月でも使える?! 移動式建物  組み立て簡単、南極・昭和基地で可能性に挑戦

「南極移動基地ユニット」の前で意気込みを示す第61次観測隊員の鈴木聡さん=10月、東京都立川市の国立極地研究所

 南極で培った技術を月面へ―。宇宙航空研究開発機構(JAXA)と国立極地研究所、ミサワホームが、厳しい寒さにも耐え、組み立てしやすい移動式の建物の研究を進めている。その名は「南極移動基地ユニット」。11月27日に日本を出発した第61次観測隊が南極に持ち込み、実際の使用に耐えられるかを昭和基地で実験する。将来、月面の有人拠点をつくる際に技術応用できるか、その可能性を探る。

 ▽6時間で設置可能!

 ユニットは長さ6・0メートル、幅2・4メートル、高さ3・0メートルで、コンテナのような形をしている。重さは約4・5トンで、この形のまま南極観測船「しらせ」の甲板に積み、南極に持ち込む。壁を外して2基をつなげると約33平方メートルの部屋になり、打ち合わせや食事のスペースなどに利用できる。そりに乗せて運べるのも特徴だ。

 南極や月面では、当然ながら建築作業の経験を持つ人材は限られる。不慣れな観測隊員数人でも組み立てやすくするため、電気配線をはめ込み式でつなげられるようにするなど各所に工夫がある。隊員4人なら、5~6時間かければ組み立てられるという。

 ユニットは太陽熱を吸収しやすいよう黒く塗装。太陽光発電装置も備える。パネルは太陽高度の低い南極でも効率がいいように側面に設置している。さらに、熱をロスしないように室内の二酸化炭素濃度を感知して作動する換気扇もついている。

報道関係者に公開された「南極移動基地ユニット」の内部=10月、東京都立川市の国立極地研究所

 ▽16カ月の出張に、妻は

 第61次隊は、昭和基地主要部から約1キロ離れたエリアにこのユニットを設置する予定だ。来年2~9月、隊員が実際に寝泊まりしてみて、機能に問題ないかを実験。室温や湿度などさまざまなデータも収集する。その後、内陸にあるドームふじ基地へ輸送し、使う予定だ。

 ユニットに泊まり込む隊員を出せば基地運営に関わる人数が減るため、越冬隊長の青山雄一(あおやま・ゆういち)さん(49)は「少ない人数で基地運営をする訓練にもなる」と話す。

 実験に従事する隊員は、ミサワホームグループ会社社員の鈴木聡(すずき・さとし)さん(40)。越冬隊員は2021年3月の帰国まで、16カ月もの出張となる。それでも、上司から南極行きを打診された際には「行きますよ!」と即答した。「はあ?」。妻にはあきれられた。もちろん南極は初めてだが「不安はない。行ってみないと分からないが、なんとかなる」と頼もしい。

 そして仕事の意気込みを聞くと気持ちが伝わってきた。「隊員の命を預かることになるので、昭和基地のメンテナンスも含めて確実にやっていきたい」(共同通信=川村敦、気象予報士)

観測隊の活動|南極観測のホームページ|国立極地研究所

https://www.nipr.ac.jp/jare/activity/

© 一般社団法人共同通信社