「賃貸or購入」に正解はない?住み替え前に考えるべきこと

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。

今回の相談者は、家を買うか、賃貸に住み続けるかで悩んでいるという30歳主婦。2人目が生まれたのを機に、子どもに部屋を持たせてあげたいといいますが……。マネーフォワードから生まれたお金の相談窓口『mirai talk』のFP秋山芳生氏がお答えします。

家を買うか、賃貸に住み続けるかで迷っています。現在は地方で3LDKのアパートに住んでいます。子どもが2人いるので、子ども部屋を持たせてあげたいと思い、住宅購入か、地方都市のマンション(賃貸)に引っ越すか、または今のアパートに居続けるかで悩んでいます。

ただ、賃貸にする場合、この先も賃貸に住み続けて大丈夫なのだろうかと不安です。私の地域では住宅購入をする家庭が多く、賃貸に住み続ける家庭は少ないのです。このまま老後も賃貸に住み続けることはできるのでしょうか。それとも老後は中古住宅を購入した方がいいのでしょうか。よろしくお願いします。

<相談者プロフィール>

・女性、30歳、既婚(夫:30歳、公務員)

・子ども2人:2歳、0歳

・職業:会社員(育休中)

・居住形態:賃貸

・毎月の世帯の手取り金額:40万円

(夫:24万円※残業なしの場合、妻:16万円)

・年間の手取りボーナス額:147万円

(夫:95万円、妻:52万円)

・毎月の世帯の支出目安:33万円

※妻の収入は来年支給される予定の金額

【支出の内訳】

・住居費:7.4万円

・食費:6.5万円

・水道光熱費:3.8万円

・教育費:3.3万円

・保険料:なし

・通信費:1.5万円

・車両費:2万円

・お小遣い:夫3万円

・その他:5万円(日用品含む)

【現在の資産状況】

・毎月の貯蓄額:3万円

・現在の貯蓄総額:196万円

・現在の投資総額:なし

・現在の負債総額:200万円


秋山:現在地方に在住で、二人目のお子さんが産まれ、家の購入を考えているのですね。

「住宅を購入するべき!」「いや、賃貸でいるべき!」は、神学論争さながらに色々な意見がありますが、誰にでも共通する正解があるわけではありません。

金額面で「住宅購入か、賃貸か」を比べていくと、どのような選択をするかにもよりますが、一生ではそれほど変わりがないこともあります。購入する場合も「戸建てか、マンションか」「今買うべきか、老後に合わせて買うべきか」で悩むところだと思います。

住む物件にもよりますが、賃貸と購入は一長一短あり、どちらがベストな選択かという答えはないです。むしろ、今後どのような生活がしたいのかが重要になってきます。

今回は賃貸と購入、それぞれのメリットデメリットと、ご相談者様の現状の家計からみて購入できるのかを考えていきたいと思います。

賃貸 or 購入? それぞれの良し悪し

<賃貸のメリット・デメリット>
賃貸のメリットは、住み替えが容易ということです。

子どもがいるうちは広い家に住み、子どもが自立したら夫婦のサイズ感に広さを抑えることができますし、定年後に働かないのであればより家賃の安い田舎暮らしをするなどでコストを抑えることもできます。

日本は人口が減少しているので、空き家がこれからも増えると考えると、老後に住むところが見つからないということは考えづらいと思います。現在は単身高齢者に物件を貸したがらない大家さんもいると思いますが、将来的には見守りサービスとの併用で解消していくでしょう。

デメリットは、借りている以上、家賃が発生し続けることですね。人生100年時代と言われる昨今、長生きリスクがあり年金の支給額もそれほど期待できないとなると、人生の終盤のコストは節約していきたいですよね。

<購入のメリット・デメリット>
一方、住宅購入のメリットは、住宅ローン完済後は住宅にかかる費用が大幅に下がることです。そして、ローンがなくなれば自分の所有物になり、住む、貸す、売るなどの選択肢が増えます。

ただしローン完済後も、固定資産税や修繕費、火災保険料などは発生し、マンションの場合は管理費もかかります。

また、家の寿命より人間の方が長生きという点にも注意が必要です。例えば30歳で新築マンションを買って住み続けた場合、80歳のときに築50年のマンションに住んでいることになります。管理費や修繕費は、老朽化にともない上がることが多く、大型修繕やリフォームが発生してコストがかかることもあるでしょう。

家を買うこと自体が目的になってしまうと、本当に幸せな生活を送ることができないケースもありますので、家を購入すべきかを判断する際に必要な視点と情報をお伝えしていければと思います。一緒に考えていきましょう。

住み替えをする前に考えるべきこと

まず、今後の家族の生活がどう変わっていくかを考えていただきたいです。

お子様が2人になって、「将来それぞれの部屋を与えたい」ということですが、今後もう一人産まれてお子様が3人になる可能性はないでしょうか? そして、育休期間が終わったら復職されるのでしょうか? その際、働き方はどうなるでしょうか?

