怒声・罵声は選手を萎縮させる 元プロが少年野球チームの新しい形に共感

少年たちに指導を行う巨人でスコアラーを務めた三井康浩氏【写真:編集部】

元・巨人、侍ジャパンスコアラー三井康浩氏 少年野球連載第4回

 元巨人で2009年WBC侍ジャパンチーフスコアラーを務めた三井康浩氏が少年野球上達のためのFull-Countの連載第4回は「新しい少年野球チームの形」です。巨人退団後、正しい知識を子供たちに植え付けたいと野球塾などで少年野球の指導を行っている三井氏が、このほど「怒声・罵声禁止」「練習時間の短縮」「お茶当番なし」などと新しい風を吹き込む、川崎市のブエナビスタ少年野球クラブを視察。「このチームは子供と一緒に伸びていくと思う」と解説した。

 前回は指導者の言葉の選び方について、お話をしました。「お前はなんであんなプレーしたんだ」「もう試合には使わない」という監督、コーチの言葉は選手を萎縮させてしまうだけで、プレーが消極的になります。子供たちの可能性も夢も消してしまう危険がある。今回、拝見したチームは短所を直そうとするのではなく、長所を伸ばそうとする前向きなスタイルが印象に残りました。

 短所を指摘されたり、怒られればプロ選手だった嫌な顔をしますから、子供たちならば、なおさらです。萎縮せずに伸び伸びとやらせることが、この年代の選手の100パーセントのパフォーマンスを生みます。せっかく小さいころから野球をやっているのですから、中学、高校、大学と野球を続けてほしい。ですが、小学生の時期に必要以上に怒られたり、他の選手と比べられたら「自分はダメな選手」だと野球を辞めてしまう子も多い。それくらいでへこたれないでほしいと思う自分もいますが、避けられない現実です。

 野球というのは、どこで飛躍的に成長するかわかりません。もしかしらたら、今かもしれません……。そこで辞められてしまったら、うまくなるチャンスを逃している。なので、「怒声・罵声禁止」というのはとても理解できます。

練習時間はもう1時間あってもいい 工夫が加わればさらに魅力的なチームに

 練習時間が土日のどちらかの半日と言います。土日、祝日の午前9時から午後5時まで練習するチームに比べると、約4分の1の時間量です。確かにダラダラと無駄に練習時間が流れていく。お昼休憩を挟んでまたやるというのは効率が悪いです。しかし、個人的にはもう少し、長くやってもいいかなとは思います。練習時間が午前9時から正午くらいだとするならば、もうプラス1時間くらいあってもいい。

 チームの人数が増えてきてしまうと、ノックや打撃練習をする時間、絶対数が少なくなってしまいます。例えばですが、このチームの場合はプラスした1時間で、ネットを広げて一斉に10か所でティー打撃をやるなどといった練習がいいと思います。40~50分打てば、かなりの量の球を打つことができます。そういう練習面の工夫はもっとできるかなと思います。1時間でいいです。それ以上やると飽きてくる子供たちも増えてくると思いますから。

 ブエナビスタ少年野球クラブの練習量は決して十分だとは言えません。ただ、「もの足りないね」と思わせる練習量でいい側面もあります。そうすれば、自分に何が必要かがわかるし、そう思える子は考え方がしっかりとしていく。そういう意識を小さい頃からしっかりと育てることが大切です。このチームはもの足りないと感じた選手が、練習後に公園や野球場で自主練習をしたり、子供たち同士で話し合っているそうです。

 いい選手をプロ野球などの高いレベルに輩出していければ野球熱が上がっていくと思います。だから、長い目で見て、裾野の拡大は必要なんです。聞くと部員数も伸び、毎週のように体験希望の子供が来るそうです。このチームの考え方が子供と一緒に伸びていくと感じました。(三井康浩 / Yasuhiro Mitsui)

プロフィール
三井康浩(みつい・やすひろ)1961年1月19日、島根県出身。出雲西高から78年ドラフト外で巨人に入団。85年に引退。86年に巨人2軍サブマネジャーを務め、87年にスコアラーに転身。02年にチーフスコアラー。08年から査定を担当。その後、編成統括ディレクターとしてスカウティングや外国人獲得なども行った。2009年にはWBC日本代表のスコアラーも務めた。松井秀喜氏、高橋由伸氏、二岡智宏氏、阿部慎之助選手らからの信頼も厚い。現在は野球解説者をしながら、少年野球の指導、講演なども行っている。

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