尊い仏典、対馬を経て日本へ 九州国立博物館・松浦研究員が講演 朝鮮半島から伝来 東アジアの印刷文化物語る

版経の対馬渡来の歴史的背景について解説する九州国立博物館の松浦研究員=対馬市交流センター

 日本に渡来した木版印刷の仏教経典「版経(はんきょう)」を集めた企画展を開いている九州国立博物館(福岡県太宰府市)はこのほど、長崎県対馬市厳原町の市交流センターで記念講演会「版経東漸(とうぜん)~対馬がつなぐ仏の教え~」を開いた。版経が対馬を経由して日本にもたらされた政治・外交的な背景について、同館の松浦晃佑研究員が解説した。

 「版経東漸」は、仏教が発祥地のインドから中国、朝鮮半島を経て日本に伝わったことを示す学術用語「仏法東漸(ぶっぽうとうぜん)」にちなんだ造語。企画展は、対馬島主だった宗氏が15世紀、朝鮮半島から対馬に輸入した版経を中心に30点(うち対馬島内の寺社所有17点)を展示している。

 講演会では、松浦研究員が渡来の背景を説明。朝鮮半島で仏教の地位が相対的に低下した李氏朝鮮時代(1392~1897年)、朝鮮王朝が王権を誇示するため、版経を日本の有力者への贈り物とした。日本側も権力を誇るため欲し、版経が政治的に使われるようになったという。

 対馬には多くの版経が残る。松浦研究員は、15世紀の対馬島主、宗貞盛と成職(しげもと)親子が寺社に寄進し「宗氏の家督継承の正統性をアピールする狙いがあったのではないか」と指摘。「対馬の人々が守ってきたおかげで、版経は東アジアの印刷文化の歴史を伝える文化財だと、価値を結論づけることができる」と述べた。

 企画展「版経東漸」は12月22日まで。観覧料は一般430円。月曜休館。

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