甲子園出場経験なし 広島の無名校が育成ドラフトを生んだ理由とは

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谷岡楓太 テレビ東京/追跡LIVE!SPORTSウォッチャー

そこに秘められたドラマをあなたはまだ知らない

ドラフト会議の前夜、「人生よ、変わってくれ!」とその18歳は願っていた。谷岡楓太、高校三年生。中学まではプロなんて夢のまた夢だった。

谷岡くんが通う武田高校は甲子園出場経験なし、スポーツ推薦すらない高校。

しかし、そこで彼は恐るべき成長を遂げた。速球は152キロまで上がりプロのスカウトが馳せ参じる存在に。奇跡を起こそうとしている野球部。広島県の秘密めいた山間にその舞台はあった。

武田高校は何かと先進的な学校で、授業では教科書とノートの代わりのiPadを使う。大学進学率も高い未来志向の高校だ。

その野球部の練習はなんと平日たったの50分のみ。それが学校のルールで、どの部も一緒だから破れない。50分といえば、甲子園常連校がする練習のわずか10分の1だ。

さらにグラウンドは他の部と分け合う。外野の一角ではサッカー部が練習。この環境でドラフト候補は育った。

キーマンである岡嵜監督は限られた時間の中で効率的に練習を進める。それが「フィジカルとデータ」。何やら難しそうだが見れば一目瞭然。

フィジカルは筋トレを重視。武田高校野球部では、野球の練習をする班と筋トレをする班が毎日入れ替わる。つまり練習時間の半分を筋トレに割いているのだ。

チームの平均体重は一年で7キロもアップし、その結果バッティングの飛距離が飛躍的に向上した。

続いてデータ。全ては数字で捉える。データ部門の責任者・井上副部長は理科の先生で、野球はズブの素人。だが、その細かさに脱帽した。

スピード、瞬発力、パワー、身体操作に分け、それをさらに細かく項目化して、歴代部員と比べた偏差値を算出している。受験でよく見る偏差値を野球で応用しているのだ。

ブルペンにも最新システムが導入されている。iPadに投球のデータが瞬時に示され、球速、回転数、回転軸、球の軌道などが網羅されている。

ドラフト候補の3年生、谷岡くんのデータを見てみると回転数がなんと2500回転。これはジャイアンツの菅野やホークスの千賀に匹敵する数値だという。

練習が乗ってきたところで50分が過ぎた。練習は6時前に終了。ほとんどの野球部員を含め、生徒の多くは寮に入っている。夕食が済むと毎日2時間勉強するのが決まり。練習は50分だが食後の勉強は2時間なのだ。

勉強の後はミーティング。iPadの中には電子書籍の野球の教科書が。そこには内野手が覚えるべきあらゆるケースのカバーリングや、専門用語が飛び交う体作りのための栄養学。さらには様々な地方球場の詳細まで網羅されている。

全200ページ、非売品。実はこれ、岡嵜監督が作ったもので毎年情報が更新されている。

岡嵜監督は広島商業の出身。古豪と呼ばれる伝統校で、練習量で己を磨く野球を経験した。プロになりたかったが独立リーグ止まりで夢は叶わなかった。

練習は量だと勘違いしていたのではないか。その後悔が、今の指導法を作った。

そして待っていた運命の出会い。無名だった谷岡くんがドラフトで指名されれば、岡嵜のやり方が一理あったことになる。

そして、ドラフトの日はやってきた。有力候補が次々に指名される中、谷岡くんはグラウンドの片隅で行方を見守った。

本指名が終了し、望みは育成ドラフトに移った。そして二順目、オリックスが手を挙げた。教えた側と、教わった側と二つの夢が同時に叶った瞬間だった。

プロに認められた18歳。高校野球の指導法に、ひとつの風穴は確かに空いた。