石木ダム 二審も事業取り消し認めず 原告住民ら憤りと落胆

報告集会で判決内容を批判する原告の岩下和雄さん(左)=福岡市、福岡県弁護士会館

 石木ダムの事業認定を巡る訴訟で、福岡高裁は29日、原告の請求を退けた一審判決を支持した。水没予定地で暮らす13世帯は、土地収用法に基づく手続きで先祖代々の土地の所有権を失い、明け渡し期限も過ぎている。公権力による行政代執行が現実味を帯びる中での高裁の判断に、原告や支援者らの間には憤りと落胆が広がった。一方、事業推進の行政や市民は「必要性が認められた」と安堵(あんど)した。
 控訴棄却の短い主文を読み上げ、裁判官たちは足早に法廷を後にした。わずか数秒で言い渡された判決。「これで終わり?」「こんなのおかしい」。マイクロバスに乗り合わせ、朝から2時間近くかけて裁判所にやってきた住民や支援者らは口々に不満をもらした。
 住民の岩下すみ子さん(71)は「これが裁判って言えるのか」と肩を落とし、傍聴席から立ち上がった。厳しい判決は予想していた。昨年12月に口頭弁論が始まった控訴審。今度こそは、という願いとは裏腹に、原告側が求めた証人尋問などはことごとく却下され、わずか3回の弁論で結審。代理人弁護士からも「勝てる見込みは少ない」と聞いていた。
 ダム建設に伴う付け替え道路工事現場で毎日抗議の座り込みをしていたが、股関節を痛め、手術のために約1カ月入院した。退院後も本調子とはいかないが、いちるの望みを託して裁判所に足を運んだ。結果は再びの敗訴。それでも、「裁判官に理解してもらえなくても、古里に住み続ける私たちの気持ちは変わらない」と固い決意を口にする。
 「まるで私たちから逃げているようだった」。住民の川原千枝子さん(71)は裁判官たちの態度を当てこすった。生活の基盤である土地の権利を失った今、「もう少し丁寧に向き合ってくれてもいいのでは」。判決に納得はできない。
 石丸勇さん(70)は控訴審第1回口頭弁論で意見陳述に立った。事業で地域コミュニティーが破壊され、住民が翻弄(ほんろう)された歴史を語り、「代替地に移れば、地域コミュニティーは再現できる」とした長崎地裁の判決を「事実から目を背けている」と批判した。だが高裁判決も全く同じだった。「自分の頭で考えていない。多くの住民が暮らしている土地を強制収用した、過去(のダム事業)にも例がない事態。住民の心の痛みや問題の大きさを見ているのか」と吐き捨てた。
 「上告に向け、みんなで引き続き頑張っていこう」。判決後の反対派の集会。弁護団の一人が声を上げると、原告や支援者らから大きな拍手が起きた。

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