今月2日、北海道コンサドーレ札幌がデザイナーの相澤陽介氏と組んだ『CS Clothing』第二弾のアイテムの販売を開始した。コレクションはTシャツ新デザイン2種、フーディ、キッズ用アイテムなど多岐にわたる。
前回は北海道コンサドーレ札幌と相澤氏の出会いについてうかがったが、今回は、グッズを通じてクラブを強化するという目標について語ってもらった。
――コンサドーレの野々村さんとの出会いは?
役員の一人がファッション好きでうちのブランドを着てくれたのがきっかけです。クラブのアイテムが自由に作れるとなった時に社内改革の一環で、声をかけてくれたんです。野々村さんとあったら細かいことは考えずにその場で是非、と。
――その場で。
そうそう。最初はユニフォームのデザインをやると思っていたんです。まだ、ユニフォームはできていないのですが、チームを見に行った時にグッズが魅力的に感じなかったんです。
僕はアメリカや、ヨーロッパなど訪れる場所でかなりグッズを購入していたので、気になりました(笑)。まずはそこから始めようかとなりました。
――最初は何からスタートしたのでしょうか?
デザインよりまず最初にJリーグマーケティングなどにいって勉強したんです。
これまでのグッズの原価率、利益率、消化率とか。サッカーチームを構成する三本の矢のうちの1つであるグッズ売り上げは全クラブで平均8%、コンサドーレではその平均もない。そこで、サポーターに認めてもらうデザイン、プロモーションから入りました。
そこから全体像を作っていき、チームが出すアウトプット商材として問題がありそうな部分を攫って考える中でポスター等もやっていかないとイメージアップにならないと気がつき、その部分もテコ入れをしてきました。
――デザインだけでなく俯瞰的に全て携わったのはなぜですか?
やらないと無理だな、と。例えば、僕がかかわったデザイン画をグッズ業者さんが作るとかだと、何回か着たらびろびろに伸びてしまったとか。そうなりかねない。
ファッションのブランドってデザイナーだけやっていいデザインをやっていただけじゃ生き残れないんです。僕は、多摩美術大学でデザインコンセプトの授業をやっていたりして、生徒にもよく言うんです。スキルが高いだけとか、デザインがいいだけでなく、全体を俯瞰できる力を養わないといけないと。
だから、ポスターもやって、沖縄のキャンプに参加して選手に会って…と。
――今、クラブグッズ全般として何が問題なのですか?
一番はJ1~J3全てのチームがオーダーできる環境になっていることです。なので、ジュビロならブルー、コンサドーレならレッドという色違いになる。欲しいというよりもこういうものが提供されているからチームで買い取って販売するという流通になってしまっている。
今までは、そういったルールが明確にあったのでクラブ側で自由に作れなかったというのもあります。ニューカッスルのバーの人たちみたいな「俺たちが着たいものを作らない」と商品って売れないと思うんです。
20年ぐらい前にコムデギャルソン入る前後の頃はファストファッションってださいイメージでした。今はH&M、ユニクロしかりファストファッションで成立してしまうし、ノームコアといってシンプルなファッションが流行りました。
洋服を買うという行為のハードルがぐっと低くなった。一方で、買う側の偏差値が高くなった。他にたくさん安くていいものがあるから、なかなか買ってくれないわけです。
そんな中で、Jリーグみたいに50チーム全部を平均的にやっていくという内容に限界を感じました。
――私たちも通販をやっていた経験から、展示会でテンプレートがあって、チームごとに色を分けているカタログなどを実際に見てきました。中にはJFL時代のSC鳥取のようにゲゲゲの鬼太郎とコラボしたりがありますが画一的なチームが多いです。
Tシャツ1枚1枚に意味があるということをやらないと利益が逆に出ないと思います。
今は上代も自由に設定することができます。ボディをしっかりしてデザインをちゃんとして…3-4割高くなりましたが、単純に高くなったら意味がない。(サポーター目線では)「相澤が来てモノの値段があがった。ギャランティーたくさんもらっているのかな」、となってしまう。だから、モノヅクリからちゃんとやっていかないと意味がないんです。
ちなみにギャランティは、さほどもらってないですよ。仕事ではありますが、それだけではなく、今は関わることでロマンを感じていますから。
――デザインはどのように決めているのですか?