家を買う場合は、家族のフォーメーションが固まってからが良いですね。また、ご両親がご健在であれば、将来介護や同居の可能性も視野に入れておくとよいでしょう。

同時に、家や土地の相続を受ける可能性があれば、住宅購入をするべきかどうかも変わります。相続を受けるからといって必ずそこに住まなければならないわけではないですが、一度全体を俯瞰して考えると良いと思います。

そして、ご主人は転勤や転職などによる引越しの可能性はないでしょうか? 自宅購入後に転勤がある場合は、「単身赴任する」「売却する」「賃貸に出す」などの選択を迫られる可能性があります。

売却や賃貸に出す場合は、“その家に住みたい人”がどれだけいるのかが重要になってきます。お住まいは地方とのことですが、交通の便や駅までの距離、空き家がまわりに多くないか、そして近所の物件はいくらくらいかなど、賃貸情報サイトや不動産販売サイトなどで見ておくとよいでしょう。

借金はローン審査に影響も

また家を買う場合は、住宅ローンを組む必要がありますね。

2019年11月現在は金利が低いので、全額借りるフルローンという選択肢もあり得ますが、一般的には物件価格の1割ほどを頭金として入れたほうが審査も通りやすく、借入時の金利も低く抑えられることが多いようです。

物件価格のほかに不動産取得税、都市計画税、登録免許税や住宅ローンの手数料などの諸費用や、引っ越し代、カーテン代などが発生しますので、住宅購入にかかる費用は、物件価格やその他の手数料も含めていくらかかるのかをしっかりと調べる必要があります。

目安として、諸費用は物件価格の1割ほどかかると考えてよいと思います。頭金と合わせると物件価格の2割の現金があったほうが無難です。

現在、借入金が200万円あるようですが、どのような借入なのかによって、住宅ローンの審査に影響する可能性があります。奨学金の返済であれば利息も低く計画的に返済すれば問題ないですが、自動車ローンやカードローンなどの借入であれば、金利にもよりますが、今の貯蓄を使って早く返したほうがよい場合もあります。

教育費の捻出や万が一のことも想定した家計づくりを

また、お子さんの教育費についても考えておきましょう。

現在、3.3万円の教育費がかかっていますが第一子の保育園費用などでしょうか? 保育料は3歳から無償化になり、給食代やもろもろの実費以外はかからなくなりますが、習い事(体操教室・水泳・音楽など)にもお金がかかっているようでしたら、第二子にも同じようにかかる可能性がありますね。

将来どのような進路を想定していて、その教育費をどのように捻出するのかも考えることが重要です。

子どもにそれぞれ部屋を与えてあげたいということなので、相談者さまはお子様思いなのだとお察ししますが、大学の費用が払えず奨学金や教育ローンを借りることになるとお子さんの負担が増える結果になりかねません。現在と将来のコストも考えて、今いくら使うか、いくら貯蓄するかを考えると良いと思います。

また現在、無保険ですが、ご主人に万が一のことがあった場合はどうでしょうか? 保険は過剰に入る必要はないですが、お子さんが成人して自立されるまでの期間については、死亡保険を考えた方が良いと思います。遺族年金などの制度も考えたうえで、遺族の生活に最低限必要な金額をカバーできる収入保障保険などで備えられたほうが良いと思うので、その分費用がかかることを視野に入れておくとよいでしょう。

「いま」住み替えするのはおすすめできない理由

現状の貯蓄196万円から借入200万円を差し引いた純資産は、マイナスの状態です。

色々な理由で支出がかさんでいると思いますが、現在の家計では上記のことを踏まえると、今よりも家賃が上がるような地方都市部への引っ越しや住宅ローンを組むのは厳しいのではないかと思います。

例えば、水道光熱費も3.8万円と高額なので、「電気・ガス」をセット割りにすることや、節水シャワーヘッドなどで水道代・ガス代を下げることなども検討してください。通信費も、携帯代と家のインターネットなどであれば、もう少し下げられるかと思います。

公務員という安定したご職業や、ご夫婦の収入から、家を買うことはできると思いますが、現状の家計だとリスクが高いでしょう。家を買うということは、人生の中でも非常に大きな決断になります。「ローンが組めるから買う」ということではなく、現状の家計と、未来のライフプランをしっかりと見据えた上で焦らずに考えるとよいと思います。

まだまだお子さんが自分の部屋を欲しがるまでには時間があります。先述の通り、購入と賃貸はどちらが有利ということもないので、いまある負債の返済と家計の見直しをして、貯められる家計になることを最優先に、家計が安定してからどのような住宅プランにするかを考えられたら良いかと思います。以上、ご参考になれば幸いです。

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