全21戦で入賞、安定した強さで2019年シーズンを完全走破したハミルトン【今宮純のF1アブダビGP分析】

 2019年F1最終戦アブダビGPは、メルセデスのルイス・ハミルトンがポール・トゥ・ウィンを達成。6冠王者はライバルを寄せ付けることなく圧巻の走りを見せつけた。F1ジャーナリストの今宮純氏が週末のアブダビGPを振り返る。
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 長き21戦シリーズ、1262周を“完全走破”したハミルトンに今年最後のチェッカーフラッグが振られた。勝利やPP獲得数もさることながら6381kmを走り切り(地球1周距離は約4万km)、王者はすべて入賞ゴールを重ねた。この最長不倒記録こそ今年彼が創った数々の記録のうち、もっとも価値があるものではないか。

 2018年から33戦連続入賞は自己最高タイ記録、アブダビGPがこの間の19勝目となる。6冠王者は狙っていたかのように10戦ぶりのPPを決め、スタートから55周リードを奪い、53周目には最速ラップも叩きだした(27周したハードタイヤで)。最終戦フィナーレに「全部獲ってみせる」と、ハミルトンは本能をむき出しにしたように見えた。

 アブダビGP前までPPが今年はたった4回、これは12年シーズン以前までさかのぼる少なさ。だからこそ意地でもPPを獲るという意欲があったにちがいない。相対的に見てフェラーリ勢はセクター3が鈍く、レッドブル・ホンダのマックス・フェルスタッペンもそこがもうひとつ。となるとボッタスの存在が“仮想敵”になる。

2019年F1第21戦アブダビGP 予選3番手のマックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)とポールポジションのルイス・ハミルトン(メルセデス)

 ボッタスはアブダビGPで2度パワーユニット・エレメントを交換、最後尾グリッドが決定していた。だがそれに対応した追撃レース・ペースを意識するセッティングを試みないままでいた。個人的に感じたのは、あえてPU交換したのは2020年仕様を実戦テストする思惑もあり、ハミルトンのマイレッジを重ねたオールドPUと比較する意図もチームにあったのではないか。

 フレッシュPUを得たボッタスはQ1からQ3もフルアタック。通常ならそこまでやらずQ2で引き下がるのにプッシュした。しかしその結果はハミルトンが0.194秒差でPP、走り込んでいるパワーユニットで3セクターともボッタスを上回った。セクタースピードはボッタスの方が速かったが、ハミルトンはリズミカルなコーナーワークの切れを見せつけたのだ。

 獲るべくして決めた88回目のPPに、「まるで初めて獲ったような気分がする」と言った王者。その裏にはフレッシュPUのチームメイトに優った実感が込められているようにも感じとれた。34歳にして<初心忘るべからず>、いまやベテランの彼ならではの言葉だ。

 スタートから飛び出ると1周目1.681秒、2周目2.002秒、3周目2.771秒、2番手シャルル・ルクレール(フェラーリ)を瞬く間にリードしていった。以前のようなハミルトン・スタイルを思い出させた。すると技術的問題のため全車DRS機能が使えない事態が発生、独走パターンに持ち込むリーダーはさらにギャップを広げ、燃費もタイヤもしっかりマネージメント。ほぼ半分の26周をミディアムタイヤでカバーし、ハードに変えてからは1分42秒台でひた走った。

 09年アブダビGP初年度に勝ったセバスチャン・ベッテルの最速ラップ1分40秒279が、10年間破られずにいた。ハミルトンはその記録を狙った。52周目より一気に2.810秒アップ、1分39秒283を53周目にたたき出す。これ以上に完璧な締めくくりはない。387点+25点+1点=413点、昨年の408点を超えた(今季最速ラップ加点が6点)。

──2014年アブダビGP最終戦から6シーズンにハミルトンは4勝してきている。シリーズ最後の夜を華々しく、圧倒する速さで飾れ、王者は安らぎをみつけたような表情を表彰台で見せた。両脇にいる2位フェルスタッペン、3位ルクレールとそろってシャンパン・ボトルで乾杯、『ルイス・ハミルトン・ショー』の幕は下りた――。 

2019年F1最終戦アブダビGP ルイス・ハミルトン(メルセデス)
2019年F1最終戦アブダビGP ルイス・ハミルトン(メルセデス)

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