選手が着たいものにしたいと思っています。三好選手がアントワープへ移籍するときにホワイトマウンテニアリングのTシャツを着てくれていたのですが、単純に好きで買ってくれていたと。
選手はオシャレな人が多いです。彼らがチームグッズを着たいと思えるのが一番だと思います。第一弾の撮影の時でも鈴木武蔵選手が気に入ってくれて、撮影の後もそのTシャツをよく着ているそうです。
――それは嬉しいですね。パリだとサッカーマフラーをするのがトレンドになった一方で、日本だとサッカーユニフォームを着たらださいとかいいイメージだけではありません。
若者の文化につながっていないというのが大きいと思います。本当はファッションが好きな人がサッカーを好きになることは多いんです。
だから、コアサポだけのものじゃないグッズを目指しています。例えば、鈴木武蔵選手ってすごいオシャレなんです。彼自身が「カッコいいから欲しい」と思って着ていたものをファンも欲しくなる。
そういう風にサッカー選手がなれれば一番いいなぁと思っています。それが続いた結果、札幌ではサッカーのユニフォームを着るのがカッコいいとなるかもしれません。
――Tシャツにはあえてエンブレムじゃなくて「ノーザン・ソウル」と記載したといいます。そこに込めた思いとは?
映画『ノーザン・ソウル』でも描かれたイギリスの音楽ムーヴメントが元ネタです。私はイングランドでもニューカッスル、つまりノースイングランドの方に興味があった。
コンサドーレも日本では北海道で唯一のJリーグクラブです。「北」の誇りであったり北海道の人間にしか伝えられない言葉ってあると思うんですよ。
――コンサドーレの文字やエムブレムを入れなかったのは?
仕事でも着られるとかブランドを意識した結果です。
例えばポロシャツだけどエンブレムがないならば仕事をしながらこっそり自分だけわかるものを着ることができる。仕事の後はコンサドーレの試合が見られるバーとかで飲むみたいなことができるんじゃないかなぁと思います。
実際、没のデザインのポロシャツをこっそり野々村さんが着ていたりします。「もらっちゃった」と。アウェイの試合だからちょっとはちゃんとした格好しないといけないからTシャツは無理、というときに良いそうです。
――サッカーというとスポーツの枠組みでみんな考えてしまうと思うんです。
体育会の流れがあると思うんです。自分たちのわからないことにはシャッターを下ろしてしまうというか。
コンサドーレには、野々村さんのような柔軟な考えがあるから、自分のような人間もクラブに受け入れてもらえていると思います。
サッカーといっても株式会社コンサドーレなわけです。まだまだ売り上げを伸ばさなければいけないし、チームの強化費も増やさなければいけません。そんな中、客単価をあげる工夫の1つがグッズだと思います。
――相澤さんが見てきたヨーロッパサッカーにはその参考例はあるのでしょうか?
ビッグクラブはそれぞれのブランドと組んでやっていると思うんですが、例えばフルアムなんかは2部に落ちたりしたこともあってサポーターが組織化してオフィシャルショップで(きっとサプライヤーとは別に)グッズを作って売っています。
だから、オリジナリティあふれるグッズがたくさんあるんですね。自分はそれを意識しているところがありますね。
――例えば、ナポリなんかは独自にアパレルをやってファッションショーを開いています。
ナポリはかっこいいですね。ナポリってイタリア南部のナポリ人だというプライドがありますよね。
また、イタリアファッションの一つの拠点でもあり、自分たちのサッカーを作っていこうという気質を感じます。
――札幌も200万人都市です。人口は多いと思うのですが。
可能性はあると思います。
コンサドーレのアイテムがNYヤンキースの帽子のように自分たちのファッションアイテムとして取り入れられるのが目標です。そのためにはセレクトショップで流通させるなども考えています。
――サッカーのファッションというと「ユニフォーム」はいかがですか?昔は個性的でしたが、今はテンプレート化していると感じます。
海外はそうですが、日本は地場産業的な面がありますよね。
海外でもテンプレート化の傾向が強いですが、マクロンや givova など日本ではそこまで有名なブランドでないサプライヤーのユニフォームは面白いです よ。
クラブが独自のブランドと組んでというのは逆にチャンスがあると思っています。
――もし、コンサドーレのユニフォームをデザインするとしたらどういうものにしますか?
