SB Oceans:ビジネスは海を救えるのか(前編)

サステナブル・ブランド国際会議 オーシャンズ(SB Oceans)」が14-16日、ポルトガル第2の都市ポルトで開催された。テーマを「時間がまだ残されている間に、どう海洋を保護するのか」に焦点を絞り、さまざまなビジネスリーダーが集結した。前編では、BBCやCNN、ナショナルジオグラフィックなどのメディア、クルーズ会社、飲料メーカーやNGOのプラスチック廃棄物の取り組みを紹介する。

ポルト

持続可能な海を実現するために、メディアが担う役割

世界の海の現状について情報を発信する際に重要なのは、受け取り手に課題を意識させるための「深刻さ」と行動を起こさせるための「インスピレーション」の2つの絶妙なバランス、とパネリストは口を揃えた。

ハリウッド映画のプロデューサーを務めるジョン・ウォールデンバーグ氏は、「人々が不快に感じる悲劇を適度に持ち合わせながらも、一方で、前向きな道があることを感じられるインスピレーションを与えなければなりません」と話した。

BBCのプロデューサーのオーラ・ドハーティ氏は、人気の海洋ドキュメンタリー「ブループラネットII」の背景にある意図についてこう語った。

「ストーリーテリングや開いた口が塞がらないような驚きを与える映像を通して、視聴者の目の前に海が広がるようにしたいと考えました。科学者との連携によってそれを実現できました。撮影を通して、私たちは海を理解し、さまざまな発見をしました」

同氏は、「ブループラネットII」の経験を次回作であるナショナルジオグラフィック・チャンネルの新たなシリーズに生かそうしている。BBCとOceanX、ジェームズ・キャメロン監督がコラボレーションする作品で、専門家や科学者、映画監督とともに、特別に改良した船舶を使い、これまでに見たことのない海の内部に迫る作品になるだろう。

「『ブループラネットII』では動物を映しました。このシリーズで取り組んでいるのは、海に向き合う人間の姿と、人間がそこで見たものに対してどう反応するかを映すことです」

CNNデジタルインターナショナルのヨーロッパ・中東・アフリカ担当ディレクターを務めるブラスネイド・ヒーリー氏は、CNNが自らの役割をどうとらえているかを説明した。

「CNNの視聴者の中にも海を見たことがない人はたくさんいます。ですから、私たちの役割はそのギャップを埋めることです。そうすることで、住んでいる場所がどこであれ海の役割を理解できるからです。

私たちがつくるコンテンツは世界中の人々に見られています。視聴者は、自ら何ができるかを知りたいと考えています。私たちが取り上げるコンテンツの中に課題だけでなく解決策まで含めることで、視聴者はこれからの10年で自らが果たす役割があると感じられるのです」

オーシャンXの制作総責任者を務めるジョー・ラフォロ氏は、「われわれの仕事は説得力のある方法でストーリーを伝えることです。親しみやすく、面白いと思われるものにする必要があります」と話した。

クルーズ会社は海へのインパクトをどう最小限にできるか

MSCクルーズは今月、かつて産業用の砂の掘削場だった島を海洋保護とサンゴ礁保護の重要性を学び、自然と触れ合うことができるプライベート・アイランド「オーシャンケイ」として開業

「ブルーエコノミー(海洋に関する経済活動)は将来の話ではなく、いま、まさに取り組むものなのです」とポルトガル海洋省海運政策局長のルーベン・エイラス氏はSB Oceans 2日目の夕方に行われた基調講演の冒頭で語った。

エイラス氏は、海洋省のスタートアップ支援事業「ブルーテック・アクセラレーター」の運営を行う。スタートアップがビジネスを通して海洋保全を実現するための資金やパートナーを見つけることが目的だ。同氏は「われわれは、ポルトガルの海の最大の可能性を探り始めたところです」と話した。

そこに登場したのが、世界最大のクルーズ船運営会社である米カーニバル・コーポレーションとスイスのMSCクルーズでサステナビリティの取り組みを率いるタラ・ラッセル氏とリンデン・コペル氏。

クルーズ船が海に与える影響を減らす革新的な方法を模索する2社は、ブルーテック・アクセラレーターが開発する新しいイノベーションに期待する。2社は航海時のクルーズ船の抵抗を低減し、効率を向上させる方法を探している。バイオ燃料や水素燃料電池技術といった代替燃料も検討しているといい、両者はエンジンの基幹部品とそれらが燃料効率を引き上げる方法に注目している。

