『ジュラしっく!』東映アニメーションの若手社員が集結! 『ジュラしっく!』の製作陣に迫る!

監督:石谷恵、作画監督:山本拓美、プロデューサー:伊藤志穂

東映アニメーションでの若手プロジェクトが実現!

──この作品が生まれたのは、どういうキッカケだったのですか。

伊藤志穂(以下、伊藤):2018年の夏に会社が中長期的に成長していくために「いろいろな部署の20、30代が集まって自由な発想で企画を実行する」というプロジェクトが発足されました。この作品は、そのうちの1つです。私は、当時は総務室所属でしたので、全てが初めてでした。周りの方に助けていただきながら実現までいたった次第です。

石谷恵(以下、石谷):今回のことは東映としてはものすごく珍しいことなんです。東映は過去作のリメイクや漫画原作をアニメ化することが多いため、それらとは別に、「なにか新しいことをしてみたい」という気持ちを持つ制作スタッフも多くて。もちろん既存の作品の中でも新しい挑戦はしているのですが、ベースからは大きく外れることはありません。そんな中、今回のように若手が一から企画を作るということはすごく先鋭的でした。

伊藤会社として新しい軸を生み出そうと方向性を模索している段階にあります。

──企画書はこのメンバーで作られたのですか?

伊藤企画書作成自体は自分でして、今回の作品は技術評論社さん出版の『リアルサイズ古生物図鑑』シリーズにインスパイアを受けたものです。お話しを伺ったときに図鑑の第二弾が2019年の夏に発売されると知り、「それに合わせて1分のPVを作ろう」という話になりました。

──なぜ、古生物をモチーフにしようと思ったのですか。

伊藤図鑑のビジュアルインパクトがきっかけです。古生物といえば、アースカラーで描かれていて、横に説明文が添えてあるイメージだったのですが、この本はそうではなかった。派手で明るい色使いだし、見たことのない生物が実際のサイズで私たちの街に潜んでいる。「この子がいたらこれくらいのサイズか」という想像が膨らみ、一気に企画書に落とし込みました。

石谷「オリジナル」というのが重要だったんです。もちろん企画の選定時には原作ものの案もたくさん出ていました。でもメンバー全員がどうしてもオリジナルの案件に挑戦してみたかったんです。私たちでいくつかの作品をあげた中で、幸運にも『ジュラしっく!』は映像化までたどり着けた感じです。

──オリジナルを作るのはやはり原作ものより大変ですか?

石谷めちゃくちゃ大変です(笑)。ベースがないので…オリジナルだと浅くなりがちというか。原作があるから深みが出てくるところもあると思うので。しかも本作は図鑑が原案という点で、未だにどう作るか迷っています。PVはお試しみたいな感じで作っていて、出てくるキャラクターの性格も全部(仮)の状態です。決定してしまうと後々広げにくくなると思うので…。

──色彩やキャラクターもとても可愛いですよね。

石谷色彩に関しては伊藤さんに一番言われていたところで、色彩設計さんと一緒にこだわりました。キャラクターも、「こんな感じで」とラフを山本さんに渡したんですが、私の描くキャラクターが90年代で(笑)それを山本さんがすごく現代風にアレンジしてくれたのでありがたかったです。

──山本さんは絵を描くのにモデルとかいらっしゃるのですか?

山本拓美(以下山本):『ジュラしっく!』に関してはないですね…。でもなんとなく苺に関してはツリ目にして記号化して、素直と目の形は絶対被らせないようにして、古生物もキャラクターも一番は「可愛く描く」っていうのは貫きました。

石谷チェックする時にびっくりしたんですけど、古生物の描き込みすごいですよね。

山本古生物は人物と違って鱗とか肌の質感があるので影も多めにしたり、ある程度描かないと成立しないかなと。

石谷でも全体的に描き込んでいるのではなく、ポイントで目の周りに集中しているなどバランスは見てくれているので助かりました。

山本正直、古生物の方が楽でした。表情がないので…。

──声優さんはどのように決められたのですか?

石谷今回はナチュラル系で、誇張した表現よりは実写寄りの演技が希望でした。主人公の素直のオーディションをした時、石橋陽彩さんの自己紹介の時の演技がものすごくピッタリだったんですよ。テンションも声も低めで自己紹介した後、真っ直ぐな明るい少年といった感じで脚本を演じられてたんですね。私的にはその少し気の抜けた最初の声がキャラクターに合っていたんです。苺の方は更に悩みました。苺は主人公を彩るヒロインではなく、主人公と同じように悩みを抱えたもう一人の主人公です。一見可愛い声だけどしっかりと通った芯がある演技ということで、白石晴香さんにお願いしました。

──私の感想としてはPVの映像は続きがとても見たくなる内容でした。

石谷ありがとうございます。このPVは「続きを見たい」と思ってもらえることが課題の一つだったので、その言葉はとても嬉しいです。本作で達成しなくてはならなかった課題がもう一つありまして…それは今回の映像の明確なターゲットを社内の人間にすることでした。社内の人が面白そうだね、一緒にやろうって言ってもらえる作品にしたくて、あえて東映っぽい作品にはしないように全振りしました。

風通しの良い会社にしたい

──社内に認めてもらえることって難しいですか?

石谷「東映として」という冠がつけば珍しいテイストの作品なので認められても、冠がなかったらどうなんだろうと…。でも今回、「ワクワクする」と言って作品を手放しに喜んでくださったのはベテランの方が多かったんです。「今の東映ではこんなことができるんだ」ってメッセージを受け取ってくださったのかなって思います。

──褒めてくれたベテランの方と一緒に新しいことができるといいですね。

石谷そうですね。私としては現場が楽しいと思うのが一番で、風通しが悪いことが一番悪いことなので。この作品で風通しが少しでも良くなってくれたらいいなと思います。でも本作だけじゃダメで、どんどん後に続かないといけないんです。すぐ売上に直結しなくても、こんなことができたら面白いんじゃない? っていうアイデアがある程度のところまで上に通らないといけないと思うんです。『ジュラしっく!』が開けた小さな穴の後に他の作品が次々に続いて大きな穴をこじ開けて、会社の風通しが良くなって、いろいろと冒険できたらいいなと思います。もちろん、今継続している作品も大切に続けつつですが。

──すごいですね、立派な方ですね。

山本会社にもこんな人はあんまりいないですよ。僕もそうなんですが、みんな萎縮しちゃうし。石谷さんは熱血で引っ張ってくれるんです。それについていければな、という人は多いと思います。

──普段は一緒にお仕事しているんですか?

石谷作業場が各階に分かれているので、隣り合って仕事をする機会はほとんどありませんね。私は、進行さんに指示の伝達を全てお任せしちゃうと誠意が伝わらないと思うので、会いに行ったりします。今回、美術監督をつとめてくださった倉橋隆さんは逆によく聞きに来て下さいました。円滑に作業を進めるにはコミュニケーションが大事だなと思います。

山本コミュニケーションを取れるのが一番合理的なんですよね。できる人はみんな合理的です。

石谷確かに、できる人は合理的ですね。

山本みんな面倒くさくなって、会話もしないし適当に仕事してこれでいいだろうになっちゃうんですけど、それじゃつまらないですよね。僕も淡々と描けるタイプのアニメーターではないので、やはり気分が乗らないとなかなか描けないんですよね。『ジュラしっく!』はちゃんとしようと思える作品でした。

石谷テンションは大事ですよね。

山本大事ですよね。

石谷そういえば、作監作業は初めてでしたよね。

山本はい。1分でこんなに大変なので、本編はもっと大変なんだなと思いました。

──誰かの絵を自分の絵に直すのは大変でしたか?

山本それは問題なくて、自分の絵が画面に出るということが初めてなので怖かったですね。でもやるしかないので、やるんですが…自分の設定の絵を見ながら描くことができなくて…。

──キャラクターを覚えているからではなく?

山本いや、これでよかったのかなってずっと思っちゃいまして。自分の絵に確固とした自信があればいいのですが…。

石谷いや、そんな自信のある人いないですよ。

山本やっぱりなかなか。ぶっちゃけ一度も設定見なかったんですけど…。

石谷私は本編の絵の方が好きでした。乗ってきた感じがして。最後の方なんか絶対設定の顔じゃないんですけど凄い良かったです。

山本それならよかった。

──結果的に本編が良ければいいのでは?

山本まあ1分だからできたのかも。

石谷あ、それはそうですね。漫画の連載中にどんどん絵が変わってしまう漫画家のような感じになってしまうと大変ですしね。

山本素直は全カット顔違いますね…。

石谷最後まで悩んでましたね。ハイライトとか。最初の15秒バージョンを出した後、フルバージョンに向けて全カット直してたり。

山本伊藤さんや石谷さんが現代の中学生にこだわっていたので。僕もいい歳なんで… 外見くらいは可愛くといろいろと悩みました。

石谷でも、もともと子供描くの得意じゃないですか?

山本子供って自分の理想をのせられるんですよね。大人ってそれなりに自分の人生を歩んいでて、こうやって生きて行くのかなって思ったりするんで。実際にはいないかもしれないんですけど、子供って未来があるからこんな風にって思えるから描けるんですよね。描いてて元気になるんですよ。

石谷でも、今回は古生物の方が楽しかったと…(笑)。

山本いや、古生物も可愛いです。普段はいない古生物を、いろいろなシチュエーションで描けました。

──いいコンビですね。

石谷いや、山本さんはもう組みたくないんじゃないですかね(笑)。

山本石谷さんとやるのは大変です…普通時間が無い時とか枚数減らしたり、アクションプラン抑えたりするんですけど…。

──妥協がない(笑)。

山本そう、妥協がない。こんな動きにしてくださいって束できて、それを一枚一枚描かなきゃいけなくて…まじか! って。

石谷すみませんでした!

山本でも、確かに良くなってるんですよ。普段やらないことをやると見えることもあるなと。

──いい化学反応なのでは?

石谷いや、経験が足りないんですよ。この作業量でどこまでできるかっていう明確な時間がわかってないから無茶させてしまうことであって。それは他作品の演出をした時もよく言われました。運が良かったのは、最終回だったり、今回のようなリミッターを外していい作品が多かったことです。今後はちゃんと経験を積まないといけません。

熱量があることが一番大事

──プロデューサー的にはいかがですか?

伊藤熱量があることが一番大事なので細部までこだわることは素晴らしいと思います。「これでいいか」って気持ちは見る側にもなんとなく伝わってしまうので…。今後作品を企画するときも「本当に自分が見たい/欲しいものか?」と内側の熱を持ち続けていたいですね。

石谷熱がのせられる作品に出会うことが大事だと思うんですよね。今後も今回みたいに作れる機会があると嬉しいです。ただ、自分の力量のなさを感じたので、いつも自分がなにに興味があるかを追求して修行していかなくてはと思いました。アニメーションは完全にコントロールしなきゃいけないので、偶然性ってのが無いんですよ。例えば人の瞬きすらアニメでは意図があるんです。さりげない動作一つにも改めて向き合って、演出の意図を乗せられるようになりたいです。

山本瞬きもコントロールしたいって思う人は映像に向いてると思いますよ。

石谷そうですかね…頑張ります!

© 有限会社ルーフトップ