行政私物化、極まる首相のおごり 検証・桜を見る会と夕食会(上)

By 竹田昌弘

 政府が連日釈明に追われる「桜を見る会」。安倍晋三首相は国会答弁の内容を翻すなどした後、全く説明しようとせず、招待者名簿は野党議員が提出を求めた直後、大型のシュレッダーにかけられていた。首相が後援会主催と認めた前日の夕食会は、公選法違反などの疑いで告発までされたのに、明細書などで費用を明らかにしようとはしない。これでは共同通信が11月23~24日に実施した世論調査で、桜を見る会に関する首相の発言は「信頼できない」という回答が69%に上るのも当然だろう。一連の経過を検証していくと、森友・加計学園問題と同様の長期政権による行政の私物化、そして首相のおごりが浮かび上がってくる。(共同通信編集委員=竹田昌弘) 

「桜を見る会」であいさつする安倍首相=4月13日、東京・新宿御苑

■本来は「各界の功労者を慰労する内閣の公的行事」

 桜を見る会は1952年以来、首相が各界で功績、功労のあった人たちを招き、日頃の苦労を慰労するとともに、親しく懇談する内閣の公的行事。菅義偉官房長官は5月13日の衆院決算行政監視委員会で、こう説明した。 

 1月25日の閣議で配布された今年の開催要領では、招待者は「計約1万人」。招待範囲を「皇族、元皇族」「各国大公使等」「衆・参両院議長および副議長」「最高裁判所長官」「国務大臣」「副大臣および政務官」「国会議員」「認証官(任免に天皇が公的に証明する認証が必要な官職、副大臣、最高裁判事、検事総長、会計検査院の検査官など)」「事務次官等および局長等の一部」「都道府県の知事および議会の議長等の一部」「その他各界の代表者等」の11区分に限っている。そもそも首相の後援会が支持者に案内状を出し、参加希望者を募るような行事ではない。首相は自らの支援者は「その他各界の代表者等」の「等」だとでも言うのだろうか。 

東京新聞が「首相のお友だち目立つ」と報道 

 東京新聞の榊原崇仁記者は4月16日の朝刊特報面で、3日前に東京の新宿御苑で開かれた桜を見る会について「今年は安倍首相の『お友だち』の姿が目立った。さらに、開催に数千万円の税金が投じられるのに、招待者の氏名すら公表されないのだ」「招待客で目立ったのは、何の『功労』だろうか、作家の百田尚樹氏や竹田恒泰氏、タレントのケント・ギルバート氏ら、排外主義的な思想を掲げるネット右翼(ネトウヨ)から人気を集める『右派文化人』。安倍首相と記念撮影した様子を、うれしげにツイッターに投稿していた」などとする記事を書いた。 

 また記事では「内閣府によると」として、招待者の中に与党が推薦した人が多数いることを明らかにし、専修大の岡田憲治教授(政治学)が「与党の推薦による出席者も多いとなると、政治色の強いパーティーにも思えてしまう。安倍政権は『支持率が高ければ何をやっても構わない』と振る舞ってきた。この会にも、そんなおごりが見え隠れする」とコメントしている。 

共産議員が提出求めた1時間後、招待者名簿はシュレッダーに 

 宮本徹衆院議員(共産)の事務所によると、宮本氏はこの記事を読んで問題意識を持ったことから、5月9日の昼すぎ、内閣府と内閣官房に招待者名簿を質問の資料として提出するよう求めた。しかし、内閣府は同日午後1時20分~2時45分、大型のシュレッダーで招待者名簿を細断した。細断した時間は11月28日になって、内閣府が野党の追及本部で明らかにした。細断を隠蔽(いんぺい)工作と考える人は多いとみられるが、菅官房長官は11月27日の記者会見で「シュレッダーの空き状況や職員の勤務時間を調整した結果、使用できる一番早い日が5月9日だった。スケジュールに従って廃棄したと報告を受けている」と説明した。 

招待者名簿が細断された内閣府の大型シュレッダー(宮本徹衆院議員の事務所提供)