すごく難しい(笑)。今のユニフォームってコンプレッションウェアになっていて一般の人が着づらいんですよね。
僕もユニフォームマニアなので沢山持っているんですが、昔のアイテムは伸縮性も弱いし厚いし普通の洋服と一緒なんです。
ところが、最近のは素材が進化して薄くて身体にフィットしてと、それをレプリカにするとすごく難しい。
もしかしたら、そっくりだけど全く違う素材でとかで一般化して販売することができるかもしれない。そうしたらユニフォームを着るというのが楽しくなってくるかもしれない。
――相澤さん流のデザイン哲学とは何でしょうか?
やはり自分自身がかっこいいと思えるものを作るということですかね? 流行っているからという理由で流されないというのは重要です。
例えば、ブランド立ち上げ当初、今のようにアウトドアブランドをモチーフにしているファッションブランドは少なかったと思いますし、トレンドももっとスキニーな雰囲気がありました。
その中でボックスシルエットのアウトドアのクラシックなものを着るというのをカウンターとして作ってきました。今では、アウトドアブランドも街中で着られるものを出しています。そうしたら自分たちはもっと変化をつけていかないといけません。
ーー最近では「スポーツミックス」がトレンドになっています。
今ではゴーシャ・ラブチンスキーがサッカーのユニフォームを着たり『coche』がサッカーユニフォームを解体をしたコレクションを出したりしています。
10年前にはなかった。20年前には皆無だった。
もっと言えば、自分たちのようなブランドがパリコレにでることは学生の時のファッションウィークにはなかった。当時はモードでクラシックで。
ーー私はヘヴィメタラーなんですが女の子にメタリカ好きなの?とTシャツ着ている人にいったら知らないと言われたことがあります。着てるのにそりゃないよ(笑)、と。
職業選択の自由じゃないけれど自由度が高くなっている。ロックバンドを知らなくてもカッコいいからバンドのTシャツを着る、ヒップホップを知らなくてもファッションは取り入れるとか。
トレンドを把握しながら自分たちを進化させていくことは、サッカーのチーム作りに似ていると思います。戦術や対戦相手が変わってきて、と。
2人で始めたブランドですが、規模が大きくなったら下げられないんです。サッカーでも一緒です。スポンサーをとってきたら今度は維持をしないと規模感を維持できない。
全く同じだなと思っています。だから、野々村さんの大変さが良く分かります。
――そうやって規模感が大きくなっていくとして、北海道コンサドーレ札幌にどんなチームになってほしいと思いますか?
僕が野々村さんに最初に口説かれたのは「売り上げが上がって例えば数千万円が残るとする。そうしたら有望な選手をとってこれる」ということです。例えば、主力がいなくなったとしても控えのセカンドストライカー的な選手をとってこれるわけじゃないですか。
もう1つはものづくりの部署を作るということです。企画室というか。選手のセカンドキャリアの受け皿になったらいいなと思っています。かっこいい先輩、例えば河合選手や小野選手を見て育ったユース出身の選手が引退した。となった時に作る側に回る。チームに愛着がある分かっこいいものができる気がしません?そこまでやりたいなと思っています。
はじめはユニフォームデザインの仕事だと思っていたところからグッズになって、モノヅクリ、プロモーションにまで来ちゃったということです。今、ちょうどサンプルがあがってきているんですが、今後はバリエーションを増やして、ビジネスマンが使えるトートバッグだったりいろいろできたらいいなと思います。