遊星横町(植木雄人×星野概念×横山マサアキ×町田直隆)「10年ぶりにあの4人が集結した! 人生の通過点を切り取ったコンピレーションCDが完成!」

「ちゃんとやって」と念を押されて

──『Rooftop』での連載から10年後に、まさか「遊星横町」としてCDをリリースすることがあるなんて思ってもいなかったですよ。私はすでにロフトを退職していて、今回は当時の連載担当だったという縁でインタビュアーを務めさせていただきますが、このような形でみなさんと再会できるとは思っていなかったです。そもそもなぜこの4人で作品を作ることになったんですか?

横山:言い出しっぺは僕です。僕はこの数年、ちょこちょこ新曲は書いていたんですけど、音楽の現場からは少し遠ざかっていたんです。今年になってCDを作りたいという気持ちになったんですが、1人で作っても張り合いがないと思い、植木くんに「僕がAメロ作るからBメロ作ってくれない?」って連絡をしたのがきっかけです。

植木:「いいよ」って返事をしたら、昼夜関係なく仕事で営業に回っている時もメールがバンバン来るようになって(笑)。

横山:2人で8曲ぐらいできて、さらにもっとたくさんの人とCDを作ったら面白いんじゃないかと思い始め、遊星横町のメンバーに連絡をしたんです。みんな素晴らしいメロディ・メイカーであるということは信頼していたので、面白い音源になるのではないかと思っていました。

植木:正直な話、星野くんがこの企画に入ってくるのは内角低めのカーブを打つぐらい意外だった(笑)。今は精神科医として仕事をしていたり、執筆活動もやってるし、かなり忙しいじゃない?

星野:そういう活動もあるけれど、だからやりませんとかおかしいでしょ(笑)。僕は以前やっていたストライカーズが活動休止になって、DOMINO'88のkeyossieさんとJOYZというユニットでアルバムを作ったり、一緒にラジオをやっていたポカスカジャンのタマ伸也さんと曲を作ったり、バンドの休止以降全部で60曲ぐらい作っていたんです。でも音源は作っていなくて、今回横チン(横山)さんに声をかけてもらった時に、久々に音源が出せるというワクワク感はすごくありましたよ。

植木:このアルバムを作るにあたってみんなで集まったんですけど、20分ぐらいしか話す時間がなくて、アルバムの方向性も何も分からなかったんです。

──ということは、曲は自由に作ったということですか?

星野:そうです。ストライカーズみたいなバンド・サウンドでやるべきかと最初は思ったんですけど、僕はもともとコーラスが好きだったので、今自分が興味のある曲を出そうと思って。だから曲作りはすごく楽しかったです。

町田:僕はみんなで集まるまでは、言い方が難しいですが、ふざけたノリだと思っていたんですよ。でも、横チンから「マッチー、ちゃんとやって」ってすごい念を押されて、マジだなって思って(笑)。だから、ふざけた感じの曲を作るつもりでいたけれど、やめて真面目に曲を書きました。

植木:けっこう様子見したでしょ。

町田:まあ(笑)。本当はバンド・サウンドでやりたかったんだけど、メンバーを集めるのが大変だし、同時期に自分のアルバムもレコーディングして予算を使い切っていたから、もう一度バンドでレコーディングに入るのは予算的に厳しかったんですよ。それで、これを機に宅録で自分でやってみようって始めたら、どんどん凝ってしまい、機材を買ったりして結果的にバンドでスタジオに入るのと変わらないぐらいになっちゃった。『激戦区2020』の制作をきっかけに宅録にチャレンジできたし、すごく良い機会をもらえたなと思ってます。

──町田さんの「リバース・エッジ」(M-4)は、歌詞も膨大だし、曲調もラップみたいな感じで、町田さんにしてはこれまでにあまりない感じでしたね。

町田:1曲はラップをやってみたいと思ってやってみたんです。結果的にはちっともラップにならなくて、ただの語りになっちゃった(笑)。でもこれがラップだと言い張ろうと思って。その曲は作っていて楽しかったですよ。もう1曲の「フライウィズミー」(M-8)は王道みたいな曲。横チンに「しっかりやって」と念を押されたのもあって、町田印を分かりやすくしてみました。アコースティック調で行こうと思ったけど、サウンド的に星野くんと被っちゃったかなと思い、王道サウンドにしました。でも、それぞれの個性が全然違う感じになったかなと。

──3人の方は曲作りはどうでしたか?

