【美女の乗るクルマ】-scene:23- Volkswagen The Beetle × 神尾美月

Volkswagen The Beetle × 神尾美月

セピア色だった思い出の1ページが、急にカラフルに色づきだした───

Volkswagen The Beetle × 神尾美月

その時、打ち合わせをしていた取引先の人から、何の前触れもなく美月のことを聞いた。

「え、〇〇高校のご出身ですか? じゃあ神尾美月さんって知ってます?」

その名を聞いた瞬間、愛用のボールペンを握る手にギュッと力がこもった。どうやらこの人の彼女は美月の後輩で親しい間柄らしく(つまり僕とも同じ高校ということだが)、今でもたまに美月と会っているという。そしてこの人もたまたま2人の会合に同席したことがあり、美月の美貌に驚いたと言うのだ。

Volkswagen The Beetle × 神尾美月

僕自身は美月とはもう5年ほど会っていなかったが、「美しくなった」と聞かされたことで、なんだか胸のあたりがモヤっとというか、ザワザワというか、とにかくそういった感覚が襲ってきたのが分かった。

久々に美月にメールを送ると、ほどなく返信がきた。曰く「元気? いま何やってるの」と。なるべくカジュアルな雰囲気の文面でドライブに誘ってみると、「いいよ。クルマ何乗ってるか楽しみ」という返信が届いた。セピア色だった思い出の1ページが、急にカラフルに色づきだした気がした───。

美月:「本当にビートル買ったんだね。ずっと欲しいって言ってたもんね」

会うなり、彼女は僕の愛車、ビートルに興味を示した。そう、カーマニアの叔父がクラシック・ビートルに乗っていたこともあって、僕は子どもの頃から大のビートル・ファンだった。「大人になったらビートルに乗る」というのが口癖で、幼馴染でもある彼女もずっと僕にそれを聞かされて育ったのだった。

Volkswagen The Beetle × 神尾美月

だから、クラシック・ビートルの本当の名称が「フォルクスワーゲン タイプI」だということも知っているし、あの丸目ライトと豊かな曲線を描く前後フェンダーを含むキュートなデザインが、現代においても「フォルクスワーゲン」ブランドのアイコンになっているということもよくわかっている。

どちらかといえば可愛い系だった「ニュービートル」より、僕はこの「ザ・ビートル」のシックな雰囲気が好きで、いよいよ購入に踏み切ったわけだが、彼女はどうジャッジするだろうか。その答えはすぐにかえってきた。

美月:「これがザ・ビートルかー。レトロとモダンのちょうどいいバランスって感じ。やっぱセンスいいね。……あ、アナタじゃなくてクルマのことだよ(笑)」

美しさとセットのような無遠慮な性格だって変わっていない

Volkswagen The Beetle × 神尾美月

彼女との話は尽きなかった。小学生の頃からの古い仲だから、あいつはどうしたとかあの店はどうなったといった昔話はもちろん盛り上がるし、空白の5年間どうしていたか、今は何をしているのかといった話まで、まるでブロックを積み重ねるかのように、話はどんどん積もっていった。

美月は今も独身で、家から片道15分の薬局で、週休2日で薬剤師として働いている。ごく普通の暮らしぶりだが、恋人はいないようだ。

これだけの美人を周囲の男たちが放っておくはずはないと思った反面、この性格なら、ヘタな男に簡単に心を許すことはないとも考えた。彼女はとても知的で落ち着いた性格だが、言い方を変えればマイペースだ。イケメンだから、高収入だからといった理由で恋人をつくるような簡単な人ではないと僕がわかるのは、誰よりも長く友人として付き合ってきた歳月の賜物だろう。

