安田顕インタビュー◇「人や仕事に誠実に向き合いたい」――伝説の職人を体当たりで演じる「黄色い煉瓦」

安田顕インタビュー◇「人や仕事に誠実に向き合いたい」――伝説の職人を体当たりで演じる「黄色い煉瓦」

“世界的建築家のフランク・ロイド・ライトを騙して金を巻き上げた”という逸話が残っている愛知県常滑の伝説の煉瓦職人・久田吉之助の真実を探る、愛知発地域ドラマ「黄色い煉瓦~フランク・ロイド・ライトを騙した男~」が明日11月27日にNHK BSプレミアムで放送。主人公・久田吉之助を体当たりで演じた安田顕を直撃した。

僕が演じた焼き物職人・久田吉之助は、“詐欺師”という言い伝えもある人物ですが、「本当の彼は違ったんだぞ」という部分を全面に出すと、逆に表面的になってしまうと思ったんです。人って、例えば長所として見れば“粘り強い”けど、短所として見れば“しつこい”というように、ある視点から見れば立派に見えるし、別の視点から見ればマイナスのようにも見える…ということがあるじゃないですか。そういった人間の持っているエゴみたいなものを抱えつつ演じた方が、より久田が人間臭くなるかなと思っていました。

役へのアプローチとしては、まず愛知の言葉ですので、方言指導の先生がついてテープにも吹き込んでくださり、毎日聞いていました。食事制限もしていましたが、病気を患う役ですし、ト書きにそう書いてあったからやっていたまでで、役者魂なんていう大げさなものではありません。撮影期間は短かったんですが、ホテルに帰って塩もコショウもかけないサラダを食べ…これがまたおいしいんですけどね(笑)。そして寝る前にも方言のテープを小さく流していたものですから、なんだかお経みたいに聞こえてきて。毎晩、寝つきはあまり良くなかったですね(笑)。

撮影で印象に残っているのは、試行錯誤を繰り返して黄色い煉瓦が完成する瞬間の場面。「はい、本番いきます」という時に、僕が燃える窯に向かって両手を合わせて、「頼みます、焼けますように…」とやったんです。そうしたら後で、その焼き場を貸してくれた職人の方が「僕らもああやるんだよ。さすがですね。ありがとう」と言ってくださって。パッと見たら盛り塩もしてあった。僕が自然とやったことだったけれど、実際の職人の方もされていることなんだと思ってうれしかったですね。でも僕、物に対してすごく力むというか、「頑張れ!」というお芝居をすることがよくあるんですよ(笑)。これまで出演してきた作品や番組をきっかけに職人の方に触れることも多かったのですが、物に対して一つ、自分の思いを乗せるということなのかなと思いました。

久田にとっての黄色い煉瓦のように、僕にも極めたいことはあるかと言われたら…なんでしょう。早速、質問の答えとずれてしまうかもしれないんですが(笑)、この作品を見た時に感じたことがあるんです。有田焼の職人・寺内信一役の平田満さんが、できあがった黄色い煉瓦をじっと見つめるシーンがあるんですが、その“じっと見つめること”で伝わるものが僕にはすごくあって。いろいろなものに出合ったり、得たり、もちろんスキルもあって出てくるものだとは思うんですが、そういったたたずまいといいますか…、僕もそういうものが自然と出てくるような人になりたいなと思いました。あとは、人や仕事に対して、誠実に向き合うということですかね。

例えば、こういった取材でも、よかれと思って面白おかしく答えてしまったりもするんですが(笑)、逆に気を使いすぎると上っ面になってしまうし、やはりきちんとお答えしていくことが大切だなと。そうすることで自分の喜怒哀楽が記事を読んでくださる方に伝わるものなのかなと思っていて。この作品も、愛知県の常滑に黄色い煉瓦を焼く職人がいた、という事実を大切に思って演じさせていただきましたので、その思いを受け止めていただけたら幸いです。

【Q&A】

Q:ドラマの中では、一般的に伝わっているのとは違う吉之助の真実が明かされていきますが、安田さんは一般的なイメージと本当の自分とのギャップを感じることはありますか?

A:例えば、ヤクザ役をやったら「いいですね、ハマり役ですね」、マスオさんのような役をやったら「そのまんまでハマり役ですね」、煉瓦職人をやったら「すごいですね、ハマり役ですね」…というように、「ハマり役ですね」と言っていただけたらやっぱりうれしいんです。すっごくうれしいんですが、それが重なってくると、不思議な感覚にもなるというか…。「実際もそうなんですか?」と聞かれたら、「そうじゃないですよ」と答えるしかないんですよ。僕自身はそうじゃないですからね(笑)。でも、そもそも自分という人間の中にもギャップがあるというか、人の幸せに対して心から喜べる時もあるし、仲間と切磋琢磨しながらも嫉妬というものがどうしても拭い去れない時もある。取り繕っている自分って、必ずいるじゃないですか。そういった、いろんな気持ちがマーブル色にあるからこそ、人間らしいなという気がするんですよね。余談ですが、昔の歌でSugarの「ウェディング・ベル」という僕がとっても好きな歌があって。元恋人の結婚式に行く話なんだけど、サビの最後に「くたばっちまえ アーメン」って言うんですよ。それって「おめでとう」って言っているとの一緒なんですよね。世間のイメージとのギャップ、というのとは違うかもしれないですが、僕はそういうのって人間臭くていいなって思うんです。

【プロフィール】


安田顕(やすだ けん)
1973年12月8日北海道生まれ。射手座。A型。ドラマ「俺の話は長い」(日本テレビ系)に出演中。20年は1月期のドラマ「アリバイ崩し承ります」(テレビ朝日系)に出演。7月上旬から上演予定の舞台「ボーイズ・イン・ザ・バンド~真夜中のパーティー~」で主演を務める。

【番組情報】


愛知発地域ドラマ「黄色い煉瓦~フランク・ロイド・ライトを騙した男~」
NHK BSプレミアム
11月27日 午後10:00~11:00

取材・文/四戸咲子 撮影/蓮尾美智子
ヘア&メーク/諸橋みゆき(Yolken) スタイリング/村留利弘(Yolken)

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