“泥沼化”必至なコクヨの敵対的買収、ぺんてる「次の一手」を予想する

オフィス用品大手のコクヨが11月15日に表明した文具大手・ぺんてるに対する買収が、泥沼化の様相を呈し始めています。オフィス用品大手のプラスがぺんてる側に立って買収防衛策を講じており、膠着状態に陥っているのです。

文具だけでなく、オフィス家具でも大手シェアを誇るコクヨの売上高は約3,150億円と、ぺんてるの10倍近い水準。その圧倒的な資金力の差をみると、ぺんてるに勝ち目はないように思われます。

しかし今回、コクヨはぺんてるの買収にかなり手こずっているように思われます。確かに、ぺんてるは非上場企業ということもあり、取引所を通じた買収が進められないという制約もあります。しかし、コクヨにとって最大の障壁は、やはりぺんてる側で買収防衛策を講じる企業たちの存在でしょう。

ぺんてるはこの先、どのようにしてコクヨと渡り合って行くのでしょうか。筆者個人の観点から予想してみたいと思います。


なぜ事態はここまでこじれたのか

本題に入る前に、そもそもなぜ今回のような事態に陥ったのか、整理しておきます。

コクヨは今年5月、ぺんてるの大株主であるファンドに対して100億円を超える出資を行い子会社化しました。これにより、コクヨは間接的にぺんてるの議決権37.45%を持つ実質的な筆頭株主となりました。

初めは海外事業などの提携など、友好的な関係を築いてきた両社ですが、11月15日に状況は一変します。コクヨがぺんてるに対する子会社化方針を事前通告なく発表したことで、ぺんてる側はコクヨの方針に不快感を示す声明を同日発表しました。

このようなコクヨによる買収は、一般的に「敵対的買収」と呼ばれます。これは「会社を乗っ取る」というイメージに近い手法で、日本に限って言えば、社会的にもあまり良いイメージを持たれていない企業買収方法です。

その代表的な事例が2005年のフジテレビ買収騒動でしょう。堀江貴文氏が率いていた当時のライブドアが、フジテレビの筆頭株主であるニッポン放送に対して実施した敵対的公開買付では、公共的側面が高いテレビ局をマネーゲームの対象にしてはならないなどという批判的な意見もありました。

“歪み”があると買収されやすい?

しかし、敵対的買収は仕掛けられる側にも、それなりの理由があるものです。当時の時価総額で6,000億円ほどあったフジテレビは、時価総額わずか2,200億円のニッポン放送が筆頭株主となっていました。

つまり、ニッポン放送の株を買い占めれば、フジテレビを買収するよりもはるかに低コストでフジテレビに対する影響力を確保できるという“歪み”が存在していたのです。

このように「何らかの歪みがある」と買収を考えている側に解釈された会社は、この“歪み”に手を加えることで買収する側に大きな経済的利益が発生すると見込まれ、ターゲットになりやすいのです。特に、自由に使えるキャッシュフローが潤沢にもかかわらず負債がないような財務状況であれば、買収のターゲットになる可能性が高まります。

買収する側の一般的な言い分を簡単にいえば、「あなたは会社の良いところを活かしきれてないので、私たちの傘下に入るほうがより効率的な経営ができる」という趣旨となります。しかし、敵対的買収は時に独り善がりであるとの印象を周囲に与えかねず、歴史的に見ても成功率が高いとはいえない手法です。

コクヨが11月15日に出したリリースでも、ぺんてるの国内事業の低収益性が海外市場への成長投資や技術投資を危うくさせ、企業価値の毀損を招くという趣旨の厳しい指摘がつづられていました。コクヨは、ぺんてるの買収によるシナジーや経営効率化により、課題ごとに営業利益率で1~2ポイントの改善が期待できるというメリットを強調します。

一方、ぺんてるはこのようなコクヨの主張に真っ向から対立。「一方的かつ強圧的な当社の子会社化方針に対し強く抗議」し、あくまで独立資本体制を維持していく意思を強調しました。このような事情から考えると、ぺんてるがコクヨに対してさまざまな買収防衛策をとっていくことに疑いの余地は少ないでしょう。

“白馬の騎士”が併せ持つ二面性

買収防衛策には、時にカードゲームのような名前がつく点が特徴的です。

まず、ぺんてるがすでに表沙汰にしている買収防衛策が「ホワイトナイト(白馬の騎士)」です。これは、望まれない相手に買収されるくらいであれば、友好的なパートナー企業に買収されたり、合併したりするほうが望ましい時に用いられる方法です。

前述のフジテレビの件では、ソフトバンク・インベストメント(現・SBIホールディングス)がニッポン放送のホワイトナイトとなり、ライブドアの買収を退けるのに大きく貢献しました。

今回、プラスはぺんてる株式を33.4%取得することで、取締役解任などの特別決議に対して拒否権を持つホワイトナイトとなると同時に、他の株主と協力して過半数以上の議決権を確保する狙いがある、といえます。

しかし、友好的な株主がコクヨ陣営に土壇場で寝返ってしまい、コクヨ側に50%より多い議決権を持たれてしまうというリスクは払拭できません。コクヨ側が50%以上の議決権が確保すると、譲渡制限が付されている株式の制限をなくす決議ができ、一層買収が容易となるからです。

コクヨの強硬策にぺんてる「次の一手」は?

その時、ぺんてる側の次の一手は何になるでしょうか。同様の状況で実際にとられたこともある買収防衛策が「ポイズン・ピル」です。

ぺんてるは、プラスなどの友好的企業に対して新株予約権を発行し、コクヨが一定以上の株式を取得した場合に株式に転換してもらうことで、相対的にコクヨ陣営の持ち株比率を低下させるといった手を取る可能性があります。

ただし、このようなスキームは「毒薬」の直訳通り、大きなデメリットも伴う手法です。

確かに、敵対的な買収側にとっては買収のためのコストが増加したり、議決権が相対的に減少する効果をもたらしたりしますが、株式の希薄化によって味方の株式価値が毀損するというデメリットもあります。また、ホワイトナイトがポイズン・ピル の行使で得た株式によって自社の経営権を大きく握られることも、将来的なリスクとなりえます。

デメリットも多いため、日本においては「事前警告型」のスキームがとられます。つまり、「このまま自社の株式を○%まで買い進めるのであれば、買収防衛策を実施する」とあらかじめ警告することで、買収の抑止力とするのです。

自然界でいえば、あえて目立つ色や模様で生息し、「食べたら毒で死んでしまうぞ」と示している動植物のようなイメージです。そこで筆者の個人的な予想としては、追加の防衛策をとる前に、まず事前警告をするという行動になるのではないか、と予想します。

買収防衛策自体は本質ではない

ここまでぺんてる側の次の一手を予想してきましたが、そもそも買収防衛策とは企業価値を高めるという目的で実施されるべきものであり、経営陣が現状にとどまるための手段ではありません。

コクヨ側からすれば、ぺんてるが効率的な経営を行っていないように見えるでしょうし、ぺんてる側からすれば、コクヨによる買収が企業価値向上に有効ではないように見えるでしょう。

最終的に判断が委ねられているのは、ぺんてるの株主となります。彼らに対して本件の正当性を両者がしっかりとアピールすることこそが、買収の成否を左右することになりそうです。

<文:Finatextグループ 1級ファイナンシャル・プランニング技能士 古田拓也>

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