清原氏の“1人舞台”だったワールドトライアウト オファーの思惑、求められる実効性とこれから

「ワールドトライアウト2019」で監督を務めた清原和博氏【写真:編集部】

認知度は一気に高まった一方で、トライアウト自体の運営は手探りだった

 清原一色だった。神宮球場で11月30日に行われた「ワールドトライアウト2019」。薬物依存からの再起を図る清原和博氏が監督を務めたことで話題を集め、その一挙手一投足に周囲の注目が集まった。一方で、トライアウトには日米球界からアマも含めた26選手が参加。初めての舞台で戸惑いもありながら、次のステージへのステップにしようと奮闘する姿があった。

「キヨー!おかえり!」「待ってました!」……。寒空の下、内野スタンドで体を震わせる観客が最も盛り上がったのは、背番号3の登場だった。試合中はベンチで投手交代を告げたり、出場選手と会話を交わしたり。試合の合間には、西武時代に共に戦った東尾修氏とのトークショーで楽しませ、最後はグラウンドで感謝のあいさつ。開始から終了まで6時間あまり、清原氏の“ひとり舞台”だった。

 アスリートの再挑戦を支援する「ワールドトライアウト」社が初めて開催。東大野球部OBでもある加治佐平CEOは「挫折しても再チャレンジということを考えたときに、真っ先に思い浮かんだのが清原さんだった」と話す。2016年2月に覚せい剤取締法違反容疑で逮捕され、16年5月に懲役2年6カ月、執行猶予4年の判決を受けた清原氏。現在も薬物依存の治療を受けながら球界復帰を目指す姿が、企画の理念と重なった。

「初めて話をいただいたときはうれしさと興奮と、本当に自分でいいのかという気持ちがあって不安でした」と思いを明かした清原氏。それでも目の前で若い選手たちがチャンスをつかもうとプレー姿に「自分の若い時を思い出しました。自分にとって宝物になる1日でした」と気持ちが高ぶった。自身も再起への道中で「地道な努力もしていかないと。そして、自分の人生を一歩一歩、まだ執行猶予もあけていませんし、しっかりと足元を見つめながら野球というものを一番大切にしてやっていきたい」と言い聞かせるように語った。

参加選手の間には実力差は大きく、今後に向けた課題も見えた

 清原氏がシンボルとなったことで、駆け出しの試みながら認知度は一気に高まった。一方で、トライアウト自体の内容は、第1回らしく手探り。アマチュア選手もいる中で、各選手の実力の幅は大きかった。登板直前にスタジアムDJからインタビューを受ける演出もあり「投げる前で集中している時に話を聞かれてびっくりしました」と苦笑いを浮かべる選手もいた。

 主催者によると、MLBからは5球団のスカウトが訪れたというが、NPB球団からはゼロ。NPBへの道は「12球団合同トライアウト」が実質的に最後のアピール機会のようだが、ワールドトライアウトが掲げるのは「日本から世界、世界から日本」。出場選手の中でも、今季限りで西武を戦力外となった高木勇人投手をはじめ海外リーグも視野に入れているケースもあり、ひとつのきっかけ作りになる可能性はある。

 NPB経験者の参加は4人。「様子見だったところもあると思う」と加治佐CEOは総括した。それだけに、出場選手の中から新天地を見つける「成功例」を出して、トライアウトとしての実効性を証明していけるかもカギになりそうだ。今回MVPを獲得した高木投手らには資金援助も行う。ワールドトライアウトには「チャンスがある」と選手たちが思えるか――。清原氏という「追い風」を受け、加治佐CEOが表情を引き締めて言った。「2年目が非常に大事だと思っている」と。(小西亮 / Ryo Konishi)

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