「サッカーコラム」やり切った。それでも、結果は完敗 ACL制覇逃したJ1浦和からJリーグ勢が学ぶべきこと

アルヒラルに敗れ倒れ込む浦和・槙野=埼玉スタジアム

 埼玉スタジアムの北側ゴール裏にそびえ立つスタンド。そこで特別なときにだけ見られる光景がある。真っ赤に染めた無数のサポーターが肩を組み、ジャンプを繰り返す。自らのチームを鼓舞するJ1浦和が誇る応援は、チーム、そしてサポーターにとって重要な価値を持つ試合にのみ行われる。

 アジアのクラブ王者を決めるアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)決勝第2戦。11月9日(日本時間同10日未明)に敵地で行われた第1戦を0―1で落とし、浦和は圧倒的な応援を背に戦えるホームでの第2戦での逆転に懸けていた。相手はサウジアラビアの名門アルヒラル。浦和が2年前のACL決勝で下した、いわば、因縁の相手だった。

 北側スタンドでジャンプが始まったのは、0―0で迎えたハーフタイム。まるで一つの生き物のように上下動する赤い塊の前方で、気になる集団がいた。アルヒラルのクラブカラーと同じ青いウインドブレーカーを身にまとった一団が同じように肩を組んでジャンプをしていたのだ。選手たちがピッチに戻ってきたときに気づいたが、四方に散っていった彼らは浦和のボールボーイだった。

 浦和の逆転優勝を願っていたのは、キックオフ前に壮大で感動的なコレオグラフィー(人文字)を描いたサポーターだけではなかった。チームにかかわる全ての人々が愛するチームの勝利を願っていた。ところが…。試合が始まると、アルヒラルはここまでACLで対戦してきた東アジアのチームとは明らかに違っていた。恐ろしく強いのだ。

 アウェーでも一方的に圧倒された。シュート数は浦和の2本に対して、アルヒラルは23本。出場停止だった西川周作に代わって出場したGK福島春樹が見せた数々のファインセーブがなければ、第1戦で試合の大勢は決していた可能性が高い。それを第2戦につなげられたのは、ホームに戻ればサポーターからの熱い後押しを受けられるという確証があったからだ。

 タイトルの行方を左右するのは、第2戦の先制点をどちらが奪うかということ。アルヒラルが先にゴールを挙げれば、アウェーゴール(2試合合計で同点の場合、アウェーでの得点を倍に計算する)のルールがあるために、浦和は3点以上が必要になる。仮に浦和が1点を返しても、失点することなく追加点を狙わなければならない。難しい作業だった。

 前半23分、浦和にビックチャンスが訪れる。左サイドを興梠慎三がドリブルで持ち上がり、ゴール前の長沢和輝へ。巧みなポストプレーで長沢が落としたところを関根貴大がシュートしたが、ボールは体を張ったDFに阻まれた。そして、これを最後に浦和にビッグチャンスが巡ってくることはなかった。

 完全な力負け。もちろん、「もし、関根が決めていれば…」という声はあるだろう。だが、アルヒラル側から見た「もし」は浦和に比ではないほどに多かった。1点を奪おうと前に出た結果、手薄になった浦和守備陣の裏を取ることに狙いを定めたアルヒラル。後半29分に、それが結実する。右サイドを駆け上がるカリジョのドリブルを起点に最後はジョビンコが見事なつなぎを見せ、S・ドサリが「アウェーゴール」を蹴り込んだ。試合はこれで決まり、後半ロスタイムにゴミスが決めた追加点は、おまけのようなものだった。

 2試合合計で0―3の完敗。内容を吟味すれば、さらに力の開きはあった。それは選手も認めざるを得なかった。だからこそ、GK西川の口からはこの敗戦を次につなげるこのような言葉が出たのだろう。

 「負けはしたけどやり切った。もがき苦しむというか、なかなかできない経験を今回できたとポジティブに捉えました」

 フランスのゴミス、イタリアのジョビンコといった強豪国の元代表選手に加え、現役ペルー代表のカリジョの助っ人たち。中でも、カリジョはアジアでプレーしていることが不思議なくらい別格のレベルにあった。加えて、今年1月のアジア・カップで日本がサウジアラビアと対戦した時の代表選手が5人いる。

 3人いる外国籍選手の質だけを考えれば、準決勝で対戦した広州恒大もひけをとらない。しかし、問題は国内選手のレベル。中国代表は2022年開催のワールドカップ(W杯)カタール大会への道のりでも2次予選で沈没しかけている状態だ。それを考えれば、18年のロシア大会に出場するなどサウジ代表としてW杯経験のある優秀な国内選手と、強力な外国籍助っ人を組み合わせたアルヒラルによるアジア制覇は、順当といえる。個の力はもちろんだが、組織としてもかなり洗練された強力なチームだった。

 今後、日本のサッカー界はどの国際大会のタイトルを狙うのか。それをW杯に定めるのは現実的ではない。必然的に代表チームはアジア・カップ、クラブはACLとなる。ただ、代表クラスの選手のほとんどが海外でプレーする現在の日本において、Jクラブが「最強のチーム」を構成することは容易ではない。その条件下でACLにどう照準を合わせるのかが問われてくる。

 もちろん、「個」を含めたチーム全体の底上げは必要だ。槙野智章の「チームとして外国籍選手の枠をうまく使ってやることが必要」との言葉にもうなずける。アルヒラルの成功を目の当たりにすれば、そういう意見は当然出てくるはずだ。

 サポーターや関係者すべての後押しにもかかわらず、「力負けした」という現実。それを直視すれば、選手構成も含めチーム全体を見直さなければいけない。浦和に限らずACLを狙うJクラブは、考えを改める時期に差し掛かっている。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はブラジル大会で7大会目。

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