Volkswagen The Beetle × 神尾美月

美月:「私の物の見方はちょっと独特で、それが私の魅力だって昔から言ってくれてたよね」

僕 :「まだ変わってないだろ?」

美月:「変わらないよ、そんな簡単に。けどね、これでもいろんな人と出会っては別れてきたんだよ。あ、“付き合った”って意味じゃないからね」

僕 :「わかってるよ」

小学校時代、彼女にラブレターを渡されたが、まだ幼かった僕は逃げてしまった。中学校の頃は僕のほうが好きになったが、言い出せずに3年間を過ごした。高校時代はまた好かれた。何度か美月から誘われて2人で出かけもしたが、当時の僕はバリバリの体育会系だったサッカー部で青春を費やしていた。こんなに長く一緒にいたのに、いつもすれ違ってきた。僕たちの長い歴史は、さまざまな思い出を育んできたが、2人が恋人になることはなかった。たまに忘れてた時もあるけど、結局、美月が一番いい女だということは僕もわかっていたつもりだ。

Volkswagen The Beetle × 神尾美月

彼女は大人になってとても美しくなったけれど、10代の頃から各年代でそれぞれ魅力的だったし、輝いていた。 今だって彼女のことをじっと眺めていると、人懐こい笑顔はあの頃のまま。時代に合わせてファッションやメイクは変わっても、基本的な部分は変わらないままだ。

美月:「ね、このコーヒー飲んでいいよね。飲むぞー」

まるでこの美しさとセットのような無遠慮な性格だって変わっていないじゃないか。何かに似てるな、と思った。そう、まるで美月はビートルだ。

1998年にニュービートルが出て、2011年にザ・ビートルが登場した。ニュービートル以降はFFだからオリジナルとは別モノだと言う人もいるようだが、やっぱりあのピースフルなデザインはいつの時代も健在だった。ザ・ビートルは、ゴルフ6がベースで、ニュービートルより実用面ではマシになったが、それでも荷室は狭いし、後席の頭にリアウィンドウが当たるのは変わっていない。ただ、実用性の高いクルマが欲しければ、ゴルフを選べばいい。このクルマには他のクルマでは得られないものが、確かにあり続けているのだから。

変わらない。私は変わってない。

Volkswagen The Beetle × 神尾美月

季節は冬へ近づいている。フロントガラスの向こう側に見える町の景色が、鮮やかで柔らかな色味に変化を遂げている。

人は、目に鮮やかな色合いが見えると気持ちが高揚してくるものだ。美月は、ボディカラーと同色が配色されたインパネのあしらいを気に入った様子で、このようなポップな要素が女性にとっていかに魅力的かと語りながら、心から楽しそうに笑っている。

彼女の顔を見ているだけで、僕の心の中も暖かくなってくる。5年も連絡をとらなかったことを悔いる気持ちもあるが、この笑顔を見るとすべて吹き飛んでしまう。過去に何度もすれ違ってきた僕らにとって、今さら恋だ愛だのと言いだすことはNGかと思ったが、過去のすれ違いがあったからこそ、もう少し積極的にいっても良いのではないかと思う。だから、今回はストレートに想いをぶつけた。

Volkswagen The Beetle × 神尾美月

僕 :「笑わないで聞いてほしいんだけど、僕は昔から美月のことが好きだった。なんとなく美月に好かれているのも分かってた。けど、どこかでビビッて逃げてた。だけど、今なら言える。もし美月の気持ちが変わっていないようだったら…、付き合ってほしい。」

美月:「…ふーん。時代が変わっても、私の気持ちは変わってないとでも思ったの?」

僕 :「そうあってほしいと思ってる」

美月:「変わらないよ」

「……」

美月:「変わらない。私は変わってない。昔も今もアナタが好きだよ」

Volkswagen The Beetle × 神尾美月

こんなにも「変わらない」ことの魅力を実感する時が来るとは思わなかった。 見た目が変わったり、中身が変わったり、それは成長ではあっても、まったく異質のものになるわけじゃない。こちらの見方でもいくらでも変わってくるように思えてしまうのだ。ビートルだってアイデンティティや本質的なところは変わっていない。美月もビートルも、愛らしいたたずまいは変わっていない。いつだって、変わらないことは魅力的なのだ。

「ずーと待ってたんだぞ(笑)」

昔と変わらない眩しい笑顔がそこにはあった───。

[Text:安藤 修也/Photo:小林 岳夫/Model:神尾 美月]

Bonus track

1995年5月15日生まれ(24歳) 血液型:O型

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