 内閣府が会から1カ月もたたずに、招待者名簿を破棄したのは「保管期間1年未満」に分類していたからだ。安倍政権下では、南スーダンの国連平和維持活動(PKO)に派遣された陸上自衛隊の日報や、財務省が森友学園に国有地を8億円余り値引きして売却した交渉の記録も「保存期間1年未満」とされ、政府は「廃棄した」として説明を拒んだ。厳しく批判され、政府は行政の意思決定過程の検証に必要な文書は「保存期間原則1年以上」とする新指針を定めたが、日報や交渉記録と同じような展開がまたもや繰り返された。今回も菅官房長官らが「招待者名簿は既に廃棄しており、確認できていない」と述べている。 

参院予算委員会の理事懇談会に提出された、各省庁が「桜 を見る会」招待者に推薦した人の名簿

 各省庁が招待者に推薦した人の名簿は、保存期間がおおむね3〜10年で開示されたものの、約6割が黒塗りで氏名、肩書が分からなかった。一方、宮内庁によると、毎年春と秋に天皇、皇后両陛下主催で行われる園遊会の招待者名簿は保存期間30年という。

予算同額で支出だけ増加、招待者や推薦人は「個人情報」 

宮本徹衆院議員

 桜を見る会が国会で初めて取り上げられたのは、5月13日の衆院決算行政監視委員会。宮本氏が「参加者は、第2次安倍政権の前は1万人前後だったが急増している」として経費の推移などを尋ねた。内閣府官房長の答弁によると、予算は2014年から今年まで、いずれも1766万6千円だが、実際に支出したのは14年3005万3千円、15年3841万7千円、16年4639万1千円、17年4725万円、18年5229万円と予算を大きく上回り、右肩上がりに増えていた(19年は5518万円)。予算を超過した分は内閣府の共通経費で賄ってきたという。毎年同額の予算だけ見ていると、支出の増加が分からない仕組みになっていた。来年度予算の概算要求では、5730万円と一挙に従来の3倍となったが、安倍政権は来年の桜を見る会の中止を決めている。 

 宮本氏は同21日の衆院財務金融委員会で招待者数を質問し、内閣府は14年1万2800人、15年と16年1万3600人、17年1万3900人、18年1万5900人、19年1万5400人(参加者は1万8200人)と今年を別とすれば増加傾向にあったことを明らかにした。その後、宮本氏や野党議員は国会質問や質問主意書で、桜を見る会の招待者やその推薦人などをただすが、政府は「名簿を廃棄したので分からない」「個人情報」「事務の適正な遂行に支障をおよぼすおそれがある」などとして満足に答えない状態が続く。

「まさに首相の後援会活動」 

 しんぶん赤旗の記者は首相の地元山口県下関市などで取材を続け、日曜版10月13日号で「安倍後援会御一行様ご招待」「地元山口から数百人規模」「税金でおもてなし」などの見出しで、桜を見る会の公私混同を報じた。首相が出席した11月8日の参院予算委員会で、田村智子議員(共産)は赤旗の報道などを基に首相らを追及する。やりとりの要旨は次の通り。 

 田村氏 開催要領の11区分で「その他各界の代表者等」以外は約2千人で固定的だという。「その他各界の代表者等」はどうやって決めるのか。

 内閣府官房長 各界で功績、功労のあった人を各省庁から幅広く推薦してもらい、最終的に内閣府と内閣官房で取りまとめている。

 田村氏 萩生田光一文部科学相や稲田朋美衆院議員らのホームページなどには、桜を見る会に後援会などの人たちを招いたと書かれている。萩生田さんの(後援会)常任幹事はどこの省庁が推薦したのか。

 萩生田文科相 知り合いをのべつ幕なし呼べる仕組みにはなっていない。

 田村氏 自民党は閣僚や議員に後援会の招待枠を割り振っているのでは。

 安倍首相 各省庁からの意見等を踏まえ、幅広く招待している。私は主催者としてあいさつや招待者の接遇は行うが、招待者の取りまとめ等には関与していない。

 田村氏 下関市選出の山口県議はブログで、自分の後援会女性部の7人と参加したことを明らかにしている。朝7時半にホテルを出発し、貸切りバスで新宿御苑に向かい、到着するとすぐに首相夫妻と写真撮影したと書かれている。首相自身も地元後援会の人たちを多数招待しているのではないか。