世界の海を航海する船のうちクルーズ船産業が占める割合はわずかだが、同産業を可能なかぎり責任ある産業にするまでには長い道のりがある。「実現したいものと現在のテクノロジーや燃料で実現できるものにはギャップがある」とコペル氏は語った。

ラッセル氏もこれに同意する。そして、クルーズ船が停泊して長い時間を過ごす世界中の港の協力が必要になると指摘した。クリーンエネルギーの製造や海上で分別収集した廃棄物を陸上でひとまとめにせず分別した状態のままリサイクルにまわすことなどが求められる。

クルーズ船は海の上の小さな都市のようなもの。消費するエネルギーや販売される商品など、大きなインパクトをもたらし、ポジティブなインパクトを生み出すチャンスを持ち合わせている。しかし、ラッセル氏はこう結ぶ。

「本当に必要なのは、政府と企業、資金提供者が集まり課題をさらに早く解決できるようにするということ。協働して解決策を生み出すことです」

プラスチック廃棄物クライシスを解決する

SB Ocean 3日目のオープニングを独占したのは、この10年間でもっとも議論を巻き起こしているサステナビリティのテーマだった。

今回の議論は「海のプラスチック汚染を止めるためのコラボレーションの役割」に焦点が絞られ、特に、企業がインパクトを生むためにどうNGOや非営利団体と協働できるかが話し合われた。

「海のプラスチック汚染は本当に求心力のある課題です。そしてこの緊急課題を解決するには多大なエネルギーと推進力が必要です」

そう語ったのは、WWFサステナビリティR&Dディレクターのエリン・シモン氏。

これには、共に登壇していたナショナルジオグラフィックやコカ・コーラ、世界経済フォーラムの代表も同意した。民間部門と公共部門、市民社会団体が連携することで初めて、課題は本質的に解決される。

いまのところ、プラスチック廃棄物の課題を解決するコラボレーション事例はそんなに多くない。

ナショナルジオグラフィックの非営利団体「ナショナルジオグラフィックソサエティ」でプラスチックイニシアティブの責任者を務めるテイラー・マダレーン氏は、力強いストーリーテリングを行うことを強化する。

彼女は「企業はこの問題に関して期待されていることを実行しようとしていて、私たちはそれを実現するサポートができる」と話し、ナショナルジオグラフィックの取り組み「PLANET OR PLASTIC? 」の一部として行われているオーシャン・プラスチック・イノベーション・チャレンジを例に挙げた。この取り組みでは、イノベーションを加速するユニークな知能と技術を持つ人たちを支援する「アクセラレータープログラム」を実施している。

世界経済フォーラムでグローバル・プラスチック・アクション・パートナーシップの責任者を務めるクリスティン・ヒューズ氏は、「コカ・コーラとペプシコは競合企業であるということを越えて、100%リサイクル可能なペットボトルをつくって回収するイニシアティブ『Every Bottle Back』に共同で取り組んでいます。これは、企業が力をあわせることで何ができるのかを示す事例です」と話した。

コカ・コーラのグローバルサステナビリティ部門でシニアマネージャーを務めるカミカワ・ユイ氏は、これまでの「ものを作って、使い、捨てる」システムを軌道修正する役割を果たす「デザイン・コレクト(回収)・パートナー戦略」を誇らしげに発表した。

「プラスチック廃棄物という課題に対して何もしないというのは大きなリスクになります。それは社会にとってだけではなく、私たちのビジネスにとっても同じことです。企業がプラスチック廃棄物に関するコミットメントを出す場合、何らかの理由があります。この課題は自社だけでは解決できないと分かっているのです。どうしたら達成できるかまだ分からない野心的な目標を設定するということは、協働する必要があるということです」

マダレーン氏は、セッションの結びに、計測できる結果が必要だと強調した。

「この勢いを持続するために、われわれは成果がどのようなものかを理解する必要があります。企業のコミットメントは十分というにはほど遠いという批判がまだあります。だからこそ、企業は、残された課題を挙げるだけではなく、成果について話す必要があるでしょう」

私たちは、長い時間をかけて、消費者の目の前でプラスチック汚染についてメッセージを出し続ける必要があるだろう。そのメッセージは新鮮で、現実の問題に直結したものでないといけない。プラスチック汚染は、一目瞭然でありながら、解決が困難なグローバル課題だ。それは人々が日々接するものだからこそだ。

「でも、誰かがプラスチックにお金を払うたびに、われわれには変化を促す機会が生まれているのです」――。

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