「時代の断面」映し出す、6日から死刑囚表現展 執行3カ月前に届いた短歌や絵画も

By 竹田昌弘

 死刑執行の約3カ月前、「ビバ・ラ・ビーダ(生きているっていいね)」と詠んだ短歌、容赦なく体中に切り込みを入れた自画像、刺青(いれずみ)の絵を組み立てて仕立てる服-。死刑囚が拘置施設内で制作した絵画や工作物などを展示した「第15回死刑囚表現展」が12月6~8日、東京都内で開かれる。死刑囚の作品からは、彼らの心理にとどまらず、時代の断面も伝わってくる。(共同通信編集委員=竹田昌弘) 

庄子幸一元死刑囚の絵画「果て」

■被害者に届かぬ後悔、謝罪を詠む? 

 表現展には、死刑囚14人から絵画計約90点や、合わせると100点を超える死刑囚19人の文芸作品などが寄せられた。今回はこのうち絵画などを中心に展示する。 

 表現展の事務局によると、8月2日に東京拘置所で刑を執行された庄子幸一元死刑囚=当時(64)=は4月28日の日付で、短歌や詩、絵画を送ってきた。神奈川県大和市で2001年、女性2人を殺害し、強盗殺人罪などで死刑囚となり、ペンネームは「響野湾子」だった。短歌の「噛(か)み砕く2錠の痛み止めなれど 次々過ぎる悔痛(いた)み湧く胸」や「罪悪深き底方(そこい)の井の中で 詫(わ)びの届かぬ歌ばかり書く」は、自らの罪を悔いる気持ちも、この世にいない被害者にわびる思いも、届かないことを詠んでいるようだ。 

庄子幸一元死刑囚の短歌

 表現展では、死刑囚が応募した作品を評論家の太田昌国さん、作家の加賀乙彦さん、アートディレクターの北川フラムさん、映画監督の坂上香さんら7人が審査し、講評してきた。庄子元死刑囚の「詩句作り選者と触れむ空間に 今生きているビバ・ラ・ビーダ」は、刑の執行を予想し、作品を応募すれば審査員が意見を述べてくれる表現展が生きがいになっていたことを最期に伝えているのだろうか。 

 またそれぞれ「混乱」「不安定な眠り」「果て」「夢輝」とタイトルが付けられた庄子元死刑囚の絵画4点を見て、北川さんは「透明感があり、スウッとしている」と感想を述べたという。 

■「お望み通り死にますよ」 

 審査の結果、優れた作品は「〇〇賞」としてたたえる。庄子元死刑囚の絵画が「明鏡止水賞」、短歌や詩は「鼓動賞」に決まったほか、7人が殺された秋葉原無差別殺傷事件(08年)の加藤智大死刑囚(37)が描いた絵画が「アニマ(霊魂)程近し賞」、福岡県大牟田市の母子ら4人殺害事件(04年)で死刑が確定した井上(旧姓北村)孝紘死刑囚(35)が寄せた刺青の服は「新境地賞」などとなった。 

加藤智大死刑囚の「メルシー原正志」

 加藤死刑囚の作品は「メルシー原正志」。表現展に例年、裸婦像と政治的、社会的メッセージが入り交じった作品を応募してきた原(旧姓竹本)正志死刑囚(62)にエールを送る作品とみられる。加藤死刑囚は自分の作品に対する講評に「言論で僕を殺した貴方(あなた)には死刑廃止を説く資格なし」と大書した紙を送り付けたこともあり、挑戦的な作品が多い。原死刑囚はどちらも02年に起きた北九州市の殺人、放火と大分県宇佐市の保険金目的替え玉殺人で死刑が確定した。 

 絵画だけでなく、加藤死刑囚は文芸作品も送ってきた。その中の題名のない詩では「僕の心に親が残した/しつけと称する暴力の傷/それを語れば人のせいにするなと責められ/そこを避ければ己から逃げるなと責められ/どちらにしても責められるとは/生きていることが悪いのか/お望み通り死にますよ/じゃあね」とつづっている。 

井上孝紘死刑囚の「刺青入りの服」

■封筒組み立て刺青入りの服、体中切り込み入れた自画像

 一方、井上死刑囚の作品は、さまざまな大きさの茶封筒に丹念に描かれた刺青の絵を、指示書通りに組み立てると、できあがる「刺青入りの服」。高さは90センチほど。レベルの高い作品であり、これを制約ばかりの拘置所の中で制作したことに驚かされる。 

西口宗宏死刑囚の絵画「A SELF」

 賞は逃したが、西口宗宏死刑囚(58)の自画像「A SELF」はインパクトが大きかった。体中に切り込みを入れることで、何を言いたいのだろうか。審査に当たった太田さんも「この人物はどんな事態に直面しているのだろう? 想像は尽きることがない」と語っている。西口死刑囚は2011年、堺市で象印マホービンの元副社長ら2人を殺害、金品を奪ったとして、強盗殺人罪などで死刑が確定した。16年の第12回から表現展い応募している。  

 太田さんは「多くの人にとって、死刑は他人事だろうが、どんな犯罪も、それが行われた時代の断面を映し出す。死刑囚の表現には、私たちに語り掛ける何かがあるはずだ」と話す。 

■死刑囚の母が残したお金で始まる 

 死刑囚表現展が始まったのは05年。連続企業爆破事件で死刑が確定した大道寺将司元死刑囚(17年5月に東京拘置所で病死)の母幸子さんが04年5月に亡くなり、残したお金は幸子さんが晩年取り組んだ死刑廃止運動に役立てることに。そこで表現展の運営費も使途の一つとなった。 

死刑囚表現展への資金援助を申し出た赤堀政夫さん。死刑廃止を呼び掛けたビデオメッセージから=撮影日時・場所は不明(提供写真)

 島田事件(1954年)で死刑囚とされ、再審で無罪が確定した赤堀政夫さん(90)からも、2014年に資金の提供があり、表現展の主催は「死刑廃止のための大道寺幸子・赤堀政夫基金」に変更されている。 

 第15回死刑囚表現展は12月6日午後1~7時、7日午前11時~午後7時、8日午前11時~午後5時。会場は東京都中央区入船1-7-1、松本治一郎記念会館5階会議室で。入場無料。7日午後5時から、太田さんのギャラリートークも予定されている。

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