 首相 例えば自治会等々で、PTA等で役員をしている人と後援会に入っている人が重複することもある。そういう中で招待されている。

 田村氏 山口県議の後援会女性部、どこの省庁が推薦したのか。

 内閣府官房長 一連の書類は保存期間1年未満の文書として廃棄する取り扱いにしている(ので分からない)。

 田村氏 税金を使った公的行事ですよ。誰でも参加できるわけじゃない。招待者にどんな功労、功績があるのか、説明できなければおかしい。

 首相 個人情報のため、回答を控える。

 田村氏 山口県議や下関市議のブログなどを見ると、首相夫妻を囲む前夜祭があったと書かれている。桜を見る会は前夜祭とセットで、首相が後援会や支援者を慰労し、親しく懇談する行事になっているのではないか。

 首相 個人名等々は、答えを差し控える。

 田村氏 首相動静を見ると、桜を見る会当日は開会前に夫妻で会場へ入り、後援会関係者と写真撮影している。まさに後援会活動ではないか。

 首相 セキュリティーに関することなので、回答を差し控える。

「桜を見る会」について質問する田村智子参院議員=11月14日、参院内閣委員会

 ■首相千人、自民6千人、昭恵夫人や改選参院議員にも推薦枠 

 この参院予算委員会以降、桜を見る会と前日の夕食会に関する新聞、テレビの報道が連日続く。招待者の人選について、首相は11月20日の参院本会議で「私の事務所が内閣官房から推薦依頼を受け、幅広く参加希望者を募ってきた。私自身も事務所から相談を受ければ、推薦者について意見を言うこともあった」と田村議員とのやりとりで述べた答弁の内容を変更。ただ「招待者の最終的な取りまとめなどには一切関与していない。先日の答弁が虚偽だったとの指摘は当たらない」と述べた。 

 招待者の推薦については、菅官房長官が同日の衆院内閣委員会で、今年の招待者約1万5千人の内訳は、▽首相の推薦約千人▽副総理、官房長官、官房副長官の推薦計約千人▽自民党関係者の推薦約6千人▽各省庁が推薦した功労者、各国大使など約6千人▽公明党関係者、元国会議員、報道関係者など計約千人―と述べ、推薦枠の存在を認めた。 

 「昭恵夫人の招待枠もあるのか」と追及する宮本議員に対し、菅官房長官は「ありません」と否定したが、宮本氏は「なぜネット上に『招待された』という話が出るのか」と再質問すると、内閣審議官が「安倍事務所で幅広く参加希望者を募るプロセスで、夫人からの推薦もあった」と認めた。政府は17年に昭恵夫人を「私人」とする答弁書を閣議決定。日本大の岩井奉信教授(政治学)は共同通信の取材に「昭恵氏に推薦資格があるはずもなく、公私混同の極みだ」と指摘している。 

「桜を見る会」で招待客と記念写真に納まる安倍首相(中央左)と昭恵 夫人ら=4月13日、東京・新宿御苑

 さらに自民党が今年1月、7月の参院選で改選を迎える党所属の参院議員に対し、桜を見る会に「一般の方(友人、知人、後援会など)を4組までご招待いただけます」と記載した案内状を送っていたことも分かった。これでは、桜を見る会が間近に選挙を控えた参院議員から有権者への便宜供与とも取られかねない。

7年連続で飲食物納品の会社取締役、首相夫妻と親交

  一方、少なくとも2013年から7年連続で、桜を見る会で招待者らに振る舞われる飲み物・食べ物を納品してきた食料品会社「ジェーシー・コムサ」(東京)の取締役を務める男性は、妻が昭恵夫人と学生時代からの知り合いで、首相夫妻と食事をするなど親交があることも分かった。発注は希望する企業が企画書を提出し、内閣府が審査する「企画競争」方式で、契約額は13年の約970万円が今年は約2190万円と倍以上に増えている。 

 財務省によると、企画競争は随意契約の一種で、入札はしないが、複数社が企画書を提出し、省庁などが審査する。桜を見る会の飲み物・食べ物を企画競争としたことについて、内閣府は「会に見合ったもてなしが必要で、価格競争を避けるため、一般競争入札にはしなかった」と説明している。 

 こうした桜を見る会の在り方に加え、首相の後援会が企画したツアーで今年の桜を見る会前日の夕食会に参加したのは約800人に上り、その多くが桜を見る会に参加したことを、首相は11月18日の記者団との立ち話で認めている。反社会的勢力が出席していた疑いや、預託商法などを展開し破綻したジャパンライフの元会長が首相の推薦枠で招待された疑いも浮上し、桜を見る会はもはや公的行事私物化の極みと言わざるを得ない。(続く)

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