相続税はかかる?かからない? ボーダーラインにいる時の「次の一手」

相続の話になると、避けては通れない実家の不動産。

家庭を持つ子どもたちには持ち家があり、自分の亡き後、いま住んでいる家が空き家になることは目に見えています。

そんな時、孫から家を引き継ぎたいという話が舞い込みます。思ってもみないうれしい話ですが、相続人でない孫は、2割増しの相続税を払わなければなりません。

かわいい孫のために、なんとかして相続税を抑えたいといいますが……。


実家を相続させたいけど、すでに持ち家がある子どもたち

仲田ひろしさん(73歳・仮名)は、自分が住んでいる家を、亡き後、親族に引き継いでもらいたいと思っていました。

仲田さんの相続人は、長男(45歳、既婚者、子どもあり)、二男(40歳、既婚者、子どもなし)の2人。長男も二男も結婚して持ち家があります。家を相続させても、空き家になるのは目に見えています。

そんな折に、長男の子供にあたる孫(20歳)から、仲田さんの家を将来引き継ぎたいと話がありました。同時期に相続セミナーを受けた仲田さんは、孫に家を引き継いでもらうためには遺言書が必要なことを知り、今回相談に来られました。

財産5300万円、相続税はいくらかかるのか?

仲田さんの想いは次の通りです。「不動産は孫へ。その他の財産は長男、二男で均等に」

遺言書作成にとりかかる前に、推定相続人の確認を行います。仲田さんの出生から現在までの戸籍を取得し、相続人になりうる人を確定するのです。同時進行で、仲田さんの財産調査を行います。

財産は、自宅不動産以外に預貯金のみ。合計5300万円でした。このまま財産を想いどおりに渡せた場合、相続税はかかるのでしょうか。

相続財産のうち相続税がかからない金額(基礎控除)は、「3000万円+(600万円×相続人の数)」です。仲田さんの相続人は今現在、長男、二男の2人。相続税のかからない財産金額は4200万円です。そのため計算式は以下になり、1100万円に対しては相続税が課税されることになります。

(今ある財産)5300万円-(相続税のかからない財産金額)4200万円=1100万円

法定相続人に該当しない孫は、相続税が2割増し

ここで問題になってくるのは、相続人ではないけれども不動産を引き継ぐ予定になっている孫の存在です。

相続税は、引き継いだ財産の割合で負担することになります。孫も財産を引き継ぐとなれば、相続税の負担をしなければなりません。法定相続人ではない孫は、相続人の2割増で相続税の計算が行われます。しかも相続税は、現金納付が原則です。

しかし、孫が引き継ぐのは不動産。預貯金等は一切ありません。払うためには、孫自身の預貯金から捻出しなければなりません。また相続税の申告期限は、亡くなった日から10ヵ月以内。いつ“その時”がくるのかもわかりません。事前に準備が必要です。

相続税がかからないように調整することはできるのか?

もし、相続税がかからない金額(基礎控除)に財産を減らすことができれば、長男、二男、孫の3人は税金を払わずに財産を引き継ぐことができますが、はたしてそんなことできるのでしょうか。

仲田さんの財産5300万円の内訳は、自宅不動産1300万円と預貯金4000万円。財産の中には生命保険はありませんでした。そのため、今回は生命保険を相続税対策としてご提案しました。

なぜ生命保険なのでしょうか? 生命保険は、「みなし相続財産」と呼ばれています。みなし相続財産とは、民法上の相続財産ではありませんが、相続税を計算する際に相続財産とみなして課税される財産のことです。

課税すると言っても、生命保険には非課税枠があります。「500万円×法定相続人の数」の金額を、課税される生命保険金額から差し引くことができます。仲田さんの法定相続人は長男、二男の2人ですので、生命保険を使った非課税枠は1000万円になります。

仲田さんから「利用したい」との返事をいただき、預貯金4000万円のうち1000万円を生命保険にあてても今後の生活に支障がないか確認した後、保険を取り扱う専門家におつなぎしました。

保険は「お金の遺言書」

保険は「お金の遺言」とも言われます。渡したい人を受取人にすれば、相続財産とは別に渡すことができます。「不動産以外の財産を長男、二男に均等に」との意向はそのままに、長男、二男を受取人に指定しました。

すると、相続税の課税対象になりうる仲田さんの財産は以下の通りです。

(今ある財産)5300万円―(基礎控除)4200万円―(生命保険)1000万円=100万円

現時点では、100万円に対して相続税がかかるということになりますが、この100万円は仲田さんが今まで堅実にやりくりしてきた証です。「これからは自分のため、子ども、孫のためなどに使って、余生を楽しく過ごしてください」と申し上げました。

そうすることで、長男、二男、孫に相続税の負担をかけることなく財産を引き継いでもらうことができます。仲田さん自身も今後、お金の心配をあまりすることなく、楽しく過ごしていくことができるでしょう。

相続税のボーダーラインにいる時にすべきこと

きっかけは不動産を引き継いでもらいたいとの想いでしたが、その想いをカタチにするために相談してくださったおかげで、相続税がかかるか、かからないかのボーダーラインにいることが分かりました。

ちょっとした対策をしていれば相続税は発生しなかったのに、同じようにボーダーラインにいても知らないがゆえに相続税を支払わなければならなかった人もいます。手遅れになることも多いのです。

相続対策と言えば「お金持ちのすること」の意識がまだまだありますが、「相続対策」と「相続税対策」はまったく別のこと。相続はすべての人に関わることです。

だからこそ自分の財産を把握し、どう分けるのか、誰に引き継いでほしいのかを決めることから始めてください。それが決まると、その財産は誰にどのくらいの相続税がかかるのか、かからないのかを確認することができます。

相続税がかかるのであれば税金を抑えていく方法はあるのか。節税をしたうえで、まだ相続税がかかる見込みであれば、相続人が支払えるように事前に準備しておくことが必要です。

納税資金対策は、相続税対策と重なるところも多いですが、暦年贈与(年間110万円まで非課税)の非課税枠を使いながら贈与したり、先ほど出てきた生命保険を(非課税目的ではなく納税資金対策として)活用する方法など、多岐にわたります。

いま自分に相続が発生したとしたら、このまま何もしなくて問題ないのか、何かしたほうがいいのかを専門家に確認してみてください。なければ、安心して日々の生活を送ることができます。何かしたほうがいいとなった時に、いつでも相談できる専門家がいるというのは心強いものです。

今のうちからできることを少しずつ進めていきましょう。

<税理士:藤原 由親>

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