天体観測 100年の時超え/八戸の天文家・前原寅吉の望遠鏡/子孫ら「同じ月見られて感動」

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八戸市で3日、前原寅吉の望遠鏡で月を観測する家族や専門家ら。
望遠鏡からのぞいた月はクレーターも確認できた=同日午後5時42分

 寅吉の天体望遠鏡が100年ぶりに復活-。世界で初めて太陽面を通過するハレー彗星(すいせい)の観測に成功した青森県八戸市のアマチュア天文家・前原寅吉(1872~1950年)が使用していた望遠鏡で、子孫らが2、3の両日、約1世紀の時を超えて天体観測を行った。同市で月を観測した、寅吉のひ孫で同市の宝飾・時計店マエバラの前原俊彦社長(60)は「寅吉が見ていた月と同じものを見ていると思うと感動する」と喜んだ。

 観測は、寅吉に関する調査のため2日から同市を訪れている専門家ら6人とともに行われた。望遠鏡は現在、同市中心街の「はっち」に展示されており、これまでも前原家が保存していたが、家族らもこの望遠鏡で観測を行ったことはなかったという。

 3日夜、冷たい風が吹く中、雲の切れるのを待って寅吉の子孫や専門家らが順番に望遠鏡をのぞいた。保存状態がよく、月のクレーターまで鮮明に見ることができた。寅吉の孫の妻にあたる前原紀子さん(84)は「こんな日が来るなんて思ってもみなかった」と感激。俊彦さんの姉江森葉子さん(62)は「はっきり見える」と驚き「昔は押し入れに入っていた気がするが、保存にはかえってよかったのかもしれない」と笑顔を見せた。

 寅吉は、自ら興した前原時計店を営むかたわら、独学で天文分野を研究。飢饉(ききん)で苦しむ地域を救いたいという思いがあったという。1905年に太陽黒点の観測に成功し、1910年にはハレー彗星をとらえた。自宅の物干し台に天体望遠鏡を取り付けて観測していたとされる。学会では認められなかったが、太陽面を通過するハレー彗星を世界で初めて観測したとして脚光を浴び、40代で失明した後も口述で論文を発表し続けた。その後、望遠鏡は使用されずに保管されていたとみられる。

 著名な天体写真家で、寅吉が残した論文集や写真など一連の記録の本格的な調査のため同市を訪れている藤井旭さんは「約100年ぶりの観測ということで、私たちも感動している。きれいな状態で保存されていたことがよかった」と語った。藤井さんらの尽力で、2018年に小惑星「(20080)Maeharatorakichi(マエハラトラキチ)」が誕生している。