これから伸びる投資先は?初心者のための決算書の読み解き方

決算書というと、細かい数字や文字の羅列で、それだけで拒否反応を起こしてしまう人も少なくないのではないでしょうか。 しかし、これから伸びる投資先を見つけるためには、決算書ほど有効なツールはなかなかないことも事実です。 投資の初心者でも基礎からわかる、伸びる投資先を見つけるための決算書の読み解き方を考えてみます。


決算短信と有価証券報告書

証券取引所に上場している企業は、四半期毎に企業の状況を決算というかたちで発表しないといけません。その四半期、つまり3ヵ月間のなかで、売上や利益がどうなったか、どれぐらい借り入れをしたか、現金が増えたかなどを発表します。その際、「決算短信」と「有価証券報告書」の2種類の書類を提出します。

四半期毎に訪れる決算の度に、企業は45日以内に証券取引所に決算短信を提出します。これは証券取引所のルールに従って行います。そして、決算から3ヵ月以内に財務局に有価証券報告書を提出します。こちらは金融商品取引法で義務付けられています。

2つの資料は企業の資産や負債、経営状況など似たような内容ですが、当然、決算から時間をおいて提出すればよい有価証券報告書の方が詳しく記載されています。しかし、速報性のある決算短信の方が株価への影響は強いので、株式投資をする投資家は決算短信を気にします。更に詳しく情報を得て分析したい時に、有価証券報告書を読むと考えてください。

決算説明会資料は最初に読むべし

決算短信や有価証券報告書を読んで、直近の業績を確認し、将来の業績を予測するのですが、あくまで、その企業が何をやっている会社で、どのように稼いでいるかを知ったうえでの行為です。そもそも、その企業のビジネスモデルや属している産業について知らない状態で業績を分析しても、あまり意味がありません。

筆者が運用会社でアナリストとして働いていた時、監視しなくてはいけない企業は100社近くあり、全て知っている会社ではなかったため、全社のビジネスモデルなどを把握しようとすると、それだけで膨大な時間がかかってしまいました。そこで、当時活用したのは決算説明会資料でした。

多くの上場企業は自社のホームページで、決算短信や有価証券報告書とともに、決算説明会資料もアップロードしています。この資料には、その会社のビジネスモデルや強豪との比較分析、自社が属しているマーケットの規模と、そのなかにおけるシェアなど、自分で調べたらとてつもない時間と労力を割かなくてはいけないような情報がまとまっています。一部の企業では、決算説明会資料を用いて実際に経営陣が決算の際に説明をしている動画もアップロードしてくれているため、併せて確認すると更に理解が深まるでしょう。

予想をする際は小さい数字を積み上げよ

決算説明会資料でビジネスモデルや業界の動向などを理解し、決算短信や有価証券報告書で直近の業績を確認したら、つぎにやるべきは将来の業績予想です。よく予想の精度があがらないと相談を受けますが、予想の精度が低い人はだいたい「大きな数字」を当てにいきます。

「大きな数字」とは、たとえば売上高のことです。「今年の売上高は10億円だったから、来年は12億円ぐらいだろう」という具合で、売上高の予想をこのようにザックリしています。しかし、決算説明会資料でその企業のビジネスモデルを理解すれば、売上高を因数分解することができます。そして、各因数を予想することで、精度を上げることが可能になるのです。

たとえば、ゲームアプリを運営している企業があるとします。このゲームアプリには無料版と有料版があり、売上高は有料ユーザーからの課金額だけとしましょう。そうなると、この企業の売上高は「アプリの価格×有料ユーザー数」で計算ができます。更にいえば、「無料ユーザーの何%が1年のうちに有料ユーザーになるか」や「有料ユーザーが1年のうちにどれだけ無料ユーザーに戻る、またはアプリ自体を使わなくなるか」など、各因数に影響を与えうるシナリオを全て定量化して予想することで、予想の精度を上げられます。説明会資料でマーケットの規模とこの企業の現在のシェア、そして競合との状況を把握できれば、売上高の計算式における前半の部分もさまざまな仮説を立てて検証できますね。

「競合がアプリの価格を下げているから、この企業が値上げという選択肢をとる確率は低い」や「まだこのマーケットでのシェアが3%にも満たないので、業績拡大の可能性は十分にあるが、そのためには先行投資として、広告宣伝費がかかる」などです。

月次のデータも見てみよう

このようにして将来の業績を予想するわけですが、決算自体は四半期毎に発表のため、事業の進捗を見て自分の予想があっているかを確認できるのは3ヵ月に1回になります。それでは少し不安になりますよね。

小売業界や外食業界だと、紹介した資料以外にも、ホームページ上で毎月のデータを公表している企業が多くあります。しかも、全店と既存店のデータを分けて公表してくれているため、より実態を把握しやすいようになっています。

株式投資は必ず儲かるわけではなく、損をすることもあります。ただ、なんとなくの感覚で投資をするよりは、緻密に業績を分析し、リスクを低減していくことは可能です。面倒なことをしてまで資産運用はしたくない人は投資信託を活用すればいいと思いますが、株式投資をする人は知っておいていい手法でしょう。

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