジアで最大級となる「ユニクロ ドンコイ店」をホーチミンに開店する予定です。

さらに、ベトナム政府はキャッシュレス決済を普及させ、小売店の店頭決済の効率化や透明化を目指す心づもりです。韓国企業とのプロジェクトにより、現金支払い比率を2016年の90%から2020年に10%まで引き下げる計画です。

都市開発で日系企業にも恩恵か

そして3つ目の理由が、スマートシティ構築の動きです。

ASEANは、昨年の議長国・シンガポールの下で、持続的な都市開発を目指す「ASEANスマートシティ・ネットワーク(ASCN)」の構築で合意しました。ASEANの企業は域外企業と協業し、2025年にかけてスマート化を推進していく計画です。

加盟諸国では今後、急速に都市化が進み、2030年までに新たに9,000万人が都市人口に加わると予想されています。これに伴って生じる交通渋滞や水質汚染、貧困、格差拡大など、さまざまな都市問題を解決するために、ITなど先端技術を活用する「スマートシティ」として域内26都市を選定。ベトナムではホーチミン、ハノイ、ダナンが選ばれました。

こうした動きを受け、日本は10月8~9日、横浜市で日ASEANスマートシティ・ネットワーク・ハイレベル会合を開催。大手メーカーや商社、プラントエンジニアリング、銀行など幅広い企業、約200社・団体が参加する「スマートシティ・ネットワーク官民協議会」を立ち上げました。

渋滞緩和やキャッシュレス決済、インフラ建設などの需要を取り込むため、政府がノウハウを持つ日本企業を個別に支援していく方針です。

株式市場では都市開発銘柄が好調

ベトナムでは、すでにさまざまなスマートシティのプロジェクトが立ち上がっています。ハノイ近郊のニャッタン橋北側に広がる開発エリア(272ヘクタール)は、住友商事が現地大手企業と組んで開発を担うことになりました。

同社は10月7日、都市化に加え、5Gや顔認証、ブロックチェーン技術の導入によるサービス高度化も図るスマートシティ開発事業の立ち上げを発表しています。近い将来には、ハノイ市街地からノイバイ国際空港まで延びる地下鉄が、同開発エリアを通る計画です。

株式市場では、具体化し始めたスマートシティ構想に関わる新規事業への期待を反映し、都市開発関連企業のパフォーマンスが足元で良好となっています。

折しもベトナムは2020年にASEANの議長国を務めます。グエン・スアン・フック首相は11月4日、今年の議長国・タイからの議長国ポスト引き継ぎ式典において、2025年までのASEAN共同体ビジョンの遂行などに積極的に取り組んでいく姿勢を明らかにしました。財・サービスの単一市場を目指すASEAN統合に一層の弾みがつくと予想されます。

<文:シニアストラテジスト 山田雪乃>

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