植木:遊星横町の連載をしていた10年ぐらい前は「植木遊人」という名前で活動をしていたんですけど、活動をやり切っちゃって、本名で音楽を始めてアルバムを1枚リリースしました。今回CDに入れている曲は、植木雄人がやりたい音楽をやったという感じですね。10年経って真面目にやろうかなみたいな。「摩天楼」(M-1)は、電影と少年CQというアイドルに提供した曲で、タイトルと歌詞が違うセルフカバーです。その子たちをイメージして書いたボーイミーツガール系の曲で、良くできたので今回自分の作品として入れています。「亜熱帯気候」(M-5)は、リアリティがある歌を作りました。

横山:僕は「オーライ/サティスファイ」(M-3)も「粋にゴーナウ」(M-7)も曲が短いんですよ。あまり長いと自分が飽きてしまうので、子どもも分かるような、なるべく短く分かりやすい曲を心がけました。でも、みんな曲は分かりやすいと思いますよ。それぞれ、ここ10年ぐらいの4人の行ないがそのまま出ている感じ。

町田:現況報告みたいな。

植木:星野くんの曲は特にそれを感じたね。

横山:問診されてるみたいだったよ。

星野:どういうことですか?

町田:「平熱大陸」(M-2)の歌詞の、「適度な体温保ち続けること 手洗いうがいは当たり前のこと 休養や栄養がとても大切なこと」ってね。切り口が医者だよね。

星野:連載をやっていた10年前も医者だったんだけどね(苦笑)。

横山:今の歌詞のほうが地に足がついてる感じはありますね。

星野:10年前は夢を見続けたいみたいな歌詞だったかな。

横山:今は現実感がある。おさまったみたいな感じはありましたよ。

人間交差点のようなコンピレーション

──お互い途中経過を聴かせ合ったりはしたんですか?

植木:横チンの曲は早かったから聴いていたよね。

横山:僕は曲ができあがっていたのを収録したいと思ってみんなに話をしたから、早い段階で聴いてもらっていました。言い出しっぺだし、最初にどんな方向でやっているか聴いてもらったほうが分かりやすいと思ったので。3人は打ち合わせ後から曲を作り始めたという感じですね。

──4人で1曲作ろうというのはなかったんですか?

横山:みんなで何かを作るというのはなかったですね。無理やり企画みたいにして曲を作るよりも、それぞれやりたいことを見せる。それで、またそれぞれの道に帰っていけばいいだけの話。この10年間の音楽のやり方、人生のやり方、いろんな経験を経て培ってきたものを確認するための通過点じゃないですけど、ここでいろいろ確認をして、またこの先の10年をそれぞれのフィールドで生きていくという。そんな人間交差点のようなコンピレーション。ずっとリリースできてなかったという星野くんが音源を作るきっかけになれたなら、声をかけて良かったと思えるし。

植木:60曲も作ってたんでしょ? すごいね。

星野:ダジャレだけで作った失恋ソングとか、2分半の曲で早口なんだけど唄い切るとビタミンの効能を全部覚えられる曲とか。歌詞に医者の要素が増えてきたね。

──それも聴いてみたいですね。

植木:星野くんはこの10年間何してきたの?

星野:7年前ぐらいに医者をちゃんとやろうと思って、毎日病院で働くようになったんです。

横山:いとうせいこうさんと本(※2018年2月に発売された『ラブという薬』)を出したり、執筆業も盛んで。

──とても読み応えのある本でした。

星野:書き物は増えましたね。webコラムとかもやらせてもらってます。だからそのぶん音源を出すという動きがなかなかできなかったんです。書き物とかは病院の部屋でできるし、部屋にはギターも置いてあるんだけど、音源をリリースするというモードはまた違うじゃないですか。1人で完結できるものではないから、すごくいい機会でした。

──それぞれ曲作りはどなたかにサポートで入ってもらったんですか?

植木:タカユキカトーくんという優れたエンジニアと作業をしています。僕が言ったものを形にしてくれる人。あと、つるうちはなちゃん夫妻。つるうちはなちゃんは僕の音楽人生で欠かすことができなくて、「亜熱帯気候」で参加してもらってます。素晴らしいメンバーに恵まれているなと思いました。

横山:音符的なクオリティが高いし、多層的な音楽だなと思いましたよ。

植木:自分が作るメロディに自分の技量が追いつかなくて。でもやりたいと思うことが多いんですよ。

横山:今は周りの体制と曲の相性がいいんじゃないかと思います。理解者がちゃんと仕上げてくれる感じがありましたね。

──星野さんはコーラスに青木拓磨さんを迎えて。

星野:青木さんとは発声の話をよくしていたから、コーラスをやるなら青木さんがいいなと思っていたんです。他にもトランペット奏者の三浦千明さんやフラメンコ・ギタリストの今泉仁誠さんと一緒に作っています。今回の作品は僕と今泉仁誠さんはギターだから、リズム隊がいないんです。そこを割り切ってやってみるのも面白いんじゃないかと思っています。

──横山さんは?

横山:僕はドラムに山田タケシ(テルスター)だけだね。

星野:ドラムを山田さんにお願いするのは必須なんですね。

横山:やっぱり話が早いよね。テルスターで20年以上一緒にやってるから、意思疎通がしやすい。

町田:僕は全部1人で。機材を覚えるところから始めたけれど、やっぱりいちからやると時間がかかりますね。最初から誰かにお願いしたほうが早かったなと思います。

──これからもそのやり方でやってみようとは?

