『リンドグレーン』 児童文学者の若き日々を描き、女性の生き方問う

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 リンドグレーンの名前は、男の子よりも女の子になじみ深いだろう。『長くつ下のピッピ』『ロッタちゃん』シリーズなどで知られるスウェーデンの国民的な児童文学作家だ。彼女の伝記映画である本作もまた、かつて男の子だった男性よりも女性向け。伝記映画である以上に“女性映画”といえる。片田舎の信仰に厚い家庭で育った彼女が、10代で未婚の母となり、生涯の伴侶に巡り合うまでの若き日が描かれる。

 つまり本作は、リンドグレーンが作家になる前の話だが、途中に読者である子供たちの声が何度か差し挟まれる。ファンレターに入っていた録音テープを彼女が聞いているという体裁、一種の回想形式を採っているからで、冒頭と最後に晩年の彼女の後ろ姿が登場する。その際、冒頭ではカメラが少しずつ彼女に寄っていき、最後は逆に引いていく。それが本編の手持ちカメラによって動き続ける画面と呼応している。それ自体はうまいのだが、舞台の大半は1920年代。時代劇の画面が常に揺れているようなもので、そんなドキュメンタリー的な演出が果たして有効だったのかどうか。

 とはいえ、ヒロインが髪を切ればそれだけで映画になるし、自転車に乗って風を切れば画面は映画的な高揚感に満ちる。もちろん本作はコアな映画好きに向けた作品ではなく、あくまでも女性の生き方を問いかける女性映画。仕事と子育てを両立したい女性にとっても、サポートする男性にとっても示唆に富んでいる。★★★☆☆(外山真也)

監督:ペアニレ・フィシャー・クリステンセン

出演:アルバ・アウグスト、マリア・ボネヴィー

12月7日(土)から全国順次公開

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