スコットランドのスタートアップが目指す、高層ビルを使った再エネ発電

スコットランド・エディンバラに拠点を置くスタートアップ「Gravitricity(グラビットリシティ)」は従来のバッテリーとは異なる、数十年間、エネルギーパフォーマンスが落ちないユニークなエネルギー貯蔵システムを開発した。(翻訳=梅原洋陽)

成長し続ける再生可能エネルギー産業の製造コストが下がり続けていることはよく知られている。再生可能エネルギー技術のコストは2018年に過去最低になり、来年までには太陽光発電と洋上風力発電は化石燃料の代替エネルギーよりも安くなるだろう。そして、このようなコスト削減の流れは次の10年も続くだろう。

当然、重要と供給のバランスをとるために、エネルギーを貯蔵する技術の発達も欠かせない。システムは多様な使われ方をし、エネルギー貯蔵は今後「発電やエネルギーネットワーク強化の実用的な代替策になるだろう」とBloomberg New Energy Financeは伝えている。

こうしたグリーンエネルギーの需要と供給の難問を解決する一端をスコットランド・エディンバラが拠点のスタートアップGravitricityのチャーリー・ブレア社長は担おうとしている。

Gravitricityは、ユニークなエネルギー貯蔵システムを開発している。地中のシャフトの中で重りを持ち上げ、エネルギーが必要な時に下に落とすというやり方だ。

総重量1万2000トンの重りがウィンチに繋がったケーブルで深い空洞の中に吊るされている。そして例えば、風の強い日など、電力が多く必要な時は、シャフトの上部に重りを吊し上げられる。そして重りは1秒もかからずに離され、ウィンチがジェネレーターとなり、必要に応じて大量の電力を一気に製造したり、ゆっくりと離したりすることが可能だ。

これは、24メガワット時のシステムで、500トンの重りが24個あり、1時間で63,000戸分の電力を生み出せる。

ブレア氏はGravitricityで4つの特許を出願。2つは審査中という。同氏によると、このシステムはバッテリーシステムとは異なり、数十年間が劣化することなく使用できるとのことだ。

もちろん、重力を使ってエネルギーを蓄えるのは新しいアイデアではない。英国では、水力を活用した発電施設は数多くある。水を汲み上げて、必要な時に放流する方式だ。

Gravitricityの中枢は、テクニカル・ディレクターのピーター・フランケル氏と、マーティン・ライト会長だ。2人ともクリーンエネルギーの製造に何年も関わってきた人物である。

「貯蔵はクリーンエネルギー方程式の半分を解いたにすぎません。2人が解決策を探していたのは当然のことです。シンプルで洗練されたアイデアをできるだけシンプルな技術で可能にするのはピーター・フランケルらしい技です」とブレア氏は言う。

このテクノロジーは地下を掘る立坑以外にも、超高層ビルの土台で使用することで、ビルを巨大な再生可能エネルギーの貯蔵場所にできると同社は考えているようだ。

アナリストは、Gravitricityのシステムは、エネルギーをリチウム・イオンバッテリーの発電コスト(均等化発電原価)の半分ほどで保存できるものの、ブレア氏も認めるように、高層ビルを活用する方法は「とても安いものではない」ようだ。

「しかし、そもそものコンセプトは他のさまざまなところにのしかかるコストをなくすことです。高層ビルは基礎がとても大きいので、シャフトの大部分を絶対に必要な基礎の部分に組み入れることが秘訣だと思います。

そして、送電網のハードウェアを改良するには、何億ドルもの金額が必要になります。エネルギー貯蔵であれば、その費用を減らす、もしかしたらなくすことも可能です。もちろん、貯蔵設備が長期間使用できるようにする必要はありますが」

このビジョンを実現するには、ビルのデベロッパーと送電網の業者が関わることが不可欠だ。ブレア氏は「ウィン・ウィン」の余地は多くあるという。都市部の再生可能エネルギーが実現するほど、全体の施設開発にかかるコストが下がっていくからだ。

Gravitricityがどれくらいで採算が取れるかは、システムの大きさと、それぞれの場所で得られる歳入、活用できる経費節約オプションによるだろう。しかし、同社は「10年以上の耐用期間が必要な場所では、どのような状況でも相当なコスト競争力がある」と伝えている。

Gravitricityはここからどこに向かうのだろうか。デモシステムをスコットランドに建設し終えたいま、ヨーロッパのどこかで使用されなくなった立坑を利用し、本格的な試作品を数年かけてつくとうと取り組んでいる。閉鎖することが分かっている採掘場の管理者は、単純に埋め立てるのではなく、異なる活用方法を探している。Gravitricityはそこに飛び込んでいく予定だ。現在ポーランド、フィンランド、チェコ、ルーマニア、ドイツ、そして南アフリカの採掘場所有者と話をしている。

同社はすでにInnovate UK(英政府のイノベーション産業助成機関)から64万ポンド(約9000万円)の助成を受けており、ウィンチを扱う企業「ハウスマン」と250kWスケールのプロトタイプを製造する。

クラウドファンディング・プラットフォーム「CrowdCube」でのキャンペーンは、すでに目標金額の3倍以上の支援を得ているが、予算をさらに集めるために実施されている。

「気候危機が意味することは、私たちは必要な時に使用できる、新たなグリーン・エネルギーのつくり方と保存の方法を見つける必要があるということです」とブレア氏は締め括った。

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