町田:もういいかな(笑)。面白かったですけど。

──じゃあ、貴重な音源になりますね。

町田:宅録とは言え、結果的にバンド・サウンドっぽいものを作ったので、それなら生バンドでやったほうが頭の中にあるものは表現できたかなと思います。でも、やってみないと分からないから、ひとつの方向性としてやれたのはいいかな。

──これが12月31日にリリースされるんですよね。

横山:通販のみで12月から予約を受けて、年内に届くようにしたいと思っています。

次の作品を作る自信になった

──SNSでは遊星横町でCDをリリースするという告知をしていましたが、お客さんから反応ってありました?

植木:「いいね」がたくさん付きましたよ。普段のツイートでは全然付かないのに(笑)。

横山:僕も反応ありました。マッチーは何か言われた?

町田:「横チンさんが音楽活動をやる気になってくれて嬉しいんだけど、なんでテルスターじゃないんですか?」とは言われた(笑)。

横山:そこはね。もう少しお待ちください。

──遊星横町を覚えてくれていた方がたくさんいらっしゃったんですね。

町田:「当時読んでました。懐かしいです」ってリプライもありましたよ。

横山:自分たちの活動を楽しみにしてくれている人がいるというのはありがたいし、それが今回分かったから、次の作品を作っていく自信になりますね。

──次の作品というのは、遊星横町のですか!?

横山:それぞれの活動の、ですね。

星野:コンピの2枚目の話だったら驚くよね(笑)。

横山:コンピで次を出すなら、また10年後ですね。もしかしたら、この先の10年でいろいろなことを経験して、全く違う音楽をやっているかもしれないし、楽しみですね。ここからまたそれぞれの人生が動いて。

植木:今を大事にってよく言うけど、昔はケッと思ったことが最近すごく沁みてくるんだよね。

横山:年を取ると、植木くんもこういうことを言うようになるんですよ(笑)。

──ところで、今回遊星横町でCDをリリースするという話を聞いて、もしかしたら必要になるかもしれないと思い、みなさんがヴィジュアル系バンドとして池袋サイバーで行なった時のライブ音源を探したんですよ。聴きました?

星野:聴いてないです。

──何日にもわたって家中を探したのに?(笑)

星野:送られてきたファイルのタイトルが「壊-BREAK-」と書いてあって、いろいろ思い出されて怖くて聴けてない。酒呑みながらじゃないと聴けない(笑)。

──ライブ中もご丁寧に「壊れると書いて『BREAK』という曲です」と曲紹介していました。

植木:僕は聴きましたよ。あのライブの時にキャーキャー言ってた人たちはどこに行っちゃったんだろうね(笑)。

──たくさんのお客さんが見に来てくださいましたよね。この音源が2月26日にネイキッドロフトで行なわれるイベントで聴けるのか、何かしらは考えているそうですが。

横山:イベントに参加してくれた方にライブの音源をプレゼントでもいいかなと思ってます。

町田:おみやげがあったほうが嬉しいですからね。

──ネイキッドロフトでのイベントはどんな内容で考えているんですか?

横山:トークと、アコースティックのライブをやる感じにしようと思っています。

星野:青木さんとか呼んでもいいですか?

横山:いいですよ。ゲストを連れてきたり自由にやりましょうよ。

僕らを知ってるつもりになっている人に聴いてもらいたい

──アルバム・タイトルは『激戦区2020〜わたしたちの盤です〜』ですけど、このタイトルになったのは?

横山:4人ともそれぞれ個性があるラーメン屋みたいだったから。「ラーメン激戦区」をイメージして付けたんですよ。

──横山さん、自分たちの活動をラーメン屋に例えるの好きですよね。昔のインタビューでもありましたよ(笑)。「激戦区」ということは、みんながライバルというイメージですか?

植木:そうですね。みんな同期だからライバルですよ。あと少しで売れそうで売れなかったというか。

──この何年もの間、刺激を受け合いながら切磋琢磨している感じはありますね。みなさん20年以上音楽に携わっていて、そういう人たちが一緒に1枚の作品を出すのは面白いことだと思います。仲良しこよしだけで1枚になったわけでもないというのも分かりましたし。

植木:聴いてもらいたいですよね。僕らのことを知ってるつもりになっている人にも聴いてもらいたい。

星野:僕は今年、本厄なんです。植木くんもマッチーも同い年なので本厄だと思うんですけど、厄年ってどういう年かというのを調べて一番しっくり来たのが、人生も折り返したなと感じることが多くなる年らしいんです。それが僕の場合は、その人生の折り返しで、ずっと出してなかった音源を出せるのですごく感慨深いんですよ。

横山:4人に接点があって、そのタイミングでうまく2019年の年末を切り取ったドキュメントという感じ。ぜひ今後もそれぞれに注目していただきたいです。

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