児童虐待の相談や通告を24時間、電話で受け付ける滋賀県の虐待ホットライン(077.562.8996(はぐくむ))。10月、ホットラインにかかってきた1件の相談電話を県側が生かせなかったことが、県議会で明らかになった。背景を取材すると、夜間・土日曜の職員の連絡体制や、要支援者の個人情報の共有度に、府県によって差があることが見えてきた。
近江八幡市で10月、男児(5)が父親(34)に足をつかまれて引きずられ、負傷して入院する虐待事例があった。翌日の土曜、ホットラインに匿名の相談電話が入ったが、児童虐待と判断する材料に欠ける内容だったため、児童の安全確認を行う児童相談所の職員には連絡が回らなかった。
4日後に父親が警察に逮捕され、男児の家庭は行政が以前から虐待の恐れがあると把握していた世帯だったことが判明した。匿名電話の主は男児の家族とみられている。県議会では、匿名であっても「電話が(要支援世帯の)該当者かどうか分かるような仕組みの検討を」と促す声が上がった。
現在、県内で要支援、要保護とされる児童は1市町当たり300~400人。ある市の担当者は「第一線の職員であっても、支援が必要な家庭を常に頭に入れておくのは難しい」と話す。
ホットラインへの相談電話は、平日は児相(県中央子ども家庭相談センター)の正規職員が、夜間・土日は県の非常勤嘱託職員5人が交代で対応している。最寄りの児相につながる仕組みの全国共通ダイヤル「189(いちはやく)」も、夜間と休日はホットラインに集約される。近江八幡市のケースでも応対したのは非常勤嘱託職員だった。
応対職員は、虐待が疑われる場合、上司に当たる児相職員に連絡する。ただ、連絡する・しないの判断基準は府県によってまちまちだ。滋賀県は、電話の内容が「虐待の通告だった場合」に限って児相職員に連絡。大阪府(NPO法人に業務委託)は「虐待通告の場合と、子育て相談でも緊急性がある場合」としている。
児相職員と非常勤嘱託職員の間で、要支援・要保護者の個人情報をどの程度共有しているかにも差がある。京都府では電話に応対する全職員が、児相が虐待通告を受理した児童の基礎情報を記した履歴簿を閲覧でき、主に警察からの照会に答えているという。だが多くの県は、非常勤職員にこうした個人情報へのアクセス権限を与えていない。
京都府の担当者は「児相職員に、過去の履歴と合わせて連絡することもある。緊急時のリスク判断や予防のためには必要」と話す。
滋賀県子ども・青少年局の園田三惠副局長は今後、電話応対者の「感度を高める」として、受話器の向こうからのSOSを的確に聞き取ることで、迅速な支援につなげたいとする。今月、臨時の研修会を実施し、電話受け付け記録の様式も見直したが、虐待防止に携わる市民団体からは「人の力には限界がある。補完する仕組みが必要だ」との声も聞かれる。
12月3日からは「189」が通話料無料となる。相談件数のさらなる増加が見込まれる中、改善